元自衛官が提唱する 性犯罪から身を守るための「狙われない技術」 | FRIDAYデジタル

元自衛官が提唱する 性犯罪から身を守るための「狙われない技術」

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女性を狙った卑劣な性犯罪。大きな事件が起きるたびに、女性の護身術が注目される。力がなくとも大男を投げ飛ばせる合気道など、女性向けといわれる護身術はいくつかあるが、実際に襲われたときに習った技を確実に使える確率は残念ながら100%とはいえない。

では女性が身を護るにはどうしたらよいのか。そんな疑問に答えてくれたのが、海上自衛隊に20年所属し、自衛隊初の特殊部隊の創設に関わった伊藤祐靖(いとうすけやす)氏だ。退官後、国内海外の軍隊や警察の訓練指導を行っている伊藤氏は、日本の警察と情報交換をする中で女性の護身を提唱。著書に『とっさのときにすぐ護れる 女性のための護身術』がある。女性の護身において、闘う技術より防御に注目する伊藤氏の言葉は新鮮だ。

護身に必要な「本当の強さ」を手に入れるための、実践的テクニックを聞いた。

6月17日、NHKのチーフプロデューサー、阿部博史(ひろふみ)容疑者が逮捕された。今年の2月、練馬区の路上で面識のない40代女性の肩をつかんで押し倒し、わいせつな行為をした容疑がかけられている

最大の護身は「敵」の視点を分析することから

伊藤氏によると、護身の大前提は加害者の視点に立って考えることだという。これは自衛隊で基地の防御計画を立てるときと同様だ。敵の攻撃を深く分析することは、強固な守りにつながる。性犯罪では加害者は下記の行動パターンをとることが多い。

「サーチング」獲物を探す

「ターゲティング」獲物の情報を集め、攻撃パターンを考える

「アタック」襲撃する

ここで大切なのは、第一段階の「サーチング」だ。格闘技などの護身術は第三段階の「アタック」への対応だが、伊藤氏はそれより前の段階である「サーチング」に注目する。

いくら格闘技に通じていても、突然襲われたときに冷静に反撃できる人は少ない。襲われる場所は道場と違い、地面は畳ではなくアスファルトの場合がほとんど。倒されて堅い地面に頭を叩きつけられたら、致命傷につながるおそれもある。運よく逃げることができても、怪我やトラウマのリスクは無視できない。

そこで最も重要なのは、最初の「サーチング」にひっかからないこととなる。これは「アタック」の段階で反撃するより、実は遥かに安全で効果的だ。

2015年8月26日午後10時頃、東京・中野区のマンション2階自室で、女優の卵で劇団員だった25歳の女性の全裸遺体が見つかった。捜査は難航したが事件から半年後、近所に住む男が逮捕され容疑を認めた。歩いていたら偶然被害者を見かけ、後をつけたという

加害者が獲物に選ぶのは「抵抗しそうにない人」

加害者が「サーチング」で獲物に選ぶのは、群れの中で一番弱い者だ。彼らは労力やリスクが最小限となる獲物を狙う。性犯罪は女っぽい容姿や、露出が多い服装が原因になると思う人もいるだろうが、伊藤氏はそれだけではターゲットにならないという。必ずそこには「弱そうな女性」という加害者側の視点があると。

では「弱そうな女性」とはどういうことだろうか。それは抵抗しそうにないということだ。

・こちらに気づいているか

・まわりを警戒しているか

・襲ったら大声を出すか

・激しく抵抗するか

・すぐ諦めそうか

・泣き寝入りしそうか

このような観点から、彼らは簡単に犯罪行為を行うことができ、逃げやすくつかまりにくい相手を「サーチング」しているのだ。

加害者は「姿勢」から女性の弱さを判断する

伊藤氏によれば、生物としての抵抗力は、姿勢や視線、立ち居振る舞いに表れるという。潜在的な身体の強さは姿勢から伝わり、身体が強ければ抵抗されると加害者は考える。逆にいえば、正しい姿勢を保てないのは身体を機能的に使えないことを示す。つまり生物として弱い印象を与えてしまうのだ。例えば猫背の人は生物としての抵抗力が弱い印象を与えるので、ターゲットになりやすい。安全な日常に慣れた私たちは「たかが姿勢」と考えがちだが、加害者にとっては大きな利点となってしまう。

