世界王者・22歳女子ボクサー 昼間は”フツーのOL”勤務風景
国内最速で王座を獲得した佐伯霞の「天然すぎる素顔」と「殴り合い」のギャップ
パソコンに向かって作業をする制服姿の女性。その素朴な笑顔を見ると、どこにでもいる”フツーのOL”としか思えないが、実はこの女性、只者ではない。
佐伯霞(かすみ)(22)。今年4月27日に行われた試合でメキシコのエリザべス・ロペスを下し、WBO女子世界ミニマム級チャンピオンとなった、女子ボクシング界のニューヒロインである。プロデビューから4戦目での世界王座獲得は、男女通じて国内最速記録だ。
「誰よりも強くなりたい。とにかくそう思って練習に取り組んできました」
そう笑う佐伯がボクシングを始めたのは、中学1年生のときだ。2年足らずで世界ジュニアの金メダルに輝き、以来、3度もアマチュアで世界の頂点に立っている。
「両親はフツーの女の子として育ってほしかったみたいで、8年間もピアノ教室に通っていました。でも、私は鍵盤よりグローブのほうが好きで(笑)。近畿大学に進学したんですが、もっと上の舞台で勝負がしたくて、3年で中退してプロになりました。両親は大反対でしたけどね」
佐伯が所属しているのは、兵庫県神戸市の「真正ボクシングジム」。元世界3階級王者の長谷川穂積も在籍した名門だ。彼女は現在、大阪市内の不動産会社「日商エステム」の社員でもあるが、この会社に就職したのも、真正ジムの山下正人会長のツテがあったからだという。
「『日商エステム』の社長と山下会長が知り合いで、以前からジムの選手を応援していたんです。その縁で、私みたいなボクシングしか知らない小娘を雇ってくれた。女子ボクシングはまだまだマイナー競技で、ほとんどの選手がコンビニとかでアルバイトをしながら必死に競技を続けている。それを考えると、私はホントに恵まれています」
仕事はマンション管理部門での一般事務。午前中だけ勤務をし、その後は電車で2時間かけて毎日ジムに通っている。就職して1年程度だが、世界タイトルを取ってからは、同僚から「最強の女子社員」と称えられるという。
「性格が天然らしくて、会社でもよく変なことを言って笑われています。でも試合になると人が変わったように激しく殴り合うので、『ギャップがすごすぎる』と周りから言われますね(笑)。私をサポートしてくれる社員の皆さんのためにも、何度も防衛して喜んでもらいたいと思っています」
’20年の東京五輪で、女子ボクシングは正式種目として採用されている。その圧倒的な強さを見ると、オリンピックでの金メダルを期待してしまうが。
「五輪の最軽量クラスは51㎏。私がタイトルを取ったミニマムは47.6㎏ですから、3㎏体重を増やさないといけない。これはかなり厳しいので、五輪についてはまだ何とも……」
普段はどこまでも謙虚で控えめな22歳。しかしリングに立てば、誰よりも強い。佐伯霞のギャップに萌えるファンは、今後ますます増えそうだ。
『FRIDAY』2019年6月28日号より
- 撮影:三好健志、加藤慶(3枚目)