悲願校ってなんだ?夏の甲子園大会に秘められたもうひとつのドラマ

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昨夏、記念すべき第100回大会が行われた全国高校野球選手権大会、通称・夏の甲子園。圧倒的な優勝候補とされた大阪桐蔭高校と好投手・吉田輝星(現・日本ハム)の活躍で快進撃を見せた金足農業(秋田)との決勝戦は大いに盛り上がった。また、春には全国選抜高校野球大会、通称センバツも開催され、多くの高校野球ファンを楽しませている。日本でもトップクラスの人気を誇るスポーツである高校野球。今年も夏の甲子園に向け、日本各地で地方予選が始まっている。

毎年、話題になる甲子園大会の陰で、当然のことながら地方大会で涙を飲む高校が数多く存在する。そんな地方大会で敗れ去った高校の中でも、あと一歩のところで甲子園を逃し続けている高校に注目したのが『あと一歩!逃し続けた甲子園 47都道府県の悲願校・涙の物語』(KADOKAWA)だ。タイトルにある通り、あと一歩で甲子園出場まで迫りながら、なかなか出場がかなわない高校を“悲願校”と呼び、そんな高校の実態を取り上げた異色の一冊だ。

この夏、「悲願校」を“卒業”して、憧れの甲子園の土を踏むことができるのは…

著者の田澤健一郎氏は、自身も山形の強豪・鶴岡東(当時は鶴商学園)でプレーしていた元高校球児で、野球関連の取材・執筆をしている編集者・ライターだ。小さいころから野球が好きで、シーズンになると新聞などで各地の地方大会の結果をチェックするような子どもだったという。

「毎年、全国の結果に目を通していると『また、この高校が惜しいところで負けている』と思う高校が、各地にあることに気がついたんです。毎年『今年もダメだったか……』と思っているうちに、いつの間にかそんな高校に注目するようになって、さらに感情移入してきて『がんばれ!』と応援するようになっていたんですよ(笑)」(田澤氏 以下同)

大学卒業後はマスコミの世界に進んだ田澤氏。野球好きが高じて、野球関連の取材や執筆を続けながら、悲願校のチェックも続けていた。そんな折、マニアックな切り口で知られる野球専門誌『野球太郎』(当時は『野球小僧』)で、2008年から夏の甲子園シーズンになると毎年、悲願校の記事を執筆することになる。

「悲願校のことを調べていくと、その学校や地域の歴史が見えてきます。甲子園に出場できる高校だけでなく、強豪校に挑んでは敗れていった学校があり、彼らを応援している地域の人たちも大勢います。ラジオに出演したときに、青森県の悲願校である『大湊』のことを話したら、地元のリスナーからすぐ反響がありました。全国的には有名でない高校でも反響がある点に、改めて高校野球の深み、奥深さ、裾野の広さ、底力を実感したのです」

「大湊」は夏の青森県大会で準優勝2回、ベスト4進出4回、さらに春のセンバツでは21世紀枠の候補に挙がること3回という、県では長く実績を残している公立校ながら、春夏通じていまだに甲子園出場がない。選手は基本的に学校のある下北半島の出身者で、現役選手やOBだけでなく、地元の人々も一丸となって甲子園出場を願っている、典型的な悲願校といえる。一方、青森といえば坂本勇人(現・巨人)らを輩出した強豪校、「八戸学院光星」が有名。夏の甲子園でも準優勝2回という実績のある高校だが、実は1997年の春のセンバツで甲子園初出場を果たす前年の1996年夏まで、3年連続青森県大会決勝で敗れているという“元悲願校”だったりもする。

「大湊」に限らず、全国には、こうした辛酸を舐め続けている高校が存在する。田澤氏が取材活動を行う中で特に思い入れを感じた悲願校、そして、今年こそ悲願校を“卒業”できるかもしれないと期待を寄せいている高校をピックアップしてもらった。

日本最北端の悲願高は決勝で3度のサヨナラ負け

稚内大谷(北北海道)

