犬吠埼マリンパークのイルカ ペンギンが中国に売り飛ばされる!
経営破綻して廃墟化 残された動物たちが大ピンチに
イルカの背中が寂しそう
「私有地立入禁止」。そう大きく書かれた看板が入り口に掲げられ、敷地の境界にはロープやネットが張り巡らされている。中に立ち入ることはおろか、動物たちの姿を覗(のぞ)くことも不可能だ――。
’18年1月、来館客数の減少により、惜しまれつつも64年の歴史に幕を閉じた水族館、『犬吠埼(いぬぼうさき)マリンパーク』(千葉県銚子市)。閉館から1年半が経った今でも、バンドウイルカ、フンボルトペンギンなどの動物たちはパーク内に取り残されたままだ。動物たちは老朽化した施設内でどのような暮らしをしているのか。それを調べるため、本誌は今年6月、水族館内部を空撮した。
写真を見てほしい。建物はペンキが色褪(あ)せて、サビに覆われている。中心に見えるプールには、濁った水が張られ、中ではイルカが1頭きりで寂しそうに泳いでいる。メスのバンドウイルカ『ハニー』だ(死亡などにより頭数が減少し、’17年には『ハニー』1頭だけになった)。プールサイドにある観客席の屋根シートは半壊し、床の塗装も剥(は)がれ落ちてコンクリートが剥(む)き出しだ。上写真下部に見えるのはペンギンたちが暮らす施設。イルカのプールと同様、緑色に濁った水際には50羽前後のフンボルトペンギンが佇(たたず)んでいる。
実は今年3月、とある中国人女性がこの『マリンパーク』を買収し、オーナーの座に就いていたという。いったい、中国人オーナーの狙いは何なのか。彼女とともに経営に携わる男性が本誌の取材に答え、買収の目的を明かした。
「オーナーは、水族館にいるイルカやペンギンを中国に売るつもりなのです。いま、中国は水族館ブームで展示用の動物が足りておらず、高値で買い取ってもらえますから。とはいえ、『マリンパーク』の施設を取り壊すつもりはなく、水族館として経営を再開する予定。オーナーは水族館経営に関して素人なので、当面は旧オーナーの助けを借りながら運営することになります」
いま、中国は空前の「動物園・水族館ブーム」に沸いている。日本のみならず、世界中から動物を買い漁(あさ)っているようだ。
「中国には資本家のグループがいくつかあり、そのオーナー同士で『ウチはこんなに大きい動物園を作った』と競い合っている。中国国内だけでは動物が足りず、カネにものを言わせて世界中から買い付けています」(一般社団法人『日本爬虫類両生類協会』代表理事・白輪剛史氏)
とくにフンボルトペンギンは中国で大人気。絶滅危惧種である一方、日本では比較的繁殖に成功しており、過去に日本から中国へ渡った数は200羽以上とされる。
高値で中国に売却される
こうして中国人資本家が大量に動物を売買するため、これまでの相場が狂い、動物の価格は急騰しているという。
「『マリンパーク』にいるフンボルトペンギンの日本国内の取引価格はせいぜい一羽80万円程度。しかし、中国では同種が貴重なため、輸出すると200万円以上の買値が付く。バンドウイルカも10年前は一頭200万円ほどだったのが、いまでは800万円ほどする」(前出・白輪氏)
現在まで、残されたイルカやペンギンの救出を求める署名が約23万人分集まっている。そんな中、高値で中国に売られる予定の動物たち。その命運はどうなるのか。動物保護団体『PEACE』代表の東さちこ氏はこう懸念する。
「動物たちにとっては、日本から中国へ輸送されるだけでものすごくストレスがかかります。さらに、中国の動物園や水族館は日本よりも営利優先で、動物の健康や安全に配慮がなされていないことも多くある。そもそもイルカは飼育に適していない動物なので、不適切な環境で人の目に晒(さら)されれば、最悪、また病気になってしまうかもしれません」
たしかに中国側の動物の管理体制には不安が残る。だが一方で、日本の行政の態度にも問題がありそうだ。『ハニーを救う会』のメンバーの一人は、こう怒りを露(あら)わにする。
「水族館の指導監督責任を持つ千葉県は、『マリンパークに対して動物の譲渡を進めるよう指導している』などと話していますが、それが本当かどうかもわかりません。我々は県に情報公開請求をし、遮光、雨避け、施設の強度や広さ、給餌設備などが基準を満たしているか調べました。しかし、結果はすべて黒塗りで何一つ現状がわからない。そもそもイルカは集団で生活する動物なのに、『ハニー』は1年半も1頭で生活している。こんな不適切な環境は、早く変えるべきです」
廃墟になった水族館から動物を買い漁る中国と、そんな状況に見て見ぬふりを貫く日本の行政。この問題を放置していてはいけない。
- 撮影:桐島 瞬 結束武郎