バイト漬け、土日に副業…奨学金受給者が語る返済への長い道のり

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現在、高等教育機関で学ぶ学生348万人のうち、37.2%にあたる129万人が利用していると言われる奨学金制度。実に学生の2.7人に1人が利用していることになる。多少の回復傾向は見られるものの、平均給与がなかなか上がらない中、国立・私立ともに大学の入学料や授業料は高止まりしている。そのため、「高等教育を受けたいが、家庭に経済的余裕がない」学生にとってセーフティネット的存在であることは確かだ。

奨学金制度は主に「日本学生支援機構」の事業で、経済的理由で修学が困難な学生に学資の貸与および給付を行なっている。返還義務のない「給付奨学金」と返還義務のある「貸与奨学金」の2種があるが、前者は住民税非課税世帯(生活保護受給世帯もしくは前年の所得が規定水準以下の世帯)出身者が対象で全学生の2.6%しか受けることができないため、ほとんどの学生が後者になる。

また、後者の「貸与奨学金」も無利息である「第一種」、利息のある「第二種」があり、「第一種」は高等学校又は専修学校高等課程の1年から申込時までの成績の平均値(評定平均)が3.5以上などの条件があるので、多くは利息がつく「第二種」を選ばざるを得ない。ざっとここまで読んだだけでもわかりにくいと感じるだろうが、果たして18歳の高校生が理解できているのか。また、奨学金制度は、本当に学生の為になっているのだろうか。

利用しなければ知る機会のない実態について、実際の利用者の声を聞きながら今一度考えてみたい。(具体的な数字は平成31年3月公開「日本学生支援機構」IR資料より抜粋。登場する人名はすべて仮名

CASE1:佐々木翔さん(43歳)

現職:IT系企業勤務

現状:完済

借入額:約200万円

返済総額:約300万円(利子3% ※注1)

月々の返済額:約1万3000円

「大学で考古学を学んでいたのですが、困窮して学費が払えないというよりも、自分のやりたいことに制限をかけたくないという理由で奨学金を借りました。そのおかげで2ヵ月ほどイギリスに留学ができたのですが、卒業後にいざ返し始めると想像以上に生活への影響が大きくて……。

新卒で広告代理店に就職したものの、手取り17〜18万円くらいの初任給の中から、毎月1割近い金額を引かれるのは痛かったですね。しかも1年半後くらいに転職したネットベンチャーが倒産、その後友人と立ち上げたミュージックレーベルでリストラ、さらに転職したネットベンチャーでリストラとまったく収入が安定しなくて。

週末にDJの副業で1〜2万円稼ぐだけでは到底足りず、恥を忍んで母に頼み込んだり、消費者金融を利用したりしたこともありました。そんな状況の中、ネットベンチャー時代に会得したプログラミングやプロジェクトマネージメントの能力を生かして1年間フリーのwebプロデューサーをやり、やっと前職のCM制作会社にプロデューサーとして転職して収入が安定しましたが、それまでが波乱万丈過ぎましたね。完済したのは2010年。『終わったーーーーー!』と叫んだほど嬉しくて、やっと新しいことに取り組めると思いました。

僕のようなケースはそうないと思いますが、18歳が300万円の借金を背負う重大性を理解できるかどうか。そもそも学生を支援する制度にも関わらず、有利子というのが理解できません。それなら『奨学金』なんて優しい名前ではなく、『学生ローン』という名前に変えたほうがわかりやすいと思います」

※注1 日本学生支援機構奨学金の利子は「利率固定方式(貸与終了時の利率)」と「利率見直し方式(約2年ごとの見直し)」の2つの算定方式があり、奨学金申込時にいずれか一方を選択しなけらばならない

CASE2:木下茜さん(26歳)

現職:人材系企業勤務

現状:返済中

借入額:約384万円

返済総額:425万円(利子1%)

月々の返済額:約2万円

「私は、大学の経営学部で人的資源論という人的配置やマネジメント管理の基礎を学ぶために、奨学金を借りました。両親から『大学に行くなら奨学金を使ってね』と言われ、『浪人もしたし、そんなもんか』と大した覚悟もなく借りてしまったのが甘かったと思います。

