『100円からの投資』。貯金箱より儲かる? 損はしないのか?
初心者のための「少額投資」入門講座
最近、新聞などで話題になっている『100円からの投資』。これは、2018年1月に始まった「つみたてNISA(積立型少額投資非課税制度)」を利用した「積立型の投資信託(以下、積立投信)」のこと。現在、100万口座を超えたとみられ、20~30歳代の割合は利用者全体の約4割に達するらしい。
よく、「投資に失敗して一文無しに」などと聞くが、少額とはいえ、損をすることはないのだろうか。毎月100円を投資して儲かるのか? そんな気になることをファイナンシャルプランナーの大石泉氏に聞いてみた。
そもそも「積立投信」って?
「積立投信」とは、簡単に言うと、毎月(隔週、毎週)決まった金額を証券会社に積み立てると、そのお金を使い、プロが投資・運用してくれて、その成果(儲かったお金)が投資額に応じて、分配される仕組みの金融商品のこと。
通常、その分配された(儲かった)お金には“課税(20.315%・復興特別所得税含む)”される。しかし、年間積み立てた金額(投資枠)が40万円までなら、“非課税”(20年間)になるのが「つみたてNISA」という制度。
2018年1月に誕生したこの制度により、少額からの長期、積立、分散投資について税金がかからずに行えることとなった。そのような背景もあり、誕生したのが『100円からの投資』という少額の「積立投信」だ。
「投資初心者にとって“少額の積立投信”は、投資デビューのハードルが低くなり、チャレンジしやすい仕立てとなっています。慣れてくれば、投資額を上げることもできますし、その他の投資も試したいと思うようになるのではないでしょうか。
無駄遣いしているお金などがあるならば、100円投資は、自分のための有益なお金の使い方と言えます。
各社とも、積立投信サービスにおいては『つみたてNISA』を想定していて、その対象は金融庁が『国民の安定的な資産形成のための長期の積立・分散投資』を目指した商品です。自身の投資の目的と目標に適うならば、『つみたてNISA』は優先して検討したい選択肢だと考えます」(大石さん 以下同)
どの証券会社も「100円からの投資」を扱っているのか?
「100円から投資できる証券会社は限定的です。SBI証券、楽天証券、マネックス証券、カブドットコム証券などでしょうか。ですが、1000円からの積立投信にすれば、野村証券やSMBC日興証券など、大手どころの証券会社も取引相手の対象になります。自分がどれくらいの投資額を考えているのか、どれくらいの結果を望むのかを考えてみて、『結局1000円くらいは投資しそうだ』となるならば、100円投資にこだわらず、選択肢を広げてみてもよいのではないでしょうか。
また、『毎月100円から』というところもあれば、たとえば、SBI証券のように毎日、毎週、毎月、隔月などと投資頻度を選べる証券会社もあります。比較検討して、自分に合ったところを選ぶといいでしょう」
注意したいのは、積立投信のすべてが「つみたてNISA」付きではないってこと。「つみたてNISA」でない積立投信は、儲かったお金に約20%課税され、さらに手数料などがかかることもある。
100円の積立投信で、どのくらい儲かる?
「投資の元本が少ないと、利回りは良くても、絶対額としての収益は少ないです。毎月100円ずつ投資すれば年間の投資額は1200円。すべて年利24%だったとしても、1月からスタートし、12月までの利益は156円です。日経新聞の朝刊も買えません。
ですが、貯金箱では156円の利益も生まれませんし、毎日100円ずつを10年続けると “複利効果(※1)”もあり、結果がついてきそうです」
少額でも、“時間を味方”につければ、けっこうな額になるかもしれないってことだ。
各種手数料のチェックは重要! 特に注意したいのが、“保有時の手数料(信託報酬)”
投資する金額、頻度のほかに、手数料を比較検討することも大事だと、大石さんは言う。
「コストは重要です。コストは、“積立時=毎回の購入時”、“保有時”、“売却時”の3シーンで発生する可能性があります。
“購入時”の手数料は会社によって様々で、『手数料はかかるが全額キャッシュバック』という証券会社があるかと思えば、楽天証券のように『手数料は、全額ポイントバック』するケースもあり、自分にとってより有利な条件を選びたいものです。そもそも購入時の手数料がかからない“ノーロード”という積立投信も多数あります。
“保有時”の手数料(信託報酬=日割りで計算して引かれる手数料)は、積立投資によって様々で、事前に確認しておくべき重要ポイントです。『つみたてNISA』に選ばれている積立投信は、一見、運用益の差は大きくはありません。ですが、保有期間が長ければ長いほど手数料の違いは影響大。複利の効果もあり、保有時の手数料の違いで結果に差がついてきます。
金融庁のデータ(2019年5月7日時点)によれば、『つみたてNISA』対象の積立投信のうち、投資先を国内とする積立投信35本の保有時の手数料(信託報酬率)の平均は0.27%。しかし、19本は0.1%超0.2%以下です。また、国内・海外を投資先とする107本の信託報酬率の平均は0.34%。うち、0.1%超0.3%以下のものが52本あります。
また、“売却時”の手数料も積立投信によって、発生の有無が異なります」
つまり、“購入時”“売却時”の手数料が発生しないもの、“保有時”の手数料ができるだけ少ないものが狙い目ということになる。
損をすることはあるのだろうか?
