なぜ、トンプソン ルークはラグビー日本代表復帰を目指すのか | FRIDAYデジタル

なぜ、トンプソン ルークはラグビー日本代表復帰を目指すのか

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近鉄に所属して14年目。関西弁を話すロックは38歳でのワールドカップ出場を目指す
近鉄に所属して14年目。関西弁を話すロックは38歳でのワールドカップ出場を目指す

元気だった?

「ボチボチね」

チームメイトからの問いかけに絶妙な大阪弁で返す。灰色っぽい瞳が柔和になる。

トンプソン ルークはラグビー日本代表の候補合宿から戻り、翌6月20日、所属する近鉄のクラブハウスに顔を出した。196センチ、110キロのロックの愛称は「トモ」。ボール獲得の最前線で常に体をぶつける。

創部90周年を迎えたチームは、東大阪にある花園ラグビー場をホームにする。

トモがニュージーランドから初来日したのは2004年。在日16年目に入った。三洋電機(現パナソニック)での最初の2シーズンを除けば、近鉄一筋14年目になる。

日本国籍は2010年に取得した。

合宿はどうだった?

「ちょっと疲れたね」

トモを含めた代表候補42人は、宮崎に集められ、6月9日から10泊11日で体を追い込んだ。1日3部練習で7時間近く。同じ日数の合宿があと2回予定されている。

すべては今年9月20日、この国で始まるラグビーワールドカップ(RWC)のため。日本はもちろんアジアにおいて初開催となる。

「まずはメンバーに入らないといけない。42人が31人になる。でも、めちゃ出たいね」

トモには記録がかかる。

最終メンバー31人に残れば、4大会連続のRWC出場になる。「ジャパン」と呼ばれる日本代表で、これまで選手としてそれを成し得たのは2人だけ。元木由記雄と松田努。神戸製鋼と東芝府中(現東芝)のレジェンドに続く可能性をトモは秘める。

また、出場時の38歳は最高齢になる。記録に残るのは、前回2015年の8回大会に参加した大野均(東芝)の37歳だった。

「今、僕の下はフミになるね」

田中史朗(キヤノン)は34歳。スクラムハーフとして3大会連続出場を目指している。

前回大会で国内は沸いた。

優勝候補の南アフリカを初戦で34-32と破る。予選リーグ3勝1敗。日本がRWCで2勝以上を挙げたのは初めてだった。

勝ち点差で南アフリカとスコットランドに届かず、決勝トーナメントに進めなかったが大きな足跡を残した。

トモは4試合すべてに先発。スコットランド戦のみ後半25分に伊藤鐘史(現京都産業大コーチ)と交代する。前後半80分の試合で、出場時間は305分。320分の主将・リーチ マイケル(東芝)と五郎丸歩(ヤマハ発動機)、312分の立川理道(クボタ)に次ぎ、その長さは3番目だった。

大会後、トモは代表引退を口にした。それは『日本ラグビーの歴史を変えた桜の戦士たち』(実業之日本社)に載る。

<次のワールドカップの時には38歳になっている。プレーヤーとしてはおじいちゃんだ。私は、もうこのあたりで若い人に道を譲るべきだと思った>

しかし、近鉄でプレーは続く。体は動く。紅白ジャージーの魅力は残る。

2017年6月24日、アイルランド戦で復帰。ロック陣がケガで大量離脱していた。試合は13-35で敗れるも、開始早々に好タックルを決めるなど、仕事人ぶりは健在だった。

日本協会が定めた国際試合出場時にもらえるキャップを64に積み上げる。

「前のRWCが終わった時は、絶対無理って思ったね。4年先は遠いね。でも、そのあとも体はめちゃ丈夫やった」

2018年6月、イタリアとの試合をテレビ観戦した。日本は初戦を34-17で勝利するものの、次戦は22-25で落とした。

「こんな感じで試合を見ていたね」

座って前のめりのポーズを作る。こぶしを固め、手を上げ、前後に振った。隣にいた妻のメリッサは言った。

「そんなにやりたければ、やったらいい」

トモの代表引退理由は、もうひとつあった。 『日本ラグビーの歴史を変えた桜の戦士たち』には書かれている。

<大会までの8か月はジャパンの合宿などで家を空けることが多く、妻をサポートしてあげられなかった。これからは妻へのねぎらいも含め、家族で過ごす時間を大切にしたい>

6歳のヘンリーを頭に、マヤ、ルースと二男一女の父でもある。子育て世代として半分の責任を負わなければならない思いがあった。しかし、その役目を当の配偶者が緩和してくれる。恩返しはRWCに出ることだ。

「僕にはまだ代表へのパッションがあるね」

力は持続している。近鉄でトレーニングを管理するコーチの寺田京太は、今年のチームへの合流はまだ、と断った上で話す。

「昨年のパフォーマンスに関して、一昨年と比べて落ちている印象はありません」

個人的には週1回、自宅に専門家を呼び、オイルマッサージをしてもらう。体の手入れは怠らない。

昨年は近鉄での公式戦11試合中7試合に出場した。チームはトップリーグ2部のトップチャレンジにいるため、力の差のある相手には若手に出場機会を譲った。試合数が少ないのはそのためだ。

今年に入ってトニー・ブラウンと話をした。三洋電機時代のチームメイトはサンウルブズのヘッドコーチをつとめる。

「どうだい、って尋ねてくれたから、僕はavailable(いけるよ)って答えたよ」

南半球のクラブで構成される国際リーグ・スーパーラグビーでは16試合中8試合に出場。すべてロックで先発した。

代表入りに向けた実戦勘を磨く。

2019年のRWC最終メンバーは8月末に決まる予定だ。あと2回の合宿、パシフィック・ネーションズ・カップのフィジー、トンガ、アメリカの3試合、さらに北海道・網走での最終合宿が選考対象になる。

「僕は速いとか強いとかは一番じゃないけど、経験と努力することができるね」

左右があり最低でも2人は選ばれるロックの候補はトモを含めて6人。キャップ数の最高はアニセ サムエラ(キヤノン)の12だ。トモの5分の1以下である。

代表入りした時の目標はすでに決まっている。

「ベストエイトに入る。新しい歴史を作る」

正念場の日々をくぐりぬけて、その創造者たりえたい。

  • 取材・文・写真鎮勝也

    (しずめかつや)1966年(昭和41)年生まれ。大阪府吹田市出身。スポーツライター。大阪府立摂津高校、立命館大学産業社会学部を卒業。デイリースポーツ、スポーツニッポン新聞社で整理、取材記者を経験する。スポーツ紙記者時代は主にアマ、プロ野球とラグビーを担当

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