真のスパイダーマン映画が帰還!『ファー・フロム・ホーム』

【ネタバレ極小】「過去のスパイダーマン映画との、あえての類似性」に心揺さぶられる SYO(映画ライター)最速レビュー

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『アベンジャーズ/エンドゲーム』の続きを観られる日が来るとは! 『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

平成の最後に、映画史を変える一大事が発生した。
『アベンジャーズ/エンドゲーム』が、あの『タイタニック』が打ち立てた記録を約22年ぶりに更新し、世界興行収入歴代2位の驚異的ヒットをたたき出したのだ。本作は6月27日現在、歴代1位の『アバター』にも約3600万ドル差で肉薄している。

主要キャラクターが命を賭して世界を救う、という感涙のフィナーレ。ここに見事に完結を迎えたかのように見えたが、その「後日談」であり「新たな始まり」を描く映画が残されていた。それが、6月28日に日本で世界最速公開の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』だ。
最高レベルのかん口令が敷かれた重要作の本編レビューを、いち早くお届けする。

(左から)新キャラクターのミステリオ(ジェイク・ギレンホール)、我らが主人公ピーター(トム・ホランド) ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

「アベンジャーズ」関連作史上、最も親しみやすい作品

修学旅行を満喫するはずが……まさかのスーツなしでヒーロー活動!? ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

まずは、本作の立ち位置を整理しよう。
この『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』を含む「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」シリーズは、2008年の『アイアンマン』から本作まで、23作品すべてが繋がっている。

各ヒーローの単体作品・集合作品にかかわらず時系列が共通している、という斬新なつくりのMCUシリーズは、全世界に熱狂的なファンを生んだ一方で、初心者には少々ハードルが高い。その救世主となりうるのが、「親愛なる隣人」であるスパイダーマンだ。
元々このキャラクターは日本で非常に人気が高く、土台は十分。ヒーロー映画だけではなく青春・恋愛映画の側面もある。本作では、そのような有力コンテンツとしての精度がより高まり、観る者を選ばない1本へと到達した。

(左から)アベンジャーズを束ねていたニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)と部下マリア・ヒル(コビー・スマルダーズ)も登場。波乱は必至……! ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』は時系列的には『アベンジャーズ/エンドゲーム』の後になるが、知らなくても心配は無用。冒頭に小粋なチュートリアルが入る(まさか、あの名作映画のBGMを流すとは!)ため、すんなり物語の中に入り込める。加えて、主人公のピーター(トム・ホランド)が高校生らしく自分の考えや行動を言葉に出すため、全体の流れが非常に分かりやすい。
ストーリーのベースも、「修学旅行」という庶民的なもの。旅先で気になるあの子に告白しようと思ったら、ヴィラン(悪役)が現れて……という展開は、MCU作品中、最も私たちに「近い」物語として観られる。

作品全体のテーマもシンプルだ。「恩師を失った青年の独り立ち」である。
師匠であり、父親代わりでもあったアイアンマン/トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)の死を引きずるスパイダーマン/ピーターが、喪失を乗り越え、ヒーローとして覚醒していく成長物語。さらに、今回は冒頭から「恋」がしっかりと描かれ、ドラマ要素も増大。ピーターの等身大の悩みや葛藤が愛らしく、実に応援しがいのある爽快作となった。

ヨーロッパの各地でヴィランとの一大バトルが勃発! スケールが一段とパワーアップ ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

過去の「スパイダーマン」作品との明確な類似性――その理由は?

映画ファン的目線で言うと、本作に最も心を揺さぶられるポイントは「過去のスパイダーマン映画との類似性」だ。

スパイダーマンはトビー・マグワイア版(『スパイダーマン』3作)、アンドリュー・ガーフィールド版(『アメイジング・スパイダーマン』2作)、MCU入りしたトム・ホランド版(『スパイダーマン:ホームカミング』と本作)と3つのシリーズとして実写映画化されている。

〔映画「スパイダーマン」のヒストリー〕

●トビー・マグワイア版 監督:サム・ライミ
『スパイダーマン』(2002年)日本興行収入:約75億円(配給:ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント、以下SPE)
『スパイダーマン2』(2004年)日本興行収入:約67億円(配給:SPE)
『スパイダーマン3』(2007年)日本興行収入:約71.2億円(配給:SPE)

 

●アンドリュー・ガーフィールド版  監督:マーク・ウェブ
『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)日本興行収入:31.6億円(配給:SPE)
『アメイジング・スパイダーマン2』(2014年)日本興行収入:31.4億円(配給:SPE)

 

●トム・ホランド版 監督:ジョン・ワッツ
『スパイダーマン:ホームカミング』(2017年)日本興行収入:28.0億円(配給:SPE)
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年)

その各々の特徴が、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』には色濃く反映されているのだ。一言で表現すると「恋と喪失」である。

今回のストーリーは、「恋」がキーワード。これぞ『スパイダーマン』 ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

本作のピーターのセリフは、気になる同級生MJ(ゼンデイヤ)をどう口説き落とすか、プランをぶち上げるシーンから始まる。世界の生命の半分が消失し、また復活した『アベンジャーズ/エンドゲーム』後とは思えない日常感だ。シリアス展開を予想した観客は、少々面食らうだろう。

