衝撃の映画『凪待ち』主演の香取慎吾が“SMAP解散”で得たもの

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映画撮影が終わり、スタッフと乾杯をする香取慎吾(18年)

6月28日に公開された香取慎吾主演の映画『凪待ち』を観た観客の間で衝撃が走っている。

この映画の中で香取が演じる郁男は、無精ヒゲを生やし虚ろな目で薄汚れた服で街をさまよう。ただしノミ屋で車券を買い、競輪のレースを見つめる時だけ、その目に精気が蘇る。

この映画を手掛けるのは、山田孝之主演『凶悪』や役所広司主演『孤狼の血』など、野心的な作品を世に送り出している白石和彌監督だ。

この映画には、誰も見たことのない、”ろくでなし”の香取慎吾がいる。

「リリー・フランキー演じる小野寺から、お金を借りるシーンには目を奪われました。“うれしさ”が顔を覗かせそうになり慌てて隠す、なんともズルイ表情を白石監督も絶賛。人からお金など借りたことなどないであろう香取ですが、普段から周りの人間をじっくり観察しているからこそできる演技です」(映画誌ライター)

驚愕のシーンはまだまだある。愛する恋人(西田尚美)が殺され、花が供えられた事件現場を訪れた香取が、手向けるつもりで持ってきたお酒を飲み始めてしまう場面だ。その表情を正面から捉えたカメラには、荒れ狂う怒りや悲しみ、自責の念を押し殺す禍々しいほどの狂気が映し出され、SMAPの頃には垣間見えたことすらなかった表情に震えた。

「この映画は、川崎でギャンブルに明け暮れていた郁男(香取)が、恋人の亜弓(西田)と娘・美波(恒松祐里)と共に彼女の故郷・石巻に帰郷。印刷工場で働きながら、少しずつ平穏な暮らしを取り戻す。ところが恋人の死、同僚からあらぬ疑いを掛けられた末、仕事も辞めた郁男はギャンブルにのめり込み、やがて身を持ち崩していくというストーリー。ただ、この物語は、堕ちていくだけではなく、再生の物語でもあります」(前出・映画誌ライター)

この映画で描かれているのは3つの「再生」だ。

1つ目は、ジャニーズ事務所を退所した香取自身の再生の物語。アイドルの王道を歩いてきた男がプレッシャーと闘いながら選び取ったのが、この作品なのだ。思えば主人公の郁男の孤独感や閉塞感は香取自身の当時の思いと重なり合っていたに違いない。ジャニーズ事務所に在籍していたら、演じるはずもなかったこの役に挑むことで、香取は新しい地図を歩き始めた。

2つ目は、この映画の撮影の舞台。東日本大震災の爪痕が残る街・宮城県石巻市の復興と、喪失感に包まれた香取演じる郁男の再生がゆっくりと折り重なっていく。

そして3つ目。これまで「凶悪」「孤狼の血」などで”堕ちていく人間”の物語を描いてきた白石和彌監督が”這い上がっていく人間”を描く、監督自身も再生の物語に挑む意欲作である。

しかしこの映画の主人公になぜ、香取慎吾が選ばれたのか。

「香取主演の話は、元々阪本順治監督と多くの作品を生み出してきた椎井友紀子プロデューサーから持ち込まれました。12年に亡くなった若松孝二監督の作品を作ることができなかった椎井プロデューサーが、若松監督のDNAを受け継ぐ白石監督と映画を作りたいと願い持ち込まれたようです。椎井プロデューサーと香取は、阪本監督の『座頭市 THE LAST』や『人類資金』で仕事をしており昵懇の仲。去年の撮影中に阪本監督も陣中見舞いに訪れています」(前出・映画誌ライター)

香取はジャニーズ事務所を退所後、絵画制作にも積極的に取り組んでいる。今年は国内初となるアート作品展を開催し、入場者は10万人を突破した。雑誌『芸術新潮』3月号では美術家・横尾忠則との対談が実現し、

「SMAPの解散がなければ、絵が人生の一部にならなかったんじゃないか」

と、背中を押されている。SMAP解散から2年半。香取慎吾の描く「新しい地図」が魅力的に見えて仕方がない。

 

  • 島右近(放送作家・映像プロデューサー)

    バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ヶ原で死んでいた』(竹書房新社)を上梓

  • PHOTO田中俊勝

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