5ヵ月で80人 金正恩が「処刑連発」する理由
「シャワーも出ないのか! 実に気分が悪い。大変失望した」
6月に入り工場視察を続ける金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長(35)は、イラつきを隠そうとしない。施設の不備を見つけては不満をブチまけたという。「コリア・レポート」編集長の辺真一(ピョンジンイル)氏が話す。
「自らが進める経済政策に、実態が追いついていない。笛吹けども踊らず状態に怒りを爆発させているんです」
北朝鮮が追い込まれている。国連の制裁が長引き、経済成長率はマイナス3~4%。空前の食糧危機で、国連世界食糧計画によると今年中に300万人以上が餓死するとされる。朝鮮半島情勢に詳しい、大阪市立大学大学院・朴一(パクイル)教授が語る。
「優遇されるべき兵士にも食糧が届かない状況です。その結果、軍部の忠誠心が低下し人民の不満は高まっている。以前は”敵国”アメリカを牽制することで国内の不満をそらしてきましたが、米朝首脳会談のテーブルについた以上もう通用しない。ロシアや中国に援助を頼んでも冷たい反応。残るは人民を締めつけ、統制経済を進めていくしかないんです」
上向かない経済のために不満を募らせる金正恩氏は、工場長など現場責任者の処刑を連発している。韓国のシンクタンク・統一研究院が発行する「北朝鮮人権白書」によると、昨年の処刑政治犯は約80人。今年はすでに、犠牲者がほぼ同数に達しているというのだ。
「金正恩は残忍な処刑を見せることで人民を震え上がらせ、反発できないようにしているんです」(前出・朴氏)
5月31日付の韓国紙「朝鮮日報」は、2月末の米朝首脳会談決裂を受け北朝鮮高官が粛清されたと報道。対米特別代表の要職にあった人物が銃殺され、金正恩氏の信頼が厚い妹の金与正(キムヨジョン)氏も謹慎処分になったと報じた。数日後に彼らの生存は確認されたが、状況は深刻だ。
「金正恩の恐怖政治は、まったく変わっていません。むしろ経済が立ち行かなくなり、粛清はさらにひどくなると思います。責任を転嫁された現場監督は、片っ端から処刑されています」(同前)
恐怖政治の行きつく先が、体制の崩壊であることは歴史が証明している。

『FRIDAY』2019年6月21日号より
写真:KNS/KCNA/AFP/アフロ