『美少女戦士セーラームーン』が電子書籍化!伝説の編集が語る秘話
タキシード仮面にはモデルが? 世界進出の壁は「畳」? 武内直子先生の貴重なエピソードも!
少女マンガの金字塔、『美少女戦士セーラームーン』がついに電子書籍となって登場する。
愛と正義の美少女戦士「セーラームーン」に変身する月野うさぎと、その仲間であるセーラー戦士たちの戦いを描いたファンタジーであり、“運命の恋”の物語でもある本作は、1991年から1997年まで少女漫画雑誌「なかよし」で連載された、武内直子氏による傑作少女マンガだ。
連載と同時期にはじまったアニメ放送とあわせ、少女だけでなく大人の女性、男性にまで爆発的な人気を獲得し、社会現象にまでなった作品である。単行本の累計発行部数は2000万部で、1993年には講談社漫画賞少女部門も受賞している不朽の名作だが、実はこれまで書籍版しか発行されておらず、今回が初の電子書籍化となるのだ。
待望の電子書籍版は、2019年7月1日から順次配信予定。特設グローバルサイトでは、6月30日の情報解禁20時30分にあわせ、世界10ヵ国語で試し読み公開がスタート! 更に我が日本では、日付が変わった瞬間の7月1日午前0時から購入することが可能だ。
完結から22年を経た今なお、世界中のファンに愛され続ける『美少女戦士セーラームーン』。今回FRIDAYデジタルでは、初の電子書籍化というこの歴史的瞬間を記念して、“おさBU”の愛称でファンの間でも親しまれている名物編集・小佐野文雄氏へのスペシャルインタビューを実施した。
担当編集だからこそ語れる、驚きの『セーラームーン』秘話とは?
『美少女戦士セーラームーン』の世界進出を阻んだのは、まさかの「畳」
――まずは、今回の電子書籍化についてうかがわせてください。20周年や25周年といったアニバーサリーイヤーに発表がなかったので、「電子版はもう、出ないのかな」と諦めていたファンの方もいるのではと思うのですが……
確かに、そう思いますよね(笑) 僕たちも本当は、そういった節目の年に出したいと考えていました。ただ、世界で配信したいという当初からの目標もあり、調整に思った以上に時間がかかってしまったんです。お待たせしてしまいましたが、今回ようやく皆さんにお届けできます。
――世界10ヵ国で配信されるということで、あらためて『美少女戦士セーラームーン』の国際的な人気を強く感じます。
実は、ここまで人気が広まるには非常に時間がかかったんです。今でこそ、アジア圏のみならずヨーロッパや北米、南米と世界各国で楽しんでもらえていますが、最初はフランスの、バンド・デシネ(※ベルギー、フランスなどの地域を中心としたマンガのこと。アーティスティックな作品も多く“第9の芸術”とも呼ばれる)を取り扱うような、専門的な書店からスタートでした。
流れからいうと、まずそのフランスで人気が出て、次にスペイン、イタリアと広がっていきました。いわゆるロマンス語(※イタリア、スペイン、ポルトガルなど、ラテン語に起源をもつ言語)圏ですね。ここまではわりとスムーズだったのですが、ゲルマン語(※ドイツ語、オランダ語、英語など)圏にはとにかく大苦戦したんです。その理由が実は、「畳」でした。
――えっ、畳ですか?
我々日本人にとって、畳や和室は生活に根差したものだけど、海外の方――特にゲルマン語圏の方には馴染みがない。畳の部屋や、和風の家で生活するキャラクターたちに、彼らは親近感が持てないんです。セーラームーンは他の作品に比べて洋風な部分が多かったんですが、それでも最初はさっぱりでした。書店に売り込みに行っても、「帰れ」って門前払いでしたね。
――道のりは非常に険しかったんですね。それが、どうやって海外で人気が出たのでしょう?
不思議なことに、その後何年か経って突然、ドイツで人気が爆発したんです。そこからはもう、どんどんヨーロッパで読者が拡大していきました。北米、南米にも広がり、世界各国で読んでもらえるようになっていったんです。電子書籍になったことで、今後さらに多くの方に届けられると思っています。
思い出の「麻布十番」――タキシード仮面は実在していた!?
――連載当時のエピソードなど聞かせていただけますでしょうか
そうですね……セーラームーンたちを助けてくれる「タキシード仮面」なんですが、実はあれは実在してまして。
――タキシード仮面がですか!? あの格好で!?
そう、あの格好で(笑) 最初、武内直子先生がはじめてタキシード仮面を描いてきたとき、僕はあのシルクハットにタキシード、白い仮面っていう姿を見て「いや、こんな人は流石にいないだろう」って思ってたんですけど……当時、武内先生の仕事場が港区麻布十番にありまして。
――セーラームーンの舞台にもなっていますね
そうです。武内先生が実際に住んでいた街を、そのまま作中の舞台にしたんですが……あの当時の麻布十番って、“裏ディスコ”というか、“隠れ家的ディスコ”があったんですよ。
――隠れ家的ディスコ、ですか?
