カネやん「バカヤロー!」 プロ野球審判が語る“猛抗議の舞台裏”
パ・リーグ一筋29年の名物審判が''80年代~’00年代にかけて監督や選手から受けた猛烈クレームの一部始終を明かす
‘82年にプロ野球の世界に入り、’10年のシーズンを最後にパ・リーグ一筋29年、1451試合に出場した審判がいる。日刊スポーツから転職し審判員に採用された、“レジェンドジャッジ”山崎夏生氏(64)だ。山崎氏は引退するまでに、当時歴代1位の17回にのぼる退場宣告。以下は山崎氏が振り返る、現在はほとんど見られなくなった強烈抗議の舞台裏だ。
金田正一監督「どこ見とんじゃ、バカヤロー!」
‘91年5月のロッテ対日本ハム戦でのことです。球審の私は終盤のもつれた場面で、日ハムの打者にボールの判定をしました。
するとロッテの金田正一監督が三塁側ベンチから飛び出してきて、いきなり私をこう怒鳴りつけたんです。「どこ見とんじゃ、バカヤロー!」と。突然のことに、カッとなりました。確かに私はそれほど利口じゃないが、アンタに言われるスジ合いはない。すぐに「退場!」と宣告しました。しばらく打席付近で監督と怒鳴り合いになり、その激しさはスポーツニュースのトップで放映されたほどです。
後日談があります。別の球場で再会した金田監督は「オマエ、大学(北海道大学)出てるんだってな。インテリに『バカヤロー』って言ってすまんかった」と、ニコニコしながら謝る。そして頭を上げると、こう続けました。「『ヘタクソ!』って言えば良かったな」と。カネやん独特の、暴言スレスレの冗談だったのでしょう。
ボビー・バレンタインのユーモア
ロッテのボビー・バレンタイン監督の抗議は、さすがメジャー仕込みで迫力がありました。通訳そっちのけで、一気に英語でまくしたてるんです。
確か北海道での試合でのことでした。一塁塁審だった私がアウトの判定をすると、バレンタイン監督が抗議に飛んできた。私は自分のジャッジに自信満々。拙いながらも英語で応戦します。「自分のジャッジはいつでも(Always)正しい」と。バレンタインは首をすくめ手のひらを上にあげながら、「確かにキミのジャッジは正しい……」と言ってベンチに戻ろうとします。ただ、それで収まらない。帰り際「……but sometimes」とつぶやいたんです。
「ん? sometimes? あっ、『時にはね』と言ったのか!」。
バカにされたと気づいた時には、もうバレンタイン監督の姿は、目の前にありませんでした。
金村義明の意外な行動に観客席大爆笑!
微妙な判定で、時には感謝されることもあります。
近鉄「いてまえ打線」の中核・金村義明は、ハーフスイングの多い打者でした。’90年代前半の西武対近鉄戦のことです。金村は2ストライク3ボールから、外角低めのスライダーに手を出します。スイングで三振か、バットが止まって四球か。球審からジャッジを求められた一塁塁審の私は、「ノースイング!」と両手を大きく広げました。近鉄の応援席からは大歓声が、西武側からは大ブーイングがおきます。
ひょこひょこと一塁に駆け出した金村はベース手前で立ち止まると、なんとヘルメットを脱いで「山崎さん、ありがとうございました!」と最敬礼したんです。本人は「しまった」と思っていたところ、判定に助けられたと感じたのでしょう。球場内は大爆笑です。私は赤面。礼を言うなら、塁上でこっそりささやいてほしいものです。
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数々の修羅場を乗り越えた名審判は、現在「審判応援団長」という肩書で後進の育成に力を注いでいる。



写真:山崎夏生氏提供