SBスチュワートの活躍が「日本野球の空洞化」を招く危険性

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7月9日、来日して初めての実戦登板を行ったスチュワート。151キロのストレートはさすがメジャードライチ(写真は、6月5日) 

6月上旬、ニュージャージー州セコーカスでMLBドラフトが開催された。

全体1位にはオレゴン州立大のアドリー・ラッチマンがボルチモア・オリオールズに指名され、捕手としては、01年にミネソタ・ツインズに指名されたジョー・マウアー以来、18年ぶりの全体1位指名となった。

しかし、大きな話題になったのはそれくらいで、特に投手に目玉となる選手が不在で「不作の年」と切り捨てる現地紙もあった。

そんな中、昨年、2018年のMLBドラフトでアトランタ・ブレーブスに1巡目(全体8位)で指名された投手が、日本のメディアを賑わしている。ソフトバンクホークスに入団した198cmの大型右腕カーター・スチュワートだ。

当時18歳の高卒選手だったスチュワートはメジャードラフト指名後の身体検査で右手首に不安が見つかった。それを受けブレーブスが提示した契約金が、本人側の希望額と離れていたためサインに至らず。地元の短大に進学したが、代理人のスコット・ボラスが翌年、つまり冒頭で紹介した今季のMLBドラフトでの指名がないと予測し、日本球界に売り込みをかけてきた経緯がある。スポーツ紙のパ・リーグ担当記者が語る。

「98マイル(156キロ)前後の4シームを軸に、大きな落差を持ったカーブ、緩急の効いたチェンジアップが武器の投手。既に何度もブルペン投球を行い、7月9日には初めて実戦登板も行いました。この日は、打者7人に対して、被安打1とほぼ完璧なピッチングでしたね。ストレートは最速151キロ。これから2軍戦を経て、順調に行けば夏にも1軍のマウンドに立たせるのではないでしょうか」

連日、彼の動向が報道されているが、実はこれに渋い顔をする球界関係者も少なくない。ある球団のスカウト担当は次のように語る。

「あの契約をされてスチュワートが結果を残すと、アメリカのアマチュアから『日本球界に興味がある』という若者が増えてくる。それは日米の球界にどんな影響を与えるかちょっと分からない。いいことばかりではないと思う」

スチュワートは6年総額700万ドル(約7億7000万円)の契約をソフトバンクと結んだが、現在のMLBでは新人選手に対してこの数字を提示することはほとんどない。現行のルールでは、ドラフトにかけた新人選手に対してはマイナー契約しか提示できないからだ。

また、メジャーの選手はアクティブロースター(ベンチ入りの25選手)に入った日数が累計3年分に達して初めて、年俸交渉の権利を得ることになる。1年目の選手の年俸は35万ー50万ドル程度で、プロで稼働した実績のないスチュワートに上記の金額提示は破格以外の何物でもないだろう。前出のスカウト担当者が話す。

「スチュワートの活躍次第では、米マイナーリーグを飛ばして日本に来て、ある程度の契約金や年俸を稼ぎながら実績を残し、メジャーに戻るという“逆輸入”が起こる可能性もあります。日本球界にとっていい話に聞こえますが、そう簡単なことではないのです」

米アマチュア選手にとっては過酷なバス移動や低賃金の別名“ハンバーガーリーグ”をスキップして憧れのメジャーに辿り着く、特急切符にもなりうるが、一方で、日本の球界がある意味MLBの「マイナーリーグ化」すると言ってもよいだろう。

問題はそれだけではない。逆のパターンも存在する。

現在、NPBとMLBの間には、お互いのドラフト候補選手とは交渉しないという、紳士協定がある。しかし、これは明文化されているわけではない。あくまで暗黙の了解だ。

それを破ったのが08年当時、新日本石油ENEOSに所属していた田澤純一(現在はシカゴ・カブスとマイナー契約)だ。NPBを経由せず、ボストン・レッドソックスと3年総額400万ドルの契約を結んだ。これによりNPBは「ドラフト指名を拒否し海外球団でプレーした場合、当該球団退団後、高校生は3年間、大学・社会人は2年間指名凍結する」という、通称・田澤ルールを設けた。

さらに昨年、当時パナソニックに所属していた吉川峻平がアリゾナ・ダイアモンドバックスとマイナー契約を結んだ。アマ選手は通常、プロ球団と契約する場合、それ以前に登録抹消届を提出する必要があるが、吉川はその手続きを飛ばして契約した。

これにより吉川には田澤ルールに加え、JABA(日本野球連盟)からの再登録を認めない処分を受ける。これは日本球界からの事実上の永久追放だ。さらに事態が進むと、次に起こるのは上記の紳士協定の形骸化ではないか。メジャーリーグ関係者が、あくまでも仮説として、次のように語る。

「メジャー球団は日本国内でも熱心にスカウティングをしています。今後考えられるのは、彼らが高校生や大学生、社会人のドラフト候補生に直接、接触を始めることです。子供の頃から憧れたメジャー球団に名指しされた結果、田澤ルールのリスクを負ってでもメジャー挑戦を決断するアマ選手が出てくることは容易に予想されます」

さらにこのメジャーリーグ関係者は、「そうなると甲子園は無意味なものになってしまうでしょう」と続ける。

「今はそんなことはできませんが、例えばメジャーのスカウトが高校二年生の投手い接触したとしましょう。スカウトは、連投が問題視される甲子園での投球や、それに続く地方大会でのマウンド、強い負荷のかかるトレーニングなどを制限します。甲子園を目指してきたこれまでの高校野球の形がかわることになるでしょう」

また、現状のMLBドラフトの対象は、アメリカ、カナダ、プエルトリコに居住し、この3カ国の高校、短大、大学、独立リーグに所属している選手だ。

「この条件に当てはめるための留学や引っ越しするような“裏技”まで使われると、6月のMLBのドラフト、夏の甲子園、10月のNPBのドラフト。これらがぐちゃぐちゃになるでしょうね」(前出・メジャーリーグ関係者)

近年、アマ選手の青田買いは進む一方だが、そこに日米間という新たな要素が加わると、良くも悪くも可能性は膨らんでいく。高卒メジャースタメンという夢もあるが、メジャー球団の指示で甲子園で怪我防止のためヘッドスライディングを禁じられる球児。なんていう存在も出てくるかもしれない。

もちろん、これらは仮説に過ぎない。ただ、95年に野茂英雄が渡米してから24年、制度の改革と制度破りの繰り返しで日本球界から多くの選手がメジャーに挑戦してきた。国際的な人的移動の垣根が少しずつ低くなる中、メジャーを目指す選手が増え続けると、日本球界が空洞化してしまう危険性は十分にある。

スチュワートのプレーに注目が集まることで、あらたな問題が浮き彫りになってきそうだ。

Photo Gallary1

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