そうなんです。目立つような場所にはなくて、細い道を入っていったところにあるような。それで夜になると、タキシードでバッチリキメた男の人が道端でウロウロしてたりするんですよ。僕もそれを見て、「本当だ!」って納得しました(笑)
――麻布十番ならではの体験ですね
普通は、東京に出てきていきなり「麻布十番に住もう!」とはならないと思うんですけど(笑)そういう武内先生の大胆さというか、ちょっととんでもないことをやってみせるところは、うさぎちゃんに本当にそっくりだと思いますね。
――当時の「なかよし」編集部でのエピソードなどは?
そうですね、あの頃はまだ、携帯もインターネットも無かった時代ですから、電話線を抜かれると先生と連絡が取れないなんてことはしょっちゅうでした(笑) 連絡もつかない、原稿も来ない、そうなるともう信じて待つしかない。でも、武内先生はどんなにギリギリになっても、一度も原稿を落としたことはありませんでした。
月に100枚は描いていた時もあったのに、一度もです。ほとんど寝ないで描いていたと思いますね。本当にすごかった。『美少女戦士セーラームーン』という作品は、あの頃の武内先生――連載を開始した20代中盤から、30代前半までの彼女の経験や、人生というのが全部詰まっているんです。
僕ら編集も、作家さんも、楽しみにしてくれている読者にとにかく届けるんだ、という強い気持ちでやっていました。それは武内先生もおなじで、だからこそこんなに素晴らしい作品になったんだと思います。
武内先生はカラー原稿が抜群にうまいんですが、20周年企画で再刊した完全版の表紙はすべてデジタルです。先生はパソコンが苦手なんですが、作画用ソフトは独学であっという間に修得してしまいました。これはちょっと驚きました。メールソフトも苦手なのに!
“小さなおともだち”へのメッセージ
――小佐野さんの「おさBU」という呼び名について教えてください
最初は確か、武内先生は『おさP』と言っていたんですよ」
――ルナPのようですね
そう。それが、ブーブーうるさいので『おさBU』に(笑)その名前が、まさかこんなに一人歩きするとは思っていなかったし、こういう風にインタビューを受けるとも思ってなかったです。やっぱり僕は編集者で、『黒子』的な存在でいる方が良いと思っていたので。
でも、こうすることでより沢山の読者の方に届くのであれば、ということで、色々な場所に顔を出させていただいています。ほとんどマスコットキャラのようなものですね。いつもこっちがビックリするくらい、『美少女戦士セーラームーン』ファンの方が喜んでくれるので嬉しいです。そうやって嬉しくなって口をすべらせちゃって、いろんな方によく怒られるんですけど(笑)
――作品が多くの方に愛されているのを感じますね
本当にそうです。あとは、当時「なかよし」を読んでくれていた大人のファンを、“大きなおともだち”、メインの子供のファンたちを“小さなおともだち”と僕らは呼んでいたのですが、“小さなおともだち”だった世代が、大人になってから『美少女戦士セーラームーン』に携(たずさ)わってくれるということが結構よくあって。
例えばグッズの企画開発なんかだと、「当時こんなものが欲しかった」「欲しかったのに買ってもらえなかった」という幼い頃の気持ちや、作品への想いをこめてくれるので、魂が違うというか、熱の入った非常にクオリティの高いものを作ってくれるんです。
感謝するとともに、なんというかこう、「立派になって……」って思ったりして(笑)みんなの心のなかに、ちゃんと『美少女戦士セーラームーン』が生きているんだなぁ、と思うと、なんだか感慨深いですね。
――セーラームーン世代で、かつ「なかよし」読者だった私にとっても感慨深いです。それでは最後に、ファンの皆さんに向けてメッセージをお願いします
僕は昔、単行本の最終巻に、「大人になったらもう一度読んでみてください」と書いたんです。恋愛観も、世界観も、まだちょっと難しいかもしれないな……でも、大人になったらきっとまた、解ることがあるはずだ、と思って。
あの頃“小さなおともだち“だった人たちに、今の年齢でもう一度『美少女戦士セーラームーン』を読んでいただけるといいな、と思います。きっとまた、別の味わいがあるんじゃないかな。もちろん、これまで読んだことのない方も、ぜひこの機会に読んでいただければ!
今回、電子書籍化が発表された「月野うさぎ誕生日イベント」(6月30日実施)では、武内先生の原画を使用したユニクロコラボTシャツの発売告知や、劇場版新作アニメのティーザービジュアル&特報公開、「セーラームーンカフェ2019」の開催決定も報じられた。
更には、「美少女戦士セーラームーン」の数々の名曲を生み出してきた、音楽家・小坂朋子さんの45周年記念イベントや、なんと史上初「美少女戦士セーラームーン」アイスショーの開催も決定! このアイスショーには、セーラームーン好きを公言するエフゲニア・メドベージェワ選手が出演するという。
このめくるめく怒涛の展開に、かつてセーラー戦士に憧れていた筆者は、“小さいおともだち”だった頃を思い出してなんだかワクワクしてしまった。月の光に導かれ――今度はあなたが、“電子”という新しい夢の舞台で『美少女戦士セーラームーン』に巡り合ってほしい。
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▽第1話を特別公開中!▽
- 取材・文:大門磨央