就職をきっかけに一人暮らしをして思ったのは、毎月のランニングコストが結構かかるということ。引っ越しなどまとまった金額が出ていってしまう月はお金が足りなくて、平日は会社で働いて、週末は居酒屋で日雇いバイトをすることもありました。ボーナスで一気に返したくても、せいぜい数ヵ月分にしかならなくて。完済予定の2036年までには結婚すると思いますが、家計に響くと思うので今のうちに貯金もしておこうと思っています。

奨学金制度そのものには賛成で、子どもが大学生になる頃にはもうバリバリ稼ぐフェーズでない親御さんも多いでしょうし、これから少子化で学費が高くなるかも知れないので必要なものだと思います。ただ、本人にしっかり話をしてしっかり理解させ、それでも大学に行くのかを考えさせるべき。そうすれば卒業後の仕事に直結する学部を選ぶようになるし、在学中の意識も変わると思います。奨学金は“気軽に使えて誰でも大学に行ける”ことを打ち出している印象がありますが、実際はそう甘いものではないと感じています」

CASE3:大谷雅彦さん(30歳)

現職:就業支援企業「UZUZ」勤務

現状:返済中

借入額:約240万円

返済総額:約250万円(利子0.5%)

月々の返済額:約1万5000円

「大学で特に学びたいことがあったわけではないんですが、高校卒業したら大学に行くものだと思っていて、『大学に行くなら奨学金を使って』と両親から言われたので、特に何も考えずに奨学金制度を利用しました。当時月に5〜10万円振り込まれていたんですが、大学2年の前期に『これって将来返さなきゃいけないお金なんだよな』ということに気がついて。学費がそこまで高くなかったのと、バイトで月16〜17万円くらい稼いでいたのでそこから学費を捻出できると思い、奨学金をストップしました。

効率的に単位が取れたので留年せずに卒業できましたが、バイト三昧だったので夜中の2時まで働いて朝6時55分の電車に乗って大学に行くという生活で授業中は居眠り。今思うと、もっと勉強しておけばよかったなと思います。

自分同様、「奨学金=借金」とどれだけの高校生が認識しているのでしょうか。例えば18歳の時に『高卒の生涯年収と大卒の生涯年収を比較してこれだけ差があるから、奨学金を借りてもトータルで換算するとプラスになるな』と考えられる人がどれだけいるか。そういう教育やシミュレーションは必要不可欠だと思います。

今後結婚するときは、『僕にはこれだけの借金があります』と相手に伝えるつもりです。大学に行くために借りた奨学金とはいえ、借金には変わりありませんから。現在、第二新卒やフリーターの就業支援を行う会社でキャリアカウンセラーをしていますが、『奨学金を返すために、今より給与の高い会社に転職したい』『奨学金を返さないといけないので、一刻も早く就職しないといけない』という人も少なからずいるので、借りるときによく考えて欲しいですね」

3人が口を揃えて言うのが、「奨学金は18歳の学生が想像している以上にヘビーな借金である」ことと、「利子などについてしっかり理解する機会がない」ということ。今日びインターネットで調べればすぐわかるだろうと思うかも知れないが、実際に調べてみるとあえてわかりにくくしているのでないかと勘繰ってしまうほど理解しづらい説明が並ぶ。

アルバイトでせいぜい月に数万円を稼ぐ程度の高校生に、何百万単位の借金や利子を説明してもピンと来ないのは当たり前だ。これだけ苦労しながら奨学金を返済している人がいる一方で、利息なしの「第一種」で借りたお金を投資信託や利率の良い定期預金に預け、卒業後に一括返済し差額で儲ける人もいるという。これを「情報弱者」が泣きを見て、「情報強者」が得をすると割り切れるだろうか。どこか腑に落ちないと思ってしまうのは、筆者だけではないはずだ。

奨学金は就学したい学生を支援する素晴らしい制度か、はたまた長期間支払い義務が生じる借金を背負わせる恐ろしいシステムか。低所得世帯が対象になる「大学無償化法」も成立した今、今後の在り方が問われるタイミングなのかも知れない。

  • 取材・文周防美佳写真アフロ

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