保険外交員が副業感覚で犯行 「地面師」事件を支えた3人の女たち | FRIDAYデジタル

保険外交員が副業感覚で犯行 「地面師」事件を支えた3人の女たち

積水ハウス55億円詐欺事件 公判レポート

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東京都品川区五反田の土地取引を巡り、2017年に積水ハウスが「地面師」グループから約55億円の詐欺被害に遭った事件で、詐欺罪などに問われていた羽毛田(はけた)正美被告(64)、秋葉紘子(こうこ)被告(75)、常世田(とこよだ)吉弘被告(67)の判決公判が7月17日に東京地裁で開かれ、石田寿一裁判長は羽毛田・秋葉両被告に懲役4年(求刑懲役7年)、常世田被告に懲役4年6月(求刑懲役5年)を言い渡した。

事件の舞台となった東京・西五反田の元旅館「海喜館」。もう何年も営業しておらず「怪奇館」と呼ばれる
事件の舞台となった東京・西五反田の元旅館「海喜館」。もう何年も営業しておらず「怪奇館」と呼ばれる

この地面師グループによる詐欺事件では、積水ハウスとの交渉を仕切り、事件の主犯格と目されるカミンスカス操(みさお)被告(59)らを含む10名が起訴されている。中でもいち早く判決が言い渡されたこの3人は、土地売買契約をうまくすすめるために暗躍していた。羽毛田被告は地主のなりすまし役として、常世田被告は、地主の“内縁の夫”役として、契約の場に臨んでいた。そして秋葉被告は、なりすまし役の適任者を探す“人材派遣”を担っていた。

国際手配されていた主犯格・カミンスカス操容疑者(59)は、2018年12月19日、逃亡先のフィリピン・マニラで逮捕された(日刊まにら新聞)
国際手配されていた主犯格・カミンスカス操容疑者(59)は、2018年12月19日、逃亡先のフィリピン・マニラで逮捕された(日刊まにら新聞)

判決に現れた羽毛田被告は肩までの白髪混じりの髪に、クリーム色のジャケット、グレーのスキニーパンツ。一方、秋葉被告は明るい色のニット帽に紺色カーディガン、足元は7センチはあろうかというウェッジソールのパンプスという、年齢を感じさせない強めファッションだ。ふたりはすでに保釈されていた。傍聴席から見れば2人とも、よもや巨額詐欺に関わっているなど露ほども思えぬ平凡な熟女たちだったが、いずれもその大役を堂々と演じきっていた。

検察側冒頭陳述や証拠によれば、土地は品川区五反田にある旅館跡地。「都内の不動産業者ならば是非購入したいと思う有名な土地」(積水ハウス社員の調書より)だった。この所有者である女性(故人)の情報を、共犯の内田マイク被告(65)らが入手したことで計画が始まる。別の共犯から「所有者のなりすまし役を探して欲しい」と打診を受けた秋葉被告は、一連の事件で逮捕されたパート従業員の武井美幸被告(57)にこれを伝え、彼女が羽毛田被告を紹介した。

「平成28(2016)年ごろ、秋葉から、なりすまし役の70代はいないかと依頼された。私は以前秋葉に同じように紹介されてなりすまし役をやり、120万円儲けたことがある。紹介料がもらえるかもしれないとOKの返事をした。保険外交員の同僚である羽毛田がなりすまし役によいのではと思った。60代だが70代に見えなくもないし、羽毛田はすでになりすまし役のことを知っていた。警備の仕事もしていたので、金に困っているのではないかと思い、話してみた。その後秋葉、羽毛田と3人で会い、以降は秋葉の伝言を羽毛田に伝えるなどしていた」(武井被告の調書)

「2016年11月ごろに『70歳ぐらいのボケてない、ちゃんとした人いないかな』と連絡を受けた。以前、同様の依頼を受けて紹介したり、自分自身がなりすまし役を務めていたことがあるので、依頼だとすぐにわかった。なりすまし役とは、土地の所有者本人のふりをして不動産取引する役だ。武井に連絡して、羽毛田を紹介してもらった」(秋葉被告の調書・被告人質問の発言より)

