<figure id="attachment_55154" aria-describedby="caption-attachment-55154" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bc341d7a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2019/07/d3570b932b69de5a60d3c99c2e017b77.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-55154" class="wp-caption-text">５月22日、エベレスト山頂直下で列を作る登山者たち。今シーズンの登頂者は史上最高となる885人、死者は11人に上った。著名な登山家ロビン・フィッシャーも8600m地点で死亡している</figcaption></figure>
<p>デスゾーンと呼ばれる8000ｍ超の世界は、平地の３分の１の酸素しかない過酷な場所だ。それでも人々は神々の山嶺へと押し寄せ、「渋滞」まで引き起こすようになった。</p>
<p>異常事態の背景を、登山家・野口健が明かす。</p>
<h3>大自然を味わうどころかテントの場所取りで人間同士の諍いが</h3>
<p>エベレストの渋滞は、年々増えてきています。エベレスト入山には、ネパール側とチベット（中国）側の２ルートがあるのですが、チベット側は、入山許可を取っていても何か政治的なトラブルが起こると、いきなり許可が取り消しになる。北京五輪が開催された頃からチベット独立問題が深刻化して、特に頻繁になっているように思います。準備して資金を集めているのに直前で中止となるとリスクが大きい。だからチベット側が敬遠されて、ネパール側に登山者が集中しているのです。</p>
<p>渋滞のもう一つの理由は、現在の登山者の約８割が、個人でツアー会社に申し込む形の公募隊であるということ。かつては、例えば日本山岳会がエベレストに挑戦するとなると、各大学山岳部のエリートを集めてその中でさらにふるいにかけて隊員を選抜しました。ところが昨今は公募隊がメインになり、プロガイドが、山にほとんど登ったことがないような人でもエベレストに登らせてあげる、と宣伝している。実際、好天が続き、大量のシェルパがついて体を引っ張り上げてくれたり、荷物も全部持ってくれたりすれば、素人でも登れてしまうことがあります。</p>
<p>ですが公募隊の登山客は、慣れていないので、歩くのが遅い。滑落の危険がある断崖(リッジ)やクレバスなどには、固定ロープが張ってありますが、こうした箇所は一人ずつしか通れません。そこでまごつく人がいると、熟練の登山者でも追い抜くことが難しいので、渋滞が起きるのです。</p>
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<p>今年、渋滞が話題になったヒラリーステップという場所は、山頂直下の最後の難所で、歩く幅が50㎝から１m程度しかありません。上りと下りで行き交うことはできないので一方通行を交互に繰り返すことになり、人が増えれば登頂してからも下山にすごく時間がかかる。通過の順番を待ってじっとしていると、寒くて体力を急速に消耗していきます。また、今回死亡したうち数人は高山病だったそうですから、おそらく酸素ボンベの残量が切れてしまったのでしょう。公募隊では一般的に客一人にシェルパ一人がつきますが、8000mを越えると、シェルパでさえも歩けなくなった人を担ぎ下ろすことはできません。回収にもリスクが伴うので、遺体は放置されることになります。</p>
<p>こんなニュースがあっても、エベレストを目指す人は減らないでしょう。リスクを背負ってでも行きたいと思わせるのがエベレストだからです。</p>
<p>ヒマラヤの山岳地帯をトレッキングしていると、エベレストが遠景で見えるのですが、本当に他を圧する存在感なんです。僕も19歳の時に初めて目にして、一度でいいから挑戦したいという気持ちになりました。周囲に8000m級の山々があるのに、それらが小さく見えてしまう。エベレストの山頂付近は雪がつきにくいため黒光りをしており、その神々しさは言葉に表せません。</p>
<p>8000m級の山で一度登っているのにまた登りたい、と思ったのはエベレストしかありません。それが、世界最高峰の魅力なんです。</p>
<figure id="attachment_55159" aria-describedby="caption-attachment-55159" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cf6ad1ce"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2019/07/a3f72a247c56b0bbfb03ec5d6ca8497f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-55159" class="wp-caption-text">ベースキャンプに張られるおびただしいテントは春のエベレストでおなじみの風景。登頂可能な時期は毎年３〜５月で、今年は特に天候が厳しく登頂可能な日はごくわずかだった</figcaption></figure>
<h3>いまも山中には200を超える登山家の遺体が眠る</h3>
<figure id="attachment_55160" aria-describedby="caption-attachment-55160" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0a12e2a0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2019/07/9d00b42a64ff2da93b5fb3ddd4cfde6a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-55160" class="wp-caption-text">夕陽に染まるエベレスト山頂。山嶺に吹き付ける風速は時に時速300㎞を越える</figcaption></figure>
<figure id="attachment_55161" aria-describedby="caption-attachment-55161" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="881e7332"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2019/07/fd6a3affe8fd8ac72cd88a5421c45870.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-55161" class="wp-caption-text">エベレスト山中のテントで酸素を吸う野口氏。高所では酸素ボンベが欠かせない</figcaption></figure>
<figure id="attachment_55162" aria-describedby="caption-attachment-55162" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="52272591"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2019/07/ee6743bc8415d24b153eff9a1dead566.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-55162" class="wp-caption-text">エベレスト山頂。7900mのキャンプ４から上はデスゾーンと呼ばれ、登頂に12時間前後かかる</figcaption></figure>
<figure id="attachment_55165" aria-describedby="caption-attachment-55165" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="50074d38"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2019/07/467c1af0e072bb18e6973dd094a2adee.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-55165" class="wp-caption-text">ヒマラヤの高地住民・シェルパ族（左）。ポーターをつとめたり先行して固定ロープを張る</figcaption></figure>
<figure id="attachment_55166" aria-describedby="caption-attachment-55166" style="width: 1000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4dddc752"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2019/07/991b1ce3d555e871f26249617bb79ffe.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-55166" class="wp-caption-text">野口健／’97年からエベレストに挑戦し３度目の’99年に登頂成功。当時世界最年少記録の25歳で７大陸最高峰登頂を達成した</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2019年７月12日号より</p>


AFP/PROJECT POSSIBLE（１枚目）、Getty Images（２・５・６枚目）、渡辺幸雄（３枚目）、野口健事務所（野口氏写真２点）

エベレストの「渋滞」が深刻だ。今シーズンの登頂者は史上最高となる885人、死者は11人に上り、著名な登山家ロビン・フィッシャーも死亡している。この異常事態の背景を、アルピニスト・野口健が明かした。

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