渡辺篤史が見続けた30年 個人住宅“わがまま”時代の到来

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平成という時代が終わり、住宅事情も大きな変化を遂げた。その歴史をつぶさに見つめ、伝えてきたのが『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日 毎週土曜朝4時30分~ ※関東ローカル)だ。平成元年4月に番組がスタート。毎回「おはようございます。渡辺篤史です!」の第一声で始まるこの番組は、土曜朝のおなじみとして定着している。

平成の住宅建築を見続けて30年!

「番組は1クールか2クール、長くて2~3年くらいで終わるのが当たり前というテレビ業界にあって、30年続いたことは感慨深いですね。奇跡だと思います。今年の4月に放送した30周年記念番組の中で、初回の沖縄ロケの映像が流れたんだけど、自分自身の姿に『えっ!?』となりましたね、経年変化が激しくて(笑)。それでも大きな病気もせずに、30年間務めさせてもらっているのも嬉しいし、なによりスタッフに恵まれました。初期の人もまだ残っていますからね」(渡辺さん 以下同)

そう語るのは、番組のMCとナレーションを務める渡辺篤史さん。彼自身も大の建築好きで、「番組放送当初は“公共的な建物”の紹介でした。でも私が『新建築住宅特集』(新建築社)を毎号購読していて『個人住宅もあったら面白いんじゃないの?』と提案して受け入れられたんです」というほど。当初は渡辺さん自身で建築家に番組の出演オファーをしていたのだとか。そうして30年以上も住宅建築を紹介し続けている渡辺さんとともに、これまでの住宅建築を振り返ってみたい。

「オーディオマニアで、音楽を聴きながら建築雑誌や写真集を眺めるのが好き」。自身はフランスを代表する建築家、ル・コルビュジエのファン
平成元年4月に放送された記念すべき第1回。このときは沖縄の小学校を紹介した(C)テレビ朝日

その昔、建築家が手掛けた住宅は「夏は暑く、冬は寒い」と言われ、敬遠されがちだった。しかし、それも時代とともに住宅設備の質が向上するにつれ風向きが変わった。

番組を初期から担当しているディレクターの湯沢信夫さんによると「1990年代後半くらいから『高気密・高断熱』というコンセプトが登場し、常に快適な室温が保たれるようになりました。建築家も環境負荷を意識しなくてはいけない時代になったことと、ペアガラスなど高断熱サッシや空気循環システムなどの登場といった設備の高性能化という二つの要因によるものだと思います」と、平成の中期ころから住宅事情にも変化が訪れたことがうかがえる。

建築資材の進化による快適性の向上。これによって、それまで相反することの多かったデザイン性と機能性が融合し、建築家の理想とするデザインと、住む人が快適の過ごせる住空間を同時に実現することができ、住宅にも自由度の高い設計が可能になった。

そうなると、個人住宅はがぜん個性をおびてくる。建て主にとっては一世一代の大きな買い物だ。「自分らしく」「自分の好きな家」に住みたいと思うのは当然だろう。そんなニーズに合った建築家と出会い、共に意見を出し合いながら自分たちの城を作り上げていく、というスタイルが平成の中期ごろから盛んになっていく。とりわけ、建築家たちの腕の見せ所といっていいのが、都心のいわゆる“狭小住宅”だ。

土地の形状や立地など、さまざまな制約が課せられる都心の住宅では、狭い空間をどれだけ有効に広く使えるかがカギとなる。渡辺さんも番組で、狭小住宅で取り入れられている数々の工夫に出会い、大いに感心をしているという。

「狭小空間を広く見せる方法を編み出した建築家が何人かいるんですよ。例えば、せっかくの吹き抜けに階段を取り付けたら家の中が暗くなってしまいがちですけど、蹴上げを取っ払ってその先の空間が見えるような工夫とか。視線の抜けを意識して、視覚的に広く感じさせるように設計していて、それが読み取れたりする。そんな家や工夫がいいんですよね~」