「同僚の武井から話があった。本件以前に知人を紹介していたことと、武井もなりすましをして100万入ると言っていた、今度は私になりすましにならないかと言ってきた。断ったが、100万と言われて引き受けた」(羽毛田被告の調書)

熟女たちは、このようにアルバイト感覚で気軽になりすまし役を紹介したり、また自分がその役になったりした上で、まとまったお金を手にしていたのだ。こうして土地所有者のなりすまし役となった羽毛田は、契約の場に同席するようになる。彼女に疑いの目を向けられないようにサポートをしたのが常世田被告だ。

積水ハウス側との交渉では、羽毛田被告の顔写真を使って偽造したパスポートや印鑑登録証を示したうえ、現地の視察も行い、羽毛田被告を本当の所有者だと信じ込ませたという。

常世田被告は「なりすましはリスクが高い」と感じていたというが、実際に他の業者からは、羽毛田が土地所有者本人ではないと看破されている。「購入を考えたが交渉の場で地主を隠し撮りして、土地周辺での聞き込みを社員に指示したところ、地主でないと回答があり契約を中止した」「前野(常世田の偽名)が常に前に出てくる、ほとんど前野が質問に答えていたことなどから不信感を抱き、やめた」(別の不動産業者)といった証言もある。

土地所有者のなりすまし役という大役を果たした羽毛田被告。調書では「常世田から所有者の家族関係についてレクチャーを受けていたので、区役所で戸籍謄本を取るとき、筆頭者の氏名が迷いなく書けたし、積水ハウスとの会議の席上ではよどみなく話せた」などと、自身の“演技力”を誇る発言をしていたものの、5月に開かれた初公判で行われた被告人質問では「目の前で色々(話が)動いていくのが、内容がわからないので、現実的に思えなかった」「なりすまし役と、そこまでは私、わかってなかった」「初めて秋葉と会った日にもう私のパスポートができてたので驚いて……」など、なりすまし役だと認識していなかったという発言や、共犯らの“契約締結”に向けた強い勢いに飲まれたかのような弁解を繰り返した。報酬として受け取った150万円は「生活とか、家賃とか……」に、使い切ってしまい、返すあてはないとも語る。

この羽毛田被告を共犯らに紹介した秋葉被告は前述の通り、これまで複数回、グループになりすまし役を紹介してきたが、被告人質問では「紹介して報酬を得たことはないです」などと語り、関与の度合いが低いことをしきりに主張した。さらに“羽毛田被告分とあわせた報酬”として160万もらい、自分は10万しか得ていないと必死に訴えていたが、検察側の求刑の際には、「信用しがたい」と非難されていた。

判決で裁判長は、羽毛田被告に対して「同僚を介して誘われ、なりすまし役を繰り返した。証明書を取得したり本人確認時にも、なりすましとして振る舞い続けた。共犯の指示に従い行動した従属的な立場ということを省みても、責任は重い」と断言。長期にわたりなりすまし役を務め切ったことを指摘したうえ、彼女を紹介した秋葉被告に対しては「羽毛田分の報酬を受け取り、その分配の裁量を委ねられていた被告は、羽毛田に劣る立場とはいえない」と、グループにおける立ち位置が羽毛田被告よりも高いと指摘していた。

“地面師詐欺の土地所有者なりすまし役”が、保険外交員の副業として、熟女たちの間に口コミで静かに広まっていたことには驚きを禁じ得ない。たびたび人を紹介していた秋葉被告も、気軽なバイト感覚でそれを繰り返していたのか。内田マイク、カミンスカス操ら主要メンバーらの公判はまだ未定である。

  • 取材・文高橋ユキ

    傍聴人。フリーライター。『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、『木嶋佳苗劇場』(宝島社)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

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