伊藤氏が強調する正しい立姿勢は、頭蓋骨が骨盤の真上にのり、全身の筋肉をゆるめることができる状態だ。正しい姿勢をとれていれば、なにかあったときに最大限の身体能力とパワーを引き出すことができるのだ。普段何気なくとっている姿勢だが、正しい姿勢を意識することが女性の最大の護身につながるというのは基本的なことだからこそ奥深い。

こうした「女性の護身は正しい姿勢から」という考え方は、格闘技教室に通うよりも気軽に取り入れやすいのではないだろうか。たしかに姿勢をよくするだけで、まわりに自信や強さを感じさせることができる。正しい姿勢は猫背よりも視野が広くなる。遠くまで見渡せることで、早めに危険を察知できるだろう。

2015年6月20日の深夜、建設作業員である容疑者が東京・北区内の路上で帰宅途中の20代女性に背後から近づき、いきなり羽交い絞めにし、ひと気のないマンションの敷地内で性的暴行を加えた。犯行現場は周囲に商店もない住宅街のため、夜は真っ暗だった

今日から意識したい、日常の護身テクニック

普段女性が何気なくとっている行動に、危険が潜んでいることはないだろうか。最後に伊藤氏に、女性が今日から実践できる具体的な護身について聞いた。

 

・警戒していることを示す

加害者は警戒していない女性を狙う。時々振り返り周囲に目を配り、いつでもスマホで110番できる準備をしながら、しっかりした足取りで歩く女性はなかなか襲われないだろう。「自分は大丈夫」ではなく「もしかしたら襲われるかもしれない」と警戒し、その姿勢を表現することが大切だ。

・「普通の女性とは違う」と思わせる

鍵がたくさんついたキーホルダーをジャラジャラさせる、折り畳み傘の柄をわざと勢いよく伸ばすなど、普通の女性と違うことを匂わせる行為で、加害者の「ターゲティング」から外れることがある。

・暗いより明るい道、そして人の目

暗い夜道を避け、街灯のある通りを歩くのは正解だが、できればそこに「人の目」も加えたい。加害者は目撃者を恐れる。明るいだけでなく、なるべく人の目がある通りを選ぼう。

・自宅のドアを開けるときは必ず背後をチェック

女性がドアを開けた瞬間、後ろから背中を押して倒し、そのまま侵入する性犯罪のパターンがある。鍵を開ける瞬間は無防備になりがちだ。自宅に着いたと安心せず、必ず後ろを振り返りながら鍵を開けるようにしよう。

・怪しい人物に背中を見せない

エレベーターなど、狭い空間では痴漢被害が増える。無意識に行き先階ボタンの前に立ち、怪しい人物に背中を向けるのは危険だ。壁を背にして立ち、同乗者を認識しつつ警戒を示すことが重要だ。

・拒絶するタイミングを見極める

男性にしつこく迫られた場合、初期の段階で拒絶を示さないと大変なことになるケースがある。女性が受ける暴力の7割以上は「屋内」で「顔見知り」から。「ハグだけなら」「家にあげるだけなら」と希望的観測で曖昧な態度をとるのは危険だ。

・いざというときは、身近な道具を活用する

不幸にも万が一襲われた場合、身近な道具が役に立つことがある。例えば傘は振り回すのではなく、突く動作で相手を遠ざけることができる。雑誌も細く丸め、叩くのではなく突き下ろすイメージで使えばかなりの強度が出る。もし逃げ切れる距離なら逃げる。それが無理ならなんでも構わないので物を投げたり振り回したりして、相手との距離をとる。そのとき相手から目を逸らさず、背中を向けないことが大切だ。

 

安全な日常の中では、明日も同じような1日がやってくると誰しも考える。しかしそうした日々の中でも、性犯罪は起きている。危険を理解しそれに対処することの積み重ねが、今日と同じ安心できる明日を作るのではないだろうか。闘いを深く知るからこそ、闘いに巻き込まれないことが何よりも大切だと語る伊藤氏の実践的なノウハウは目からウロコだ。読者のみなさんも、ぜひ今日から意識してみてはいかがだろう。

 

伊藤祐靖(いとうすけやす) 1964年東京都出身。日本体育大学から海上自衛隊へ。防衛大学校指導教官、「たちかぜ」砲術長を経て「みょうこう」の航海長を務める。42歳で退官後、各国の警察や軍隊に指導を行う。著書に『とっさのときにすぐ護れる 女性のための護身術』『国のために死ねるか 自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動』『自衛隊失格 ―私が「特殊部隊」を去った理由―』がある。

  • 取材・文浜千鳥写真アフロ

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