来年にも世界一? ブラインドサッカー界の「澤穂希」、菊島宙の夢

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練習後、17歳の菊島宙(左)が父・充さんと談笑。ピッチで見せない笑顔がはじける

「3月に(品川で開催された男子の)ワールドグランプリを見て、やはり海外の選手とやりたいなって感じました。会場にはいけなかったのですが、私はまだ視力が残っているので自分のスマホからWi⁻Fiをつないでみていました。女子は(東京の)パラリンピックに出られませんし、まだワールドカップもありませんが、選手としていつか世界一になりたい、という目標はあります」

2020年東京五輪パラリンピックの種目である視覚障がい者による5人制サッカー、ブラインドサッカーのクラブ日本一を決める「アクサブレイブカップ」の決勝が7日、東京・調布市のアミノバイタルフィールドで行われる。注目は17歳の女子日本代表の菊島宙(そら)だ。埼玉T.Wingsのエースでもある菊島は、男子選手にまじって5試合で22ゴール。6月9日、準々決勝で対戦し、男子の日本代表経験者が数多く所属するAvanzareつくば戦でも日本代表の守備の要、ブラジル出身の佐々木ロベルト泉に当たり勝ち、佐々木がピッチに転がる場面もあった。

「私は負けず嫌い。誰が相手でも、負けたくないんです」

そう笑った菊島は、生まれたときから視神経の病気(先天性両眼視神経低形成)を患い、視力はわずか。スマホの映像なども極端に顔に近づけないと見えない。それでも父・充さんがサッカーをやっていた影響で幼稚園のころからボールに触れ、小学校2年生から本格的にサッカーをはじめた。

その時期にあわせて、仕事の傍ら、選手としてサッカーを続けていた充さんが愛娘の指導を開始。充さんは高校時代、元日本代表の中田英寿や松田直樹(故人)らと練習試合で対戦経験がある実力者。サッカー初心者に対して普通はパスの仕方から教えるが、充さんは菊島にインステップのシュートからやらせたという。そのことが、今の決定力の原型を作った。菊島が小学5年生になると八王子盲学校の教員で、男子日本代表のエース黒田智成からブラインドサッカーを紹介してもらい、サッカーとブラインドサッカーを両方プレーした。しかし中学になるとサッカーで転機が訪れた。父・充さんが明かす。

「平日の練習が授業の後、夜に行われることが多くなって、(視力が弱い)宙にとっては昼間にやる時以上に見えなくなる。宙なりに頑張ってはいましたが、ついていけなくなったんです。周りの子は、宙が見えないことがわかっていても、見えづらいことが原因で起きたミスを責めることもあって、そのことで泣いて帰ってきたこともありました」

しかし、そこで充さんは菊島を単になぐさめただけではなかった。

「そこで負けていてもしょうがないので、『(意地悪をしてきた仲間に)言い返してこい』と宙に言ったこともあります。僕はサッカーについては宙を障がい者としては見ていないし、言い訳してきたときにはさらに怒りますよ。こちらが宙のことを思って指摘したことに対し、まず受け止めてほしいんです。結局、親が先に死ぬじゃないですか。この子がひとりになってもどんなことでも耐えられるようになってほしいんです」

それでも、試合前に「3ゴールしよう」と親子で決めて達成できたら、充さんは焼き肉などをご馳走し、娘の頑張りを素直に称え、アメとムチを使い分けながら成長をアシストしてきた。2017年に発足した女子の日本代表でも背番号10を背負うエースとして全6試合に出場し、21ゴール。中学時代、15歳で日本代表に招集されてデビュー戦で4ゴールをあげて以来、なでしこジャパンをけん引し続けて、世界一までのぼりつめた澤穂希の姿と重なる。菊島が言う。

「澤選手のプレーそのものはほとんど見たことはないんですが、背番号10をつける人は、プレーが本当にうまくて、チームを勝たせられる人だと思う。とにかく点をとって、キャプテンとは違う引っ張り方をしないといけないと思っています」

冒頭で菊島が語ったように、女子は現時点でパラリンピックやW杯が開かれる見通しは立っていない。しかし菊島父子は近い将来、W杯が開かれることに希望を持っている。なぜなら、日本ブラインドサッカー協会の寄付会員用に対して配られた冊子に、国際視覚障害者スポーツ連盟の幹部のコメントが掲載されていたからだ。その冊子を充さんはいつも、菊島を送り迎えする車の中にいつも入れてある。

〈(中略)具体的には2020年になんらかのかたちで国際大会を開催したいと考えていますが、(中略)女子も同様に最初は5~6チームからスタートするのが理想です〉

「宙」という名前には、男の子でも女の子でも、「でっかく育ってほしい」という両親の思いが込められている。世界を制する宙になるために、まずは7日の決勝戦で、菊島はチームとして初の日本一をめざす。

6月9日の準々決勝で菊島宙(中央)は日本代表主将・川村怜(右)と堂々と渡り合う
体育館でのマンツーマン指導により、菊島宙(右)のシュート力はあがった

Photo Gallary3

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