四方を囲まれた立地のため、天窓からの光を階段を透して下階まで届ける工夫が(C)テレビ朝日
蹴上げのない階段。幅がわずか3.2mしかない建物のため独立した階段室は無くリビング内に階段を設置している(C)テレビ朝日

LEDなどの技術革新が日本の住宅に自由度をプラスした

そして、30年も番組を続けていると、それ以外の変化も多く感じるようになった。

“強・用・美”という建築を現す言葉があります。強は建物の強さ、用は機能、美はデザイン。近年では特に“用”の部分、厨房やトイレ、風呂、冷暖房など住宅設備の機能が向上してきて、それが建築デザインとお互いに作用して建物がもっとよくなっていると思います。なんといっても自由度が高くなっていますよね。 

外に出るといろいろなルールやしがらみがあるけど、自分の家は好きな形に作り上げて、家具も選んで、好きなものに囲まれて、自分を取り戻す唯一の場所。作り上げるプロセスも大事で『子どもと一緒になって壁を塗りました』『玄関にビー玉を埋め込みました』とか、いいじゃないですか~。そうやって作った家の思い出は絶対に忘れられないですよ!」 

また、LEDなど建築資材の技術革新も住宅づくりに大きな影響を与えたという。床材や壁材、窓、照明などひとつひとつの資材の選択の幅が広がった結果、建築家はこれまでにできなかったデザインを実現することが可能になった。それは、建築家に依頼する建て主も同様だ。自分の理想とする家を、全体から照明ひとつにいたるまで、あらゆる部分でプロデュースして実現することができるようなったことは、この30年間の確実で大きな進化といえるだろう。

「家族なのか、夫婦なのか、一人暮らしなのか。家に関わる人がいろいろなことを願い、それを建築家があらゆる角度から考えて折り合いをつけ、お互いに納得してもらうという大変な作業をしているわけです。建築や内装など個人的な好みでの好き嫌いはありますが、それ以上に評価せざるを得ない工夫がいっぱいあります」

新時代の住宅建築のキーワードは“ランドスケープ”

建築資材や技術の進化によって、さまざまな住宅を実現してきた平成の30年間。最後に渡辺さんに、これから先、“令和時代”の住宅建築について考えを聞いた。

「基本に戻れば、ランドスケープに立ち戻る、という点でしょうか。すてきな都市、例えばロンドンには『ハイド・パーク』、ニューヨークには『セントラル・パーク』という公園があって、夜には暗闇ができますよね。東京にも公園は多いですし、そういった暗闇も含めたランドスケープを取り入れることに、日本の住宅建築の明日があると思います」

そして、建て主と建築家、住宅メーカーの関係性の変化も、今後重要になってくると渡辺さんは見ている。そして、最後には建築好きらしい、建築家への気遣いも。

「これまでメーカー主導だった住宅建築ですが、これからは消費者、つまり建て主の『こんな家に住みたい』という希望に対して、建築家やハウスメーカー、工務店がどう答えていくかが問われる時代になっていますね。 

建てるほうは、自分がどういう家に住みたいか、そのイメージがはっきりしてればいいんです。建築雑誌を読んでいると必ず手が止まってしまうページがあって、それも建築家との出会いです。『自分はこの傾向が好きなんだ』『この人にお願いしたい』となったら、建築家と関係を結べばいい。才能のある建築家はいっぱいいますよ。 

あとは建築家をマネージメントする人がいればいいですね。だって、建築家は口下手な人が多いから(笑)」

古くからの家並みから浮かないよう切妻の大屋根を採用した外観(C)テレビ朝日
ピロティを開放し、道行く人が一休みできるベンチも造作したという住宅(C)テレビ朝日

渡辺篤史(わたなべ・あつし) 1947年、茨城県生まれ。俳優、ナレーターとして活躍し、平成元年(1989年)に始まった『渡辺篤史の建もの探訪』(テレビ朝日)が2019年で30周年を迎えた。自身も建築好きで著書に「渡辺篤史のこんな家を建てたい」「渡辺篤史のこんな家を創りたい」(ともに講談社)などがある。

  • 取材・文高橋ダイスケ

Photo Gallary6

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