ヒット曲が原作 2019年の日本映画は「唄もの」が大ブーム!

新たなメディアミックスの形? 最新「唄もの」『いちごの唄』公開 

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今、日本映画界に新たな流れが来ている。「歌×映画」だ。

2019年公開映画に絞っても、『愛唄 -約束のナクヒト-』『雪の華』『小さな恋のうた』『さよならくちびる』『ダンスウィズミー』『いちごの唄』『アイネクライネナハトムジーク』『WALKING MAN』…etc と毎月のように歌をテーマにした作品が公開。中でも目立つのは、楽曲をモチーフにした作品たちだ。

銀杏BOYZの楽曲から生まれた、男女の切ないラブストーリー 『いちごの唄』7月5日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー 配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会

『愛唄』(19)はGReeeeN、『雪の華』(19)は中島美嘉、『小さな恋のうた』(19)はMONGOL800、『いちごの唄』(19)は銀杏BOYZ。『アイネクライネナハトムジーク』(19)は斉藤和義と伊坂幸太郎の交流から楽曲→小説→映画という流れをたどったやや特殊な作品だが、その他の作品はいずれも、既存の曲からストーリーが生まれている。

これまでにも『涙そうそう』(06)『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(11)『キセキ -あの日のソビト-』(17)等、楽曲関連の映像化作品はあった。だが、ここまで短期間に集中したのは初めてといえる。何故だ?

映画は、とどのつまり興行。つまり「当たる」と見込めるものが量産されていく傾向にある(その最たる例は漫画原作だ)。まず考えられるのは、やはりミュージカル映画ブームだろう。

『ラ・ラ・ランド』(16)日本興行収入:44億円(配給:ギャガ/ポニーキャニオン)

『グレイテスト・ショーマン』(17)日本興行収入:52億円(配給:20世紀フォックス映画)

『美女と野獣』(17)日本興行収入:124億円(配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ)

加えて、音楽映画『ボヘミアン・ラプソディ』(18)が興収130億円超の驚異的なヒットを記録したことが記憶に新しい。『はじまりのうた』(13)『シング・ストリート 未来へのうた』(16)『ベイビー・ドライバー』(17)等、映画ファンに支持される作品も続々と登場してきた。これらの洋画作品が土壌を作り、国産の音楽映画を製作するフェーズに突入した、という見方がひとつできるだろう。

しかしストレートにミュージカル映画を製作しないのは、日本人の中に「いきなり歌って踊る」ことへの苦手意識が強いから。『ウォーターボーイズ』(01)の矢口史靖監督によるミュージカル映画『ダンスウィズミー』(19)も、「ミュージカルが苦手な女性が『ミュージカル体質』になった」という手法でこの問題をクリアしている。

せっかくの金脈を、国産映画でカバーできない。その問題を解決する手段として、一定数のファンが現存する人気曲の劇映画化が隆盛してきたのではないだろうか。
観客側からすると、「知っている曲が映画になる」というのは「どんなストーリーなんだろう?」と興味を抱きやすく、予告編等で歌が記憶に残りやすいためキャッチーであり、音楽映画へのポジティブなイメージもあって、コンテンツとして有力だ。

『いちごの唄』ヒロイン役の石橋静河は、石橋凌と原田美枝子を両親に持つサラブレッド女優 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会
『いちごの唄』では、ヒロインの幼少期をオロナミンC等のCMでも活躍する注目女優、清原果耶が演じる 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会

『雪の華』『いちごの唄』は脚本をNHK連続テレビ小説『ひよっこ』(17)で知られる岡田惠和が手掛けており、『アイネクライネナハトムジーク』では『愛がなんだ』がヒット中の今泉力哉監督を起用。『さよならくちびる』は、秦基博とあいみょんが楽曲を書き下ろし、小松菜奈と門脇麦が歌ったことも話題となった。旬のクリエイターが携わることで、「ファン向け」に終わらないクオリティも保証する。洋画のミュージカル人気を日本流にローカライズした「唄もの邦画」は、今後ますます盛んになっていくと予想される。

この「唄もの邦画」で直近に公開されるのが、7月5日より上映の『いちごの唄』。岡田と峯田の共著による同名小説の映画化となる。

年に一度、七夕の日にだけ再会する男女。だがその日は、親友の命日だった。映画は、数年をかけて2人が関係を深め、「親友の死」によって抉れた心の喪失から回復していく道のりを柔らかく、優しい眼差しで紡ぎ上げる。東日本大震災を想起させるエピソードも絡んでおり、死と再生という重いテーマに愚直に向き合った、堅実な仕上がりのラブストーリーだ。タイトルが伏線になっており、ラストには切なくも温かい感動が待ち受けている。

出演陣にも要注目。

バンド「2」のボーカル、ギターである古舘佑太郎とNHK連続テレビ小説『半分、青い。』(18)の石橋静河が主役の男女に扮し、和久井映見、光石研、NHK連続テレビ小説『なつぞら』(19)の清原果耶、『わたし、定時で帰ります。』(19)の泉澤祐希、『散歩する侵略者』(17)の恒松祐里、『万引き家族』(18)の蒔田彩珠、『カメラを止めるな!』(17)のしゅはまはるみ、『愛がなんだ』(19)の岸井ゆきの。そして、宮本信子、麻生久美子、みうらじゅん、田口トモロヲ、宮藤官九郎といった錚々たる顔ぶれが集結。注目の若手から大御所まで、邦画好きの目を引く布陣となっており、峯田もキーマンであるラーメン屋の店主として出演している。

『いちごの唄』の主な舞台は高円寺。“陰の主役”として物語を引き立てる 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会
峯田和伸扮するさえないラーメン店主が、観客の心を和ませる 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会

「唄もの邦画」の懸念として、その曲やミュージシャン自体を知らないと興味を抱きづらいという点が挙げられるが、本作に関しては杞憂に終わるだろう。銀杏BOYZの楽曲が重要な役割を果たす演出はあれど、「一見さんお断り」な雰囲気は一切感じられない。むしろこれを機に、銀杏BOYZに興味を抱く人も多いだろう。そのような広がりを感じられる映画だ。

次はどんな楽曲が映画化されるのか。

新たなメディアミックスの形として、「唄もの邦画」に今後も注目していきたい。

年に一度しか会えない2人。もどかしい恋の行方は? 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会
「大切な人の死」を受け入れ、歩み始めていく物語 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会
名脚本家、岡田惠和による飾らないセリフも心に染みる 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会
今の時代には珍しい、何事にもまっすぐな主人公は本作の「希望」として輝く 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会
キャベツ畑へのダイブシーンは、劇中の見どころの一つ 『いちごの唄』配給:ファントム・フィルム ⓒ2019「いちごの唄」製作委員会

SYO:映画ライター 公式サイト Twitter

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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