W杯直前の朗報 ラブスカフニの代表候補入りで何が変わる? | FRIDAYデジタル

W杯直前の朗報 ラブスカフニの代表候補入りで何が変わる?

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189センチ、105キロ。ラブスカフニがオープンサイドフランカーで代表入りすれば、大きな戦力アップとなる(AFP/アフロ)
189センチ、105キロ。ラブスカフニがオープンサイドフランカーで代表入りすれば、大きな戦力アップとなる(AFP/アフロ)

日本ラグビー界に朗報が舞い降りた。ピーター・ラブスカフニが、この国の代表資格を得られることになった。強さと勤勉さ、何よりわかりやすい指針の打ち出し方でチームメイトを助ける。

「ゲツヨウビに聞きました。それまで重りを背負っていた感じだったので、ほっとして、嬉しかったです」

南アフリカ出身の通称「ラピース」がこう語ったのは、6月9日からの日本代表の宮崎合宿中。4年に1度あるワールドカップの日本大会を今秋に控え、42名いる登録者の1人として猛練習に励んでいた。グラウンドとホテルを繋ぐ取材エリアで立ち止まり、笑顔で決意を明かす。

「このキャンプでは、ポジショニング、スキャニング、自分のスキル――特に、タックル、ブレイクダウン、そしてボール運びの能力――をレベルアップさせるのに集中したいです。他の選手からもできる限り学び、同時に他の選手にも影響を与えられるよう努力したいです。なぜならいい選手は、お互いに成長し合うからです」

ラグビーでは、海外出身者でも日本代表になれる。他国代表としてのプレー、およびそれに準ずる経験さえなければ、血縁や地縁を持たない国でも3年以上連続で住めば当該国の代表入りに挑めるのだ。

もっとも近年では、資格取得前の選手を代表戦に出した国が発覚したこと、統括団体のワールドラグビーで代表チームを自国出身者で固めるべきだとする勢力が強まっていることなどから資格取得への取り締まりが強化されている。日本代表入りが期待されながら、願いが叶わないかもしれない外国人選手も多い。

7人制日本代表ヘッドコーチで日本協会理事の岩渕健輔は、警鐘を鳴らす。

「彼ら(海外出身選手)の努力にどう向き合うかについては、カテゴリーを問わず(日本)協会を挙げて戦略的に取り組む必要があります。それは他のどのユニオンでもやっていることで、(上位の)ニュージーランド、オーストラリアですら色々な国の選手が代表資格を取っています。ルールがある以上はそれと向き合い、一番いい形にしていきたいです」

2016年に来日したラブスカフニは、国内トップリーグ加盟のクボタ、国際リーグのスーパーラグビーへ日本から挑むサンウルブズで持ち味を発揮。ただ、過去に、南アフリカ代表のツアーに参加も試合不出場という経験を持つ。連続居住の日数が認められるかなども含め、結末が注目されてきた。

母国協会から日本代表を狙ってよいとのお墨付きを得たのは、2018年のこと。ワールドラグビーから許可が下りたと知ったのは、6月10日の「ゲツヨウビ」だった。

「ほっとして、嬉しかったです」と目じりを下げた当事者は、「喜びを言葉にするのが難しいです」とし、こう続ける。

「嬉しさ、安心、楽しみが混ざり合った気持ちで、全体的にはとてもとても嬉しいです」

宮崎合宿でのラブスカフニ(撮影:向風見也)
宮崎合宿でのラブスカフニ(撮影:向風見也)

今年30歳となったラブスカフニの凄みは、試合で攻め込まれるシーンを望遠鏡で追えばよくわかる。

下働きが主業務のオープンサイドフランカーへ入り、迫りくるランナーの体勢に合わせて身長189センチ、体重105キロの身体を折りたたんだり、前傾させたりしながらタックルを放つ。転倒させたらすぐに起き、次の防御へ備える。

目の前の接点で相手のボールが見えたら、腰を落としながらそちらへ腕をかける。攻守逆転を決めたり、向こうの反則を誘ったり。それが叶わなくとも、向こうの攻めのテンポを鈍らせる。

小兵集団の日本代表は、今回のワールドカップでアイルランド代表やスコットランド代表という大型チームを迎え撃つ。勝利へ近づくにはライバルから快適さを奪いたいだけに、南アフリカ出身の黒子役は大いに期待される。

タフに戦えるだけでなく、周りをタフにもできる。思い出されるのは、2018年2月の出来事だ。

当時のラブスカフニは、サンウルブズの新加入選手としてスーパーラグビー開幕前の陸上自衛隊別府駐屯地キャンプに参加。選手たちは数名のグループに分かれ、タフなアクティビティで競い合った。

過酷を極めたのは、「徒歩行進」。各自リュックに重さ約20kgの装備品を入れ、別府市内全長13キロを歩くのが任務だ。

参加者だった日野剛志は、同組のラブスカフニに感銘を受ける。

「まずはあの信号まで走っていこう、とか、近場の目標を言っていくんです。本当は僕がそのミニチームのリーダーだったんですけど、あいつがリーダーみたいになって」

丸1日かけて参考書を攻略しにかかるより、「30分で2ページずつ」と細かく区切って問題を解く。複数の案件を夜通しで手掛けるのではなく、作業に優先順位をつけひとつずつこなす。このように、人がどこかでしたことのありそうなピンチの切り抜け方を、ラブスカフニは身体的負荷のかかるなかで周りに実践させてみせたのである。

「徒歩訓練」について聞かれた本人は、「その話を持ち出していただいて、感謝しています」とのみ話す。

「色々な目標が課せられるなか、チーム内の選手それぞれに強み、弱みがありました。ひとつのタスクではある選手が強みを発揮し、リーダーシップを取る。ただ、その選手は、別のタスクでは強さを出せないかもしれない。その時は、別の選手がリーダーシップを取る。個人で成し遂げられないことも、チームでお互いにサポートし合えば成し遂げられるということです」

己の手柄はあまり誇らず、仲間との一体感を強調する。いまもなお、同じ態度を貫く。

「全員がチームのなかで各々の役割を持ち、そのなかでベストを尽くそうとしています」

5月まで活動してきた代表候補チームのウルフパックではゲーム主将を務め、3パートに分かれる宮崎合宿でも日本代表のリーダーシップグループへ名を連ねる。7月からのパシフィック・ネーションズカップという国際大会で、代表戦デビューを目指す。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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