北海道の高校野球は支部と呼ばれる10の地区に分かれていて、夏の地方大会では各支部の予選を勝ち上がった高校が北・南北海道大会へ進出する。その10の支部のうち、唯一甲子園出場校を出していない名寄支部にある悲願校が「稚内大谷」だ。同校はかつて名寄支部予選で100連勝を記録、夏の北北海道大会でベスト8以上多数、1980年、1981年、1993年は決勝まで進んでいるいう地域では知られた実力校。特筆すべきは、その3度の決勝戦すべてでサヨナラ負けを喫して、甲子園出場を逃していること。名寄支部から甲子園出場すれば、日本最北端出場記録が更新されることもあり、「稚内大谷」には毎年大きな期待が寄せられている。

東海大高輪台(東東京)

「東海大相模」(神奈川)、「東海大甲府」(山梨)といった強豪校が多い東海大系列高校。野球部のある関係校13校のうち、唯一甲子園出場がないのが「東海大高輪台」だ。東京都港区高輪にあり、品川駅からも徒歩圏内という大都会にある高校だ。住所だけ見れば好立地だが、専用の練習グラウンドがないという、都会の学校ならではの問題に頭を悩まされ続けていた。しかし、2004年に埼玉県さいたま市に専用グラウンドが完成。学校からグラウンドまではバスでの移動にはなるものの、専用の練習場があると無いとでは雲泥の差だ。そのことを裏付けるように、2008年、2017年には決勝まで駒を進めるなど着実に実力をつけている。悲願校卒業は間近か。

横浜創学館(神奈川)

「横浜」、「東海大相模」を筆頭に、「桐蔭学園」、「日大藤沢」、「慶應義塾」、「桐光学園」、「横浜隼人」といった強豪校がひしめく神奈川県で、20年以上も健闘しながら、あと一歩届かないのが「横浜創学館」。群雄割拠の神奈川県にあって、ベスト8が6回、ベスト4が3回、記念大会となった2008年の南神奈川大会では決勝進出も果たしているが、上位に進出すると、待ち構えていたかのように「横浜」、「東海大相模」が立ちはだかり、敗れて涙を飲むという展開が続いている。OBには秋山翔吾(西武)、石井裕也(元・日本ハムほか)といったプロ野球選手も。

田澤氏が注目! 今年こそ悲願校からの“卒業”なるか!?

都城東(宮崎)

各地方には、プロも注目するような選手がいるわけでもなく、前評判が高いわけでもないのに、「気がつけばベスト8」まで進出している、といった印象の高校が存在する。宮崎県でその「気がつけばベスト8」というのが「都城東」だ。2005年以降は各種県大会でベスト4が5回、ベスト8が7回と不思議な安定感で存在感を示している。その「都城東」で田澤氏が今年注目しているのが投手力。

「3年生の左投手武藤敦貴と2年生の右投手2人がいずれもMAX140㎞/h台のスピードを記録しているうえに、緩急を上手く使う右のアンダースローの3年生・横山龍之介もいるなど投手陣が充実。今年いちばん注目している悲願校です」

そんな都城東は、初戦で同じく宮崎の悲願校「宮崎学園」と対戦。悲願校対決に注目が集まる。

浦和実(埼玉)

田澤氏は今年春の埼玉県大会で準優勝、関東大会でも8強入りした「浦和実」にも注目。

「長い間、埼玉で健闘している私立校で、今年は3年の三田隼輔、2年の豆田泰志の2人の投手が軸。特に春に好投した豆田の伸びのあるストレートは注目です。ただ、それでも『浦和学院』や『花咲徳栄』といった甲子園常連校が相手となれば、厳しい戦いになるでしょう。投手陣の疲労を抑え、打線が勢いに乗れば、あるいは……」

毎年、全国規模で大きな注目を集める甲子園。その一方で、これまで一度も甲子園に出場することなく敗退を続けるも、その歴史とドラマを積み重ねてきた「悲願校」。そのクライマックスとなるのは、やはり悲願校を卒業し、甲子園出場を果たしたときだろう。その歴史的な瞬間を見るため、今年は各地の地方大会から注目してみてはいかがだろうか。

田澤健一郎(たざわ・けんいちろう) 1975年生まれ、山形県出身。高校時代は山形の強豪校、鶴岡東(当時は鶴商学園)で、ブルペン捕手と三塁コーチャーを務める。大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスの編集・ライターに。野球などのスポーツ、住宅、歴史などのジャンルを中心に活動中。マニアックな切り口の企画を得意としている。共著に『永遠の一球~甲子園優勝投手のその後』(河出書房新社)など。

  • 取材・文高橋ダイスケ写真アフロ

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