72歳現役モデル マダム・チェリーのアンチ・アンチエイジング論

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《「老化は進化」と心得る。一人の女性としての自分を取り戻す。今日を大切に、毎日笑う》

そんなひとりの女性の生き方が今、注目を浴びている。兵庫県芦屋市でカフェを営むマダム・チェリー、御年72歳。専業主婦から50代でカフェオーナーとなり、70歳でアパレルブランドのモデルに抜擢された彼女の日々は、誰よりも自由闊達でファッショナブル。世代を超えて支持されるおしゃれの精神は、いかにして育まれたのか? ご本人に尋ねた。

フラワープリントのトップスは「マルニ」のもの。ハイブランドに加え、最近はファストファッションにも注目。ZARAのデニムや小物も愛用しているという

70歳でモデルとして、再びカメラの前へ

佇まいは、大輪の花のようだった。華やかな柄とヴィヴィッドな色をさらりと着こなし、カメラの前で微笑むのは、兵庫県・芦屋市でカフェ「ラ・スリーズ」を営む、その名もマダム・チェリー。72歳で初の著書『マダム・チェリーの「人生が楽しくなるおしゃれ」』を出版し、今、大人世代を中心に多くの女性たちから注目を集めている。

「きれいな色を身にまとうと、心の内側から笑みがこぼれるよう」とマダム・チェリー。赤のスカートは、40年くらい前の「KENZO」のもの (『マダム・チェリーの「人生が楽しくなるおしゃれ」』より)

「編集者の方からお話をいただいたときは、ただただ驚き、でした。ありえない、本なんてとてもとても私には、って……。最終的には、娘の『ママ、何でもやってみればいいじゃない』というひと言が決め手になりましたね。孫も、ゲームをやりながら『ちーたん(チェリーさんの呼び名)、やればいいんだよ』と。できた本を見せたら、『いいね』って言ってくれました(笑)」

以前から芦屋界隈ではその美貌とおしゃれで知られた存在だったが、ブレイクの契機は今から2年前。大阪に本店を置くアパレルブランド「レジィーナロマンティコ」から、モデルのオファーを受けたことだった。初めての撮影は、ちょうど70歳の誕生日。

「友人のフェイスブックやインスタグラムに載った私の写真を見て声をかけてくださったんです。人生って本当に、考えてもみないことが起こるのね。不思議だなと思います」

いわゆるアンチ・エイジングには興味がなく、美容医療とも無縁。芦屋の店には専門医の常連客も訪れるが、「誰も私には勧めないわね(笑)。ゆっくりお風呂に入って毛穴を広げてオイルマッサージをする、それが唯一の美容法かしら」

一度も染めたことがないというナチュラルなグレイヘアに、マットな赤い口紅が定番。赤やカラフルな色を取り入れ、アクセサリーは大ぶりなものを重ねづけ、ときには思い切りドレスアップして気分を上げる……。本には、そんなチェリーさんのおしゃれの法則と実践のヒントが惜しみなく綴られている。

宝塚からモデルへ、そして良妻賢母に

魅了されるもうひとつのポイントが、彼女の華麗なライフ・ストーリーだ。1946年、ロシア人の父と日本人の母との間に神戸で生を受けたチェリーさんは、若き日、あの宝塚音楽学校に通って歌やダンスを学んだ身。シャイな性格から、卒業後は歌劇団に入って舞台に立つのではなく、モデルとして自立する道を選んだ。収録された写真からも相当な美少女であったことが窺えるが、意外にも少女時代は「コンプレックスの塊だった」という。

「自分のことを可愛い、きれいだなんて思ったことはありません。両親以外には言われた記憶もないわね。ルックスに自信を持っているタイプではありませんでした。やはり、ハーフであることが起因しているでしょうね。生まれ育ったのが外国人も多く暮らす神戸でしたから、いじめを受けるようなことはありませんでしたが、そのことを受け入れて生きていくのは、やはり大変なんです。

でも、高校を卒業して宝塚に入った頃からようやく……でしょうか。努力家ではなかったし、ステージに立つ自覚を持っていなかった私は宝塚では劣等生。でも、一人でできるモデルという仕事を選んだことで、『ああ、自分でも人前に出て何かをやれるんだ』とようやく思えたんです」

「イエイエ」で一世を風靡したレナウンの広告にも起用された。中央がマダム・チェリー

華やかな業界の一員となっても、「仕事が終わればすぐ家に帰って、家族や同期のお友だちと一緒に過ごしていた。派手な世界とは無縁でした」とチェリーさん。箱入り娘の運命を動かしたのは、21歳、ファッションショーのオーディションに出向いたアパレル会社の広報部にいた男性との出会い。「今でも、人生でいちばんの幸運だったと思います」と振り返る彼女は、24歳できっぱりとモデルを引退して結婚。その後は東京に転居し専業主婦に、やがて一児の母となった。

40代、50代は「迷走期」。人前に出て迷いを払った

「専業主婦時代は、楽しかったですよ。毎日、家をピカピカに磨いて、あれこれお料理を作って。夫が帰って来る前に、メニューカードまで書いていました。まあ、ほぼ自己満足ね。彼には重荷だったと思います(笑)。子育ても楽しかったわね。娘が小さかった頃は、『今日初めて泣いた! 涙が出た!』っていちいち夫の職場に電話して、『そんなことでかけてこないで』と叱られたり」

