福山雅治が『集団左遷!!』で見せた50歳の“本気”と“誠実さ”
「カンペを見ながら話してもいいですか?」
それは福山雅治の実直さが伝わるひと言だった。
「集団左遷!!」(TBS系/毎日/夜21:00~)の撮影がすべて終了し、ひとことメッセージを促されたとき、福山は「伝えたいことを間違えないようにお話ししたいので」と自ら書き記したメモを見ながら話しだした。
「TBSの緑山スタジオで連続ドラマのデビューをして、21年ぶりに“日曜劇場”という大きな舞台をご用意いただいて、TBSに帰ってくることができました。しかも、今回の『集団左遷!!』は僕が50歳になって初の連続ドラマということもあり、思い入れのある作品になりました」
日曜劇場というTBSの看板ドラマ枠で福山が演じたのは、50歳を目前に廃店が決まっている蒲田支店に移動させられた支店長・片岡洋。リストラ候補のほかの銀行員たちとともに「銀行」という巨大な組織と、理不尽な出来事に立ち向かっていく姿を描いた。
本来なら困難に抗する主人公にはリーダーとしてのヒーロー的素質は必要なのだろう、しかし福山は自身の持つ武器である俳優としてのカリスマ性をすべて消して、片岡という人物を演じたように思える。
こんなことは言ってはいけないのは百も承知だが、あえて言う。今回の福山にはスター性はなかった。でも、それがよかった。長時間働き、疲れ、でもその中で戦い、仕事にかける情熱や正義の小さな火を絶やさずにいるサラリーマンの悲哀や泥臭さがにじみ出た演技だった。それを物語るように福山はこう語る。
「今回演じた片岡は“がんばる人”。台本をいただいて“この人、がんばれしか言わないな”って思ったくらいなので、どうやってこの人を表現しようかと最初は悩みました。でも、人間って最終的にはがんばるしかない。僕も自分の人生を振り返ってみたとき、とにかくがんばってきたと思う。だから片岡は最終的に人がやるべきことを最初に答えとして“がんばれ”といつも言っているんだと気づきました」
だからなのだろう、その“やるしかない”という人間臭い部分が、スター性やかっこよさからは離れていても、福山の演技は多くの視聴者の心を捕らえてきた。
「“がんばる”ってどうやって表現するのかなと考えたとき、とにかくすべて本気でやるしかないと思いました。本気で泣いて、笑って、怒って、蒲田支店のメンバーを思いやって、そして走りました。正直ここまで本気で(劇中で)走らされるとは思っていませんでしたが(笑)。でも、こういう小さな本気の積み重ねがないと、片岡のがんばりは伝わらないと思ったんです。自分にとってはチャレンジングだし、難しい役でした。でも、今、片岡を演じ終えて、自分だけのがんばりではなく、スタッフの本気が支えてくれたなと感じています。すっかり日焼けした顔や、汗だくで現場を走っているスタッフの姿が、僕が片岡を演じる上でがんばるという姿勢を支えてくれました」
そう話す福山を証明するかのようにドラマの最後の撮影時には、出演のない蒲田支店の面々が現場に来て福山を見守った。彼らが突然現場に現れたことに福山も「びっくりした!」と笑顔をこぼしていたが、きっと蒲田支店の面々も福山のこれまでの現場での本気にほだされ、最後の現場に駆けつけてしまったのだろう。
数多くのドラマや映画に出演し、毎年精力的にライブ活動も行う福山。50歳を迎えたスターの中のスターがドラマと現場で我々に見せたのは、誠実で真摯なひとりの男性の姿だった。この人間性をもって、年を重ねた彼がこれからどんな演技を見せてくれるのか楽しみだ。
実は現場のスタッフから「福山さんがFRIDAYデジタルの記事がおもしろかったと言っていましたよ」というコメントをいただいた(実話)。いや、これがおだての言葉だとしてもいい、日頃こっそり追いかけさせていただいている、我々のような媒体に向けても、気遣いの言葉をかけられる懐の深さ、それこそが福山雅治のすごさなのだ。
- 取材・文:知野美紀子(SUPER MIX)
- 構成:SUPER MIX
- 撮影:加藤岳