公判で語られた「マザコン殺人」の全貌と共依存親子の勝手な言い分

傍聴ライター・高橋ユキが事件の真相をレポート

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昨年3月、茨城県取手市にある民家の敷地内で、弥谷(やたに)麻衣子さん(30=当時)の遺体が発見された事件で、麻衣子さんに対する殺人と死体遺棄の罪に問われた夫の元銀行員、弥谷鷹仁被告(37)と、殺人幇助と死体遺棄の罪に問われた鷹仁被告の母、恵美被告(64)に対する裁判員裁判が6月12日、千葉地裁で開かれ、岡部豪裁判長は鷹仁被告に懲役15年(求刑懲役17年)、恵美被告に求刑を上回る懲役7年(求刑懲役6年)の判決をそれぞれ言い渡した。

きらぼし銀行では中小企業融資を担当していた鷹仁容疑者。同行HPより

5月22日に開かれた初公判の罪状認否において、鷹仁被告は起訴事実を認め、美恵被告は「手助けするつもりはなかった」と殺人幇助については否認していた。

判決によると、鷹仁被告は昨年3月4日、千葉県柏市内の自宅内で、麻衣子さんに睡眠導入剤を混ぜたカレーを食べさせ眠らせた上、車に移し、自身の両手と延長コードを使って首を絞めて殺害。その遺体を茨城県取手市内の実家敷地に埋めた。一方の恵美被告は、遺体を埋める場所として実家の敷地を提案したり、殺害の前に鷹仁被告とともに遺棄のための穴を掘るなどして犯行を手助けした。

恵美容疑者は取手市内でピザ屋を開いていた過去も。フェイスブックより

これまでの公判で、鷹仁、恵美被告両名は、おのおの動機や麻衣子さんへの思いを語っていた。とくに殺害に至った動機について鷹仁被告は、5月29日に開かれた第4回公判、被告人質問においてこう述べた。

「子供が殺されると思い、守るためだった」

夫婦には2016年9月に娘が産まれているが、麻衣子さんはその後「強迫性障害」と診断され、潔癖症の症状なども現れていた。その影響からか、鷹仁被告は、麻衣子さんから「ルール」を課せられており、それを守らないと暴力を受けていたと主張。

その「ルール」とは以下のようなものだ。

・わりばしで電気をつける

・ゴミ箱、トイレ、ドアノブを触る際はポリ手袋を使用

またある日は、ビジネスバッグを触ってから食器棚に触れたため、食器棚を30分以上拭かされ、会社に遅刻したとも語っていた。加えて鷹仁被告は、麻衣子さんには“育児ノイローゼのような症状”も見られたと、次のような具体例を挙げた。

・授乳中、娘を胸に押し付け「なぜ飲まない」と怒鳴った

・仕事中に妻から電話があり「娘を見るのが嫌だ、すぐ帰ってこなかったら娘がどうなるか分からない」と言った

・子供をベッドのマットレスに投げた

鷹仁被告の公判での言い分は「妻からの暴力や強制が続き、それが子供にも向かったため、子供を守ろうとした」というものだったが、判決でそれらは一蹴された。

「長女の世話をしていた麻衣子さんの母は『孫に怪我はなく、娘が暴力を振るっているところも見たことがない』と述べており、鷹仁被告以外に、長女に危険が迫っていると考えていた者はいない。また被害者が『強迫性障害』を罹患したことに関し、なんら落ち度はなく、鷹仁被告も被害者に暴力を加えていた」(判決より)

実際、麻衣子さんは通院していた病院の医師にも「夫が殴る、私も殴る」と話していた。また、裁判所は、法廷で鷹仁被告が訴えたほどに、麻衣子さんから一方的な暴力を受けていたわけでなく、また長女にも差し迫った危険は見られなかったと指摘。その上で「妻を殺して排除すれば、長女の親権も得られると計画を練り上げた」と認定された。

たしかに事件は突発的に起こったものではなく、綿密な計画のもとに実行されている。そこには鷹仁被告の妻に対する愛情や犯行へのためらいは一片も見られない。鷹仁被告が母親の恵美被告に「殺すことを考えている」と打ち明けたのは昨年2月12日。当初は「業務用冷凍庫を使い、水難事故を装う計画」(通称:水難計画)を立て、恵美被告に業務用冷凍庫の購入を依頼していた。

「お金置いとくので、粛々となる早で棺桶よろしく」

これは水難計画を実行しようとしていた時期の鷹仁被告から恵美被告へのLINEの一文だ。「棺桶」は、麻衣子さんを殺害するために用いるつもりだった業務用冷凍庫を指している。

