多分現地より旨い!横浜「いちょう団地」のベトナム料理店4選
「いちょう団地」フリークのグルメライター猫田しげるが案内。ネットに載らない穴場も紹介!
突然ですが、「いちょう団地」を知っていますか?
最近メディアでも取り上げられ、もうすぐ埼玉県西川口ぐらいに脚光を浴びるであろうと予測される郊外の団地です。

神奈川県横浜市の西のはずれ、「小田急江ノ島線高座渋谷」というマニアックな駅からさらに歩いて15分という辺境にある県営団地。境川を挟んで横浜市と大和市にまたがって、約80棟もの高層住宅が整然と連なる街並みは、まるで巨大な要塞都市のようです。

何が凄いって、このいちょう団地、住人約3500世帯のうち約3分の1が外国人。しかも、中国や韓国だけではなく、ベトナム、フィリピン、カンボジアなど10カ国以上の人々が暮らす多国籍タウンなのです。
道を歩く人の顔つきもみな異なり、聞こえてくる言葉も外国語。たまに日本語で話しかけられると逆に「えっ」と聞き返しそうになるほどです。
団地内にある看板も多国語表記です。「バイク進入禁止」も6ヵ国語で書かないといけないんですね。ていうか、バイクで団地内に入っちゃう人もいるってのがなんだか微笑ましいですね。
マンションからは大音量の外国語歌謡曲や、外国語ラジオ、麻雀のジャラジャラする音が聞こえてきて、ここが日本だとは到底思えません。
でも、私がこの街に通う理由は単に外国人と会えるからではありません。タイトルからすでにバレてると思いますが、「ベトナム料理が日本一旨い(猫田調べ)」からです!
ベトナム料理店は、団地内や周辺に5店舗ほどあります。そもそもなぜ10カ国もの人が暮らしているのにベトナム料理しかないのか? という疑問は置いといて、どの店も超絶旨い。日本一というより、現地より旨いんじゃないかと思います。現地行ったことありませんが。
そこで今回は、「自称・誰よりもいちょう団地に通っているライター猫田しげる」が、いちょう団地で食べるべき絶品をご紹介します。
1 初心者大歓迎の絶品食堂「タンハー」

最も賑わっている食堂。食材店併設、というより食材に埋もれてご飯を食べると言ったほうが正しいでしょう。壁や棚に、何に使うのかひとっつもわからない原色パッケージの食材が積み重ねられ、現地の方々が慣れた手つきでカゴに入れています。
店員さんはとてもフレンドリーで、日本語も通じます。メニュー表には「メイ ガー サオ ティユー」「ブン ロー タイ ヘオ」など意味不明の単語が並びますが、「豚の焼肉と揚げ春巻きがのっている細麺のつけ麺のような料理です。ミントがポイントになっています」などと、ものすごく詳しく説明書きと写真があるのでとても助かります。
しかし気が遠くなるほどメニューが多い。100種類はあります。
一つ忠告しておきますが、この店の料理はどれも量がめちゃめちゃ多いです。一人で行って2品とか頼むと笑える量がきますが、なかなか来られない場所なので、オーダーしすぎても後悔はしません。食べ過ぎた後悔より食べなかった後悔のほうが愚かなのです!(名言ですね!)
まずここで食べて欲しいのは、バインセオ。だいたいバインセオってお店に行くと「ベトナム風お好み焼き」と訳されているじゃないですか。あれはテキトーですよ。ここのバインセオは、本場と同じように皮に米粉を入れて揚げ焼きにするので、生地はバリバリ、揚げ物並みに油っこくて美味しい! お好み焼きなんて生ぬるいもんじゃないクリスピー感です。

間にはモヤシとチャーシュー。なんと手で生地をちぎり、別添えの野菜を挟んでタレにつけていただくのが正当だそうです。ワイルド〜!
冷静になって周りを見回すとほとんどの人が旨そうな麺料理を食べています。それが「ブン ティット ヌング チャー ジョー」(豚肉と揚げ春巻きのせ麺)。

細めのビーフンにチャーシュー、どっさりの野菜、揚げ春巻きなどがのっていて、甘酸っぱいスープをかけて食べる混ぜ麺です。麺は噛み応えがあり、甘辛い濃いめの味の豚肉とピッタリ。米の皮で巻いた揚げ春巻きのサクサク食感もたまりません。これで700円とは感激です。
さらにもう一品、あまりお目にかかれない「バンクォン」(蒸し春巻き)も食べておくべきでしょう。

米粉とタピオカ粉で作ったクレープ状の生地で野菜や肉そぼろなどを包んだ春巻きで、甘めのニョクマムダレに付けていただきます。ベトナムのソーセージなども添えられ、香草がアクセントになっています。春巻きは想像を絶するほどの弾力で、若い女性の肌のようにむっちりプルプルです。って下品な例えですみません。女なのに。
「タンハー」で尺を取りすぎたので、以下は駆け足でいきましょう。次の店の前にちょっと紹介したいのが、32号棟の1階にある「いちょうマート」。
ここは、居酒屋、理容室、花屋などが並ぶゆるい空気の商店街で、特に食材店「シーワント」の現地感は半端ではありません。タイ、ベトナム、中国、中南米など、よくぞこんなに集めたなと驚くほど多国籍な食料品が売られています。チリソースだけでも15種、ナンプラーだけで10種、ビーフンに至っては50種ほど。こりゃ周辺の飲食店も現地に近い味になるわーと納得させる品揃えです。冷凍肉や見たことのない野菜などもありますが素人にはちょっと手が出ません。
ちなみに向かいある「中国菓子」と看板を掲げた店も気になりますが、磨りガラスで中が全く見えず。さすがの私も入店を断念しました。
2 急にハードルを上げてマニアックに「ビェットーフォン」
で、そのいちょうマートより現地感丸出しの商店街があるのです。それは大和市側の下和田地区集会所1階にある「いちょうショッピングセンター」。ほとんどメディアに取り上げられてませんが、こっちのほうがディープです。入り口では昼間から酒盛りが繰り広げられ、一瞬入るのを怯みますが、中は意外とオープンな雰囲気。酒屋、八百屋、食材店などが軒を連ねています。