しかしこれこそが、スパイダーマンらしさなのである。トビー版では「この話は、ある女の子にまつわる話だ。(中略)メリージェーン。物心のつく前から好きだった」(『スパイダーマン』)と恋のセリフから始まり、アンドリュー版ではヒロインをこっそりカメラで撮ろうとするシーンが冒頭に用意されていた。スパイダーマンの本質は、いつも恋物語なのだ。
『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』では、エレメンタルズという強敵が出現し、アベンジャーズとして出動を要請されるピーター。しかし彼にとっては、修学旅行で告白を成功させることが最優先。ヒーローの責務は理解しながらも、目の前の恋に精一杯になってしまう。この不器用さは、我々が愛した「スパイダーマン」ならではの魅力だ。

本作で初登場する漆黒のスーツ。ストーリーにどう絡んでくる? ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

そして、もう一つのキーワード。それは、親代わりの喪失だ。
知っての通り、ヒーローとしてのスパイダーマンは、ベンおじさんという大切な存在を失ったことから始まる。前作『スパイダーマン:ホームカミング』では、あえてベンおじさんとのエピソードをカットし、代わりにアイアンマンを父性の象徴に据えたことがファンの間では大いに話題となった。

そのアイアンマンが命を落としたことで、本作は遂にスパイダーマンの本流に立ち返るのである。父親代わりの存在を亡くし、深い後悔とヒーローの重圧に苦しむピーター。彼が涙ながらに「会えなくて寂しい」と漏らすドラマティックなシーンも、新たな師ミステリオ(ジェイク・ギレンホール)にアイアンマンを重ねる姿も、そして大切な人の死を乗り越えて再び立ち上がる展開も、過去のスパイダーマン作品をオーバーラップさせる。

ちなみに、『スパイダーマン』の名台詞「大いなる力には、大いなる責任が伴う」はベンおじさんがピーターに与えたものだが、本作にもアイアンマンが遺した重要な言葉と、ある贈り物が登場する。相当泣ける部分なので、ハンカチ持参で臨んでほしい。

原作ではヴィランだが……本作のミステリオは敵か、味方か? ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

「幻影」からの脱却――本作で真の「スパイダーマン映画」へと到達

過去のスパイダーマンシリーズで重要な意味合いを果たす「橋」にも注目。『スパイダーマン』ではグリーンゴブリンに二者択一を迫られる場所であり、『アメイジング・スパイダーマン2』ではグウェンへの愛情を伝えた重要なフィールドが、決戦の舞台として描かれる。

他にも、エレメンタルズの初登場シーンや、ピーターがMJを置いて任務に向かうシーンの演出はトビー版『スパイダーマン』の雰囲気にそっくり。ここまで来ると、意図的としか思えない。

恋と任務の両立に悩む姿、これをファンは待っていた ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

MCU作品の特長である「過去作品とのリンク」として『アイアンマン』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』との衝撃的な繋がりが示される部分はファン的には激アツだが、このようにMCUではないSPE時代の「スパイダーマン」作品に寄せてくるとは全く予想外だった。なぜこのようなテイストに舵を切ったのか?

それは、スパイダーマンというヒーローがいつの時代も「親愛なる隣人」であるべきだから。
元々ご近所ヒーローとして親しまれていた彼が、アベンジャーズに入ったことで宇宙に飛び出し、最強の敵サノス相手に大立ち振る舞いを演じ、どんどんビッグになっていく展開は、古くからの「スパイダーマン」ファンにはうれしい反面、複雑でもあっただろう。
本作では古巣ニューヨークでのシーンはほとんどなく、イタリア、ドイツ、チェコ、オランダ、イギリスとヨーロッパ全土で物語が展開。タイトル通り、「ファー・フロム・ホーム(故郷から遠く離れて)」しまったスパイダーマンの姿が描かれる。

ただ、このタイトルはダブルミーニング。本作は、MCUのインフレ展開で「身の丈に合わない」立ち位置になってしまった「スパイダーマン」自体の「故郷への帰還」が真のテーマになっている。つまり、我々が親しんだ「親愛なる隣人」に戻ろうとする道のりだ。
前半のスパイダーマンはとにかく受け身であり、アイデンティティの埋没が意識的に描写される。所在なく振舞うピーターの姿は、「アベンジャーズ仕様」に対する往年のファンの気持ちを代弁したものでもあるだろう。
後半では、ピーターがもう一度「スパイダーマンらしさ」に立ち返ろうと意志を固めていく。スーツを自作するシーンも用意されており、原点回帰への意味合いを強く感じさせる。

過去作品への目配せをここまで明快に表現したのは、故郷(ホーム)を印象付けるため。つまり、本作は何に置いても全世代のスパイダーマンファンに向けた作品であり、この映画をもってトム・ホランド版『スパイダーマン』は、単なるMCUの関連作から真のスパイダーマン映画へと変貌を遂げたのだ。
その明確な証拠となるシーンが劇中のどこかに登場するため、ファン諸君は楽しみにしていてほしい。ちなみに筆者は鳥肌が立った。

MCU全作品を観てきた身としては、見事な伏線回収や今後の展開への期待を正直8時間くらい語りたいが、鑑賞時に何よりも感極まったのは、画面全体にあふれるこれまでのスパイダーマンシリーズファンへの愛情だ。
「僕はいつまでも君の親愛なる隣人」――決して我々を忘れなかったスパイダーマンの帰還を、心から祝福しようではないか。お帰り、ピーター。

ピーターが選ぶ「決断」は、往年の『スパイダーマン』ファンの涙腺に突き刺さる ©2019 CTMG. © & ™ 2019 MARVEL.

SYO:映画ライター 公式サイト Twitter

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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