「保有する積立投信が値下がりしたタイミングで売却すると損失が出ます。内外の社会情勢の変化、株価も為替も金利も天候も、もちろん景気も雇用情勢も影響することでしょう。だからこそ、長期で保有しリスクを分散しようというのが『つみたてNISA』です」
投資だから、もちろん損をすることもある。投資した金額より下回ると、やはり不安だ。
「『つみたてNISA』は非課税枠が20年間継続するので、長期に渡って積み立てることで、価格変動のリスクを緩和することができるのです。売却はいつでもできます(が、売却するとその分の非課税枠を復活させることはできません)。投資に不安があったり、家計状況は厳しくなったりなど、継続できない事情ができた場合は、つみたてを中断することなどもできます。
投資額が少ないので途中で中断しても損失額も少ない。そういう意味でも『100円からの投資』は、投資を勉強する、経験するには、向いている方法と言えるでしょう」
値動きは毎日チェックしていないといけないのか?
「基本的には、『つみたてNISA』の積立投信は、日々の値動きに一喜一憂するのではなく、時間をかけてじっくり育てるもの。下がったから上がったから売却するという性格のものではありません。
それでも、順調に育っているのかなと、最初のうちは毎月、たとえば、積立日(引落し日)にチェックしてみるなどしてはいかがでしょう。その際は、自分の積立投信だけではなく、ベンチマークとなっている“TOPIX”や“日経平均株価”と比較チェックし、『円高になってTOPIXが下がったから私の積立投信も下がったのね』など、内外の経済状況と照らしながら確認すると世の中のお金の動きがわかって、さらに投資に興味がわくのではないでしょうか」
“慣れる”という意味で体験したい“ポイント投資”
いくら少額とはいえ、やっぱり損はしたくない。どのくらい値動きするのかも心配だ、という人には、ポイントで投資を体験できるものがあるが、それらはどうなのだろうか。
「使っていないポイントで投資するのはいいなぁと思います。これも、投資デビューのハードルを下げますね。不要な商品に無理やり交換するよりも健全かもしれません」
楽天、ドコモ、セゾンカードなどでは、クレジットカード等で得たポイントで投資を疑似体験できるサービスがある。運用するポイントは、株価に合わせて日々増減する仕組みだ。貯まったポイントは、航空会社のマイルに移行できたり、実際の株に交換できたりする。
「また、『つみたてNISA』は口座開設をして、商品やサービスを選ぶなど、手続きが面倒だという人には、『LINEスマート投資』の“ワンコイン投資”はいかがでしょう。スマホだけで完結しますし、“3タップで株式購入できる”お手軽さが特長の一つです」
ただ、「LINEスマート投資」は「つみたてNISA」には対応していないので注意。
投資初心者は、証券会社のフォロー体制(電話対応があるのか、ネット上でのやりとりだけかなど)もチェックしておくことが大事だ。
「スマホやパソコンでの見やすさなどを含め、株式マーケットの動きを見たり、投資効果を試算したりするツールは各社様々です。どれが自分にとって使い勝手がいいのかをチェックしてみてください」
※1_「複利効果」とは、運用で得た収益をふたたび投資することで、いわば、利息が利息を生んでふくらんでいく効果のこと。
大石泉 株式会社リクルートに約15年勤務ののち、個人のファイナンシャルプランニングの必要性を感じて2000年に独立。個人の豊かな暮らしと夢の実現を「住まい・キャリア・マネー」の3つの柱でサポートする。株式会社NIE.Eカレッジ代表取締役、一般社団法人夢の実現サポーター理事。
近著に「入社前から先取り! 日経新聞の読み方・活かし方」(すばる舎)ほか、「投資デビュー!ライフプランを実現するお金の知識」(平凡社新書)
- 取材・文:中川いづみ
- 写真:アフロ
ライター
東京都生まれ。フリーライターとして講談社、小学館、PHP研究所などの雑誌や書籍を手がける。携わった書籍は『近藤典子の片づく』寸法図鑑』(講談社)、『片付けが生んだ奇跡』(小学館)、『車いすのダンサー』(PHP研究所)など。