休日は来客をもてなし、賑やかに過ごすのが日常だったという充実の家庭生活。しかし、子育てが一段落した40代、エアポケットに落ちるように「迷走の時期」が訪れる。

「女性としての悩み、母親としての悩みが出てきた上に、外見もどんどん変化しますよね。そのことはさほど嫌ではなかったんですが、あるとき、自分のおしゃれの感覚がものすごく鈍っていることに気づいたんです。ずっと主婦で、服装もママさんスタイルに徹していたんですから、当たり前よね」

そんなとき、西麻布にあった人気カフェ「ルエル・ドゥ・ドゥリエール」のケーキ作りを手伝い始めたことが、第二の転機となった。

「ケーキを作ったあと、お店にときどき顔を出すようになってから、もうちょっとちゃんとしなくちゃいけないなと思い始めて……ふたたびファッションに興味が湧いてきたのは、その頃からですね。髪も白髪になりはじめていましたが、たまたまおしゃれな男性に褒めていただいたことで、『あ、このスタイルもOKなのね』と思えた。ショートだった髪も伸ばして、だんだんと今の私のスタイルができていったんです」

自身が経営する芦屋のカフェ「ラ・スリーズ」のソファにて。最近は、こんなリラックスしたスタイルでお客様とおしゃべりする時間も増えてきたという(『マダム・チェリーの「人生が楽しくなるおしゃれ」』より)

自分のこと、ちゃんと見てる?

自信を取り戻した彼女は、東京から関西に戻り、55歳でカフェを開店。それからも、流行に左右されるのではなく、常に自分がどうありたいかを突き詰めてきた。それが可能だったのは、「たぶん、直感型だったからね」とチェリーさんは言う。

「能天気で、考えないの。だから、人には影響されませんでした。それに、年齢なりの悩みはいろいろ出てくるけれど、悩んでばかりいても仕方がないでしょう? だったら、起こることを受け入れて、前に進めばいい。迷ってしまうのは、きっと自分を見失ってしまうからですよ。だから私は、いつもいつも自分のことをよく見るようにしているんです。始終鏡を覗き込んでるってことじゃないのよ(笑)? 人にどう見てもらうかではなく、自分で自分を見つめること。

皆、人の目を気にしすぎなんですよ。自分の目を信じていれば、体の変化にもいち早く気づけるし、どんなおしゃれをしたいのかもよくわかる。他人がきれいだと思ってくれる前に自分で自分をきれいだと思えなければ、素敵になれないでしょう?」

驚くことに、なんと髪も自身でカットしている。「私の髪、すごくクセがあって難しいの。でも、ずっとこの髪と付き合っているから、誰よりもよくわかっています。たとえ日本一の美容師さんが切るとしても、その方ははじめて私の髪に触るわけでしょう? だったら、きっと私の方が上手よ(笑)」(写真は『マダム・チェリーの「人生が楽しくなるおしゃれ」』より)

グレイヘアも、スキンケアも、鮮やかなメイクも、着るものも、チェリーさんはすべて自分と相談して決めてきた。この“自分ファースト”が、日本の大人の女性にもっとも欠けているのではないかと、彼女は指摘する。

「まずは、自分の顔とスタイルについてもっともっと知ってほしいと思いますね。そうしたら、おのずと似合うものがわかってくるはずです。『もう年だから』とか『太っているから』なんて、言い訳ですよ。今の自分を受け入れて、その上で『こうしたい!』と思うなら、好きな服を着ればいい。メイクも、髪型も同じことです。自分を美しくしていくのは、自分なんですから」

ひらめきを信じて、自由に歩もう

夫を見送り、一人娘と孫とともに暮らしながら、現在も週6日、店に出ているというチェリーさん。さまざまな年代のゲストと触れ合う日々の先に、シニア世代での再びのスポットライトが待っていた。カメラの前でポージングするのは、きっと今まででいちばん美しく、そして自分らしくなった彼女だ。

すらりと伸びた背筋が美しい。「日々、自分の店でお客さまに接していますから、姿勢は気をつけていますね。『今日のママ、素敵だな』と思っていただけたらうれしいし、私自身も励みになります」

「引っ込み思案だった私がこんなふうになるなんて、本当に夢みたい。自分を信じてやってきてよかったなぁ、偉いなぁって、素直に思います。これからやってみたいこと? そうねぇ……おまかせしますわ(笑)。70歳でひらめいたことがこうして本につながったのだから、そのときどきのひらめきを、これからも私は信じていこうと思います。何より、本を読んだ若い方が、この先もおしゃれはずっとできるんだ、自由になれるんだと思ってくださったら、とてもうれしいですね」

 

 マダム・チェリー 1946年兵庫県生まれ。宝塚音楽学校卒業後、モデルとして活動。2001年、55歳で芦屋市にカフェ「ラ・スリーズ」を開店。70歳でファッションブランド「レジィーナロマンティコ」のモデルとして再デビューを果たす。ファッショナブルな日々の様子はInstagram(@madame.cherry1210)で。

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  • 取材・文大谷道子撮影田中祐介

Photo Gallary12

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