日本スクラムの要・具智元 W杯へ「自信があります」と胸を張る | FRIDAYデジタル

日本スクラムの要・具智元 W杯へ「自信があります」と胸を張る

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1994年生まれ。7月で25歳になる。父は元韓国ラグビー代表、具東春
1994年生まれ。7月で25歳になる。父は元韓国ラグビー代表、具東春

ワールドカップ日本大会を9月に控えるラグビー日本代表は、宮崎でタフな合宿を重ねている。

本番で使う攻防の戦術を、実戦形式のセッションで磨き上げる。身体作りや走り込みにも時間を割く。序盤は夜間練習もある。負担はかかる。

「(練習の)回数も多く、本当に疲労との戦いです。それまでリラックスできていた夜にも練習が入ったことで本当にハードになりました。疲労も蓄積していると思います」

こう語るのは、快足ウイングの福岡堅樹。「4年前」のイングランド大会に向けても、エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチらによる徹底管理のもと早朝練習込みの長期キャンプを実施している。福岡は当時といまを比較して「(前回は)自分にとってはメンタル的なプレッシャーがあった」と苦笑しつつ、こうも語る。

「体力面でいえば(厳しさは)4年前に匹敵します」

鍛錬の代償か。今度のキャンプでは怪我人が相次いでいる。特に懸念されるのが、韓国出身の「ぐーくん」こと具智元(グ・ジウォン)の状態ではないか。7月11日に日本ラグビー協会が発表した「負傷選手リスト」では、具について<練習合流日:本日から約3週間後>という説明がなされている。

公式記録上「身長183センチ、体重122キロ」と堂々とした体格の具は、晴れ舞台を25歳で迎える。まだ元気だった6月中旬には、穏やかそうな顔を引き締め日本語で明かしていた。

「いまは、自分がこれまでラグビーをやってきたなかで一番きつい期間です。フィットネス、技術、スクラム、ラインアウト…。すべてを学んでいるところです」

ポジションは右プロップ。屈強な選手が8対8で組み合うスクラムでは、最前列右で相手の左プロップ、フッカーの間に頭を入れる。両肩でライバルたちの重さを受け止め、臀部で味方からの押し込みを受ける。ラグビーでもっとも辛抱強さと頑丈さが求められそうなポジションを務めながら、2017年11月のテストマッチ(代表戦)デビュー以来、日本代表の中核に成長していった。

兄の智充とともにニュージーランドのウェリントンへ留学したのは、小学6年の頃。中学3年時に日本へ渡り、大分の日本文理大付高に進んだ。全国大会に出ない中、17歳以下日本代表、高校日本代表に選出された。強靭な体幹と真面目な性格はあちこちで買われた。

2014年に20歳以下日本代表の指揮官として具を指導した沢木敬介氏は、この時点で断言した。

「いずれ代表にならなければいけない選手」

父の具春東は、韓国代表史上最高クラスと謳われる左プロップで、三重のホンダにも在籍していた。息子たちには、母国より競技人気の高い日本でプレーさせたかった。兄弟が東京の拓大に入ると何度も上京し、試合観戦後は次男へスクラムの組み方について何度も助言した。

具は代表に定着した頃、父とのやりとりについて笑みを浮かべて語ったものだ。

「最近のお父さんからのメール(の内容)は、アドバイスよりも応援の方が多くなっています」

話を戻す。2016年、まだ学生だった具は日本のサンウルブズの一員となり、国際リーグのスーパーラグビーに出る初めての韓国人選手となった。歴史に名を刻んだ。

さらに日の目を浴びるようになったのは、ホンダに加わりながらサンウルブズとも契約した2017年。当時サンウルブズでも教えていた日本代表の長谷川慎スクラムコーチのもと、8人が低い位置で一体化する日本独自の型をマスターする。一時は故障に泣かされるも、焦らず、苦しい時に足を後ろへ下げる癖を正す。

持ち前の強さを緻密なシステムに適応させられるようになり、スクラム大国のジョージア代表、ラグビー発祥地のイングランド代表にも引けを取らなくなった。

「もっとうまくやろうとしています」

こう意気込んだのは、「ラグビーをやって来たなかで一番きつい期間」と疲れを認めた6月中旬のことだった。

2019年4月、メルボルンで行われたレベルズ戦。具はサンウルブズの一員として参戦
2019年4月、メルボルンで行われたレベルズ戦。具はサンウルブズの一員として参戦

今秋の大舞台でぶつかるのはアイルランド代表、スコットランド代表という欧州6強の一角で、スクラムでは大男たちの群れが上から、斜めからと圧をかけてきそうだ。

それでも具は、「自信があります」と展望した。

両国と鎬を削るイングランド代表と戦ったのは2018年11月。敵地トゥイッケナムスタジアムで約8万人の観衆を目の当たりにし、「夢のなかで試合をしているようでした」。持ち場のスクラムでは「最初は心配でしたけど組んでいくうちにいけるな、って」と手ごたえを掴んだ。

以後もビデオ分析などを通し、日本代表が欧州列強を制するための必要項目を精査。いまでは長谷川コーチらとの積み重ねに「自信」を持っているという。

「欧州は組み方が似ている。大きくて、(姿勢は)高いけれど力がある。(それに対し、日本代表は)8人でバチッと低く組む。練習を重ねるなかで、(組み勝つ)自信もついてきました」

日本代表のジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチは、就任から2年が過ぎた2018年11月になってから「ティア1(強豪国)と対戦するにあたり常に抱えていた問題が、選手層の薄さです」と発言した。その結論は、ジョーンズ前ヘッドコーチがイングランド大会後に出したものとほぼ同じに映る。

ともかくジョセフはワールドカップイヤーの冬、約60名も集めた候補選手を適宜2つのチームへ配置。自身から見て国際レベルに耐えうる選手を、1人でも多く育てようとした。

しかしいま、ビッグイベントは約2か月後に迫っている。

現状、右プロップ候補となるのは主戦級だった具、イングランド大会の代表で昨秋約3年ぶりに復帰の山下裕史、埼玉工業大を経てパナソニック入り後に転向のヴァル アサエリ愛、今年初めて選ばれた23歳の木津悠輔の4名。ここ3年間におけるスーパーラグビーを含めた国際経験、現体制下での存在感では、具がリードしている。

ライバルたちに具を圧倒するだけの奮起が求められるのはもちろん、不動の存在となりつつあった具の復調も間違いなく求められる。合宿でのサバイバルレースを「すごい緊張感のなかできつい練習を重ねている」とする本人が思う以上に、周りは具に期待している。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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