この中に2019年2月に開店した「ビェットーフォン」は、隣接するアジア食材店が経営する食堂。そば店かラーメン店の居抜き感プンプンです。ここも現地の人たちでいつも賑わっています。
見るからにおいしそうなのが「コンスン」、スペアリブをのせた目玉焼きご飯です。スペアリブは店内で焼き上げているため香ばしい匂いが通路まで溢れてきます。漬け込む調味料も日本と違うためか、まるっきり食べたことのない味でハマります。

そしてライスの旨いこと! 小粒のタイ米なのですが1kg1000円ほどする高級米だそうで、パラパラ感がありながら全くパサパサしておらず、ちょっとフルーティーな良い香りがします。タイ米ってうまいなー! と実感します。
またこちらでは、牛肉のビーフンもおすすめ。別皿でモヤシやハーブ、レモン、レタスといった野菜が出てきてわっさわさとスープに入れて食べる麺料理です。一体何十時間ダシを取ったのだろうと思いを馳せるほど牛のエキスが凝縮された、体に沁み入る味です。とにかく奥深い。日本のお店もこういう味にすりゃいいのに、と勝手な文句を言いたくなります。


3 ここより旨いバインミーはないであろう「バインミー・ヴィエ」
いちょうショッピングセンターを後にして、少し歩いて腹ごなしをしたら、小腹が空きますので軽食を取りましょう。
バインミーって今流行っていますよね。フランスパンに、大根と人参の酢漬け(いわゆる「なます」)やチャーシューを挟んだサンドイッチのことです。その専門店が「バインミー・ヴィエ」。
都内のおしゃれバインミー屋台で映(バ)えるバインミーを写メってる女子を見て「ケッ」と思っていた私ですが、おそらく彼女らがここに来たら写真そっちのけでバインミーに貪りつくであろう、というほど美味しいバインミーがここにあります。入り口ではチャーシューをカットする光景が見られ、なんと奥ではバインミーのためにパンを焼いています。
「バインミー・ティ」は500円。作る様子が見られるライブ感も魅力です。
ホッカホカの自家製パンにバターをしこたま塗って、タレに漬け込んで焼いた(これも店自家製)豚肉をカットして盛り込みます。野菜はなます、きゅうり、ワケギなど。

店員さんから手渡され、一口かじると「バリッ!」と軽快な歯ごたえ。これほど軽やかな食感のフランスパンを食べたことはありません。強力粉にバターをたっぷり混ぜ込んで焼き上げているからこのリッチな風味が生まれるのでしょう。なますが入っていると聞くと酸っぱそうですが、ピクルス的な役割で、甘さと酸味のアクセントを加えています。
他にもフォーやバインセオといったベトナム料理があり、現地の人が盛大に飲み食いしていましたが、15時ぐらいだというのに果たして何ご飯なのでしょう。そう、この街ではいつでも、「それ何ご飯?」と聞きたくなるような中途半端な時間に人々が食卓を囲んでいます。お腹が空いたら食べる、というフリーダムな食習慣が良いですね。

4 現地度120%! 取材NGの店

バインミーで小腹が満たされたところで帰路につきたいところですが、実はまだ1軒、もっと穴場的なベトナム料理店があります。しかしこちらは取材NGですので、店名を伏せて写真だけご紹介。
中はカラオケ喫茶のような佇まいで照明も暗いのですが、いつ来ても満員、いつでもお客さんが入れ替わり立ち替わり訪れる超人気店です。
こちらの「スペアリブのせビーフン」は肉好きにはたまらない一品。シーズニングで下味を付けて焼いたスペアリブに香味ソースがかけられ、ジューシーでバリッと焼かれた皮が香ばしい。ナッツのカリカリ感がいい仕事してます。1000円といちょう団地では最高値に部類する金額ですが、それでも払う価値は大いにアリです。
……と、いちょう団地の美味しい魅力をたっぷりご紹介してまいりました。こんなベトナム料理が毎日食べられるなんて、この団地に住んでしまいたい! と安易に引っ越そうとしてしまう私。でも多国籍の方々が暮らす地域なので大変なのかな? と思いましたが、この街の人々には、互いの国の文化や風習を大切にする「共生」の精神が根付いていると感じました。日本人でも外国人でも隔てなく接してくれます。むしろ日本人だってこの街ではストレンジャーなのです。
いちょう団地。そこは「美味しい食事を囲むのに国籍など関係ないのだ」と教えてくれる街でもあるのです。うまくシマりましたね。
取材・文:猫田しげる
1979年北海道函館市生まれ。京都のタウン誌、北海道の新聞地域面、東京の街歩き雑誌、旅行本などの編集・ライター業に従事。2019年4月から拠点を札幌に移動し、ウェブライターとしてデカ盛りから伝統工芸まで幅広い分野で執筆。弱いのに酒好きで、「酒は歩きながら飲むのが一番旨い」が人生訓。
写真:松岡誠、猫田しげる