鷹仁被告と恵美被告は、事件前も事件後も、頻繁にLINEでやり取りを重ねていた。殺害の綿密な計画については、鷹仁被告の弟の会社名義で借りていた倉庫に「手紙」を置くことで意思の疎通をはかり、LINEは事件後に母子で落ち合い“危なそう”なやり取りを削除している。

“粛々となる早で”進めるはずの水難計画だったが「長女を危険にさらすことになる」とその計画の不備を恵美被告に指摘され、これを一旦は取りやめた。だが鷹仁被告はすぐに別の計画を考え始めたのである。それが通称「行方不明計画」、本件犯行だ。ここから求刑を超える判決を言い渡された恵美被告が暗躍する。

鷹仁被告は麻衣子さんの遺体を埋める場所として適切な物件を探すよう恵美被告に依頼していた。「弟の会社の保養地として購入すればよい」とも伝えていたが、恵美被告は2月下旬、鷹仁被告の実家でもある恵美被告の自宅を埋める場所として提案。鷹仁被告もこれを了承した。

麻衣子さんの遺体は取手市内の閑静な住宅地にある実家に埋められていた

殺害方法を聞いた後は「頚動脈は苦しまなくていい、喉仏は苦しむ」と絞殺のアドバイスも。さらに恵美被告は鷹仁被告の依頼を受け、ショベルなど埋めるための道具を準備。事件2日前の3月2日に夫が不在になることを鷹仁被告に伝え、その日に二人で穴を掘った。掘り終わった後、恵美被告は鷹仁被告の汗を吹き、麦茶を提供するなどしたという。

「おかんは悪魔にでもなる いつもたかちゃんの味方だよ」

「たかちゃんのためなら なんでもやるよ」

計画を練り上げるあいだにも、鷹仁被告に対してこうLINEを送り続けていた恵美被告に裁判所は、「実行行為の可能性を認識していた」と殺人幇助を認め、次のような厳しい評価を下した。

「『行方不明計画』は、死体を発見されてはならない。遺棄場所が見つからなければ鷹仁被告は計画に着手できなかった。場所を見つけることと実行行為は表裏一体。恵美被告による自宅の提供がブレイクスルーとなり、心理的なハードルを突破した」

「ただ一人、親として冷静な観点から息子を正す立場であったのに、個人的な動機から悪感情を抱き、弥谷家の利益を優先する恵美被告の行動は非難を免れない」(判決より)

ここでがっくりと恵美被告は頭を下げた。母子密着状態のまま計画を実行した鷹仁被告もこう断罪されている。

「事件翌月の4月からは、麻衣子さんの実母が仕事を辞め育児のサポートに入ってくれる予定であり、これを鷹仁被告も知っていた。事態は快方に向かっていた。離婚するなど他に解決策があったが、短絡的に殺害した。殺人と他の手段を同列にしてメリットとデメリットを検討し、人の命を軽んじている」(同)

弁護人席の前列に鷹仁被告、後列に恵美被告が座り、無表情で判決言い渡しを聞いていたが、その横顔はやはり親子、しっかりした鼻筋と、キュッと結んだ口元がよく似ていた。言い渡しが終わり、両被告が証言台の前に立った。閉廷かと思いきや「裁判所と裁判員からメッセージがあります」と、裁判長が二人に語りかけ始める。両被告は起立したままそれを聞いていた。まず恵美被告には、

「事件から1年半が経ったのに、当事者意識のかけらすらない弁解に終始し、自分に嘘をついている。親としてどう振る舞うことが期待されていたか、自分がやらなかったことは何か、その結果、鷹仁被告がどうなり、周囲はどんな思いになっているか……『今回の犯行に命をかけた』とあなたは鷹仁被告にLINEを送っているが、これからは償うことに人生をかけてください」

次に鷹仁被告に対して、こう語りかける。

「やっと授かった子供を思うように育てられず、一番苦しかったのは麻衣子さんです。あなたは麻衣子さんの不安や焦りを共有しようとしなかった。麻衣子さんの言動は『なぜわかってくれないの』というSOSであり、甘えだった。だからこそ、バレンタインにはチョコレートを作り、『強迫性障害』の飲み薬を控えて二人目の妊活に取り組んでいた。私たちでもわかるそのようなことを、夫のあなたはなぜわからなかったのか……。妻が夫に負担をかけるのは論外だと思っていたのでしょうが、夫婦とは一人で背負いきれない人生の苦難を共に担い、乗り越えるためのパートナーではないでしょうか……」

傍聴席からは、すすり泣きが聞こえてきたが、鷹仁被告は、無表情のまま被告席に戻っていった。閉廷後、恵美被告は、両目をタオルで押さえていた。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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