ラグビー日本代表、最大の武器「ヒザ下タックル」の威力とは

W杯でのジャイアント・キリング、この武器があれば夢じゃない

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

9月20日に開幕するラグビーワールドカップで、上位8チームによる決勝トーナメント進出を目標に掲げる日本代表。ラグビーの国際統括機関であるワールドラグビーから発表される世界ランキングは現在11位(7月15日時点)で、上位国との間に力の差があるのは事実だが、2015年大会では過去に2度の優勝を誇る南アフリカを撃破しており、今大会でもふたたび世界を驚かせるようなジャイアント・キリングが期待されている。

体格で劣るジャパンが海外の強豪国を撃破する上で欠かせぬ武器となるのが、日本ラグビーの伝統芸ともいうべき“ヒザ下タックル”。今回は、日本代表の生命線であるこのプレーにスポットを当てる。

2019ラグビーW杯でも日本代表によるジャイアント・キリングに期待

日本人の強みを生かし、体格の不利を武器にする

タックルは激しい身体接触をともなうだけに、体のサイズが大きくものをいうプレーだ。頑健な肉体を誇る海外の大型選手に対し、小柄な日本選手がまともにぶつかっていけば、簡単に弾き飛ばされてしまう。そこで生まれたのが、「低い姿勢で、すばやく、強く動くことができる」という日本人の特長を生かし、相手のヒザ下に食い込んで倒す“ヒザ下タックル”だ

どんなに大きくパワーのある選手であっても、ヒザから下にタックルされれば、絶対に立ってはいられないむしろ背が高い選手ほど重心も高くなるから、低い位置へのタックルはより効果的になる。実際、海外から日本のチームに加入した大型選手が決まって口にするのが、「あそこに入られると対処しようがない」「あの低いタックルには手を焼いた」といった感想だ。

ラグビー日本代表の武器「ヒザ下タックル」
ラグビー日本代表の武器「ヒザ下タックル」

それなら海外の選手もヒザ下にタックルすればいい、と思われるかもしれない。しかし足が長く腰高の外国人は、日本人のように低い姿勢で動くことは苦手だ。無理に低くなろうとすれば、本来のパワーを発揮できなくなる上に、横の動きまで鈍ってしまう。

骨格的に重心が低く、日常生活でも畳の上など地面に近いところで動くことに慣れている日本人ならではの強みを生かし、体格的な不利を逆に武器にするプレー――それが、日本ラグビーの伝統芸である“ヒザ下タックル”なのだ。

意見が分かれる「上半身タックル」vs「下半身タックル」

ただし、このタックルはリスクもともなう。相手の下半身の動きを止めるには非常に効果的だが、ボールを持っている上半身はフリーになるため、倒れながらパスをつながれやすいのだ。

そうした理由から、海外ではボールを自由にコントロールさせないよう上半身に入るタックルが主流となっている。もっともこれは、腕力がある外国人プレーヤーだからこそできる技であり、小柄な選手が上半身にタックルしても、ボールの動きを止めるどころか、弾き飛ばされて大きく前進される危険性が高い。

体格に恵まれた海外選手は上半身へのタックルが主流

実際、「日本もボールを殺しにいくタックルをすべき」という論争がこれまで何度も起こったが、海外勢との戦いで段違いのパワーを見せつけられるたびに、「まずは下に入って相手を倒すことを優先しなければ勝負にならない」と痛感させられる歴史を繰り返してきた。さらに、最近は海外でも、“チョップタックル”と呼ばれる下半身に入るタックルの効力が見直されている。

最近では下半身に入る「チョップタックル」も見直されてきている

一点注意しなければならないのは、タックルとはあくまで相手を「つかまえて倒す」プレーであり、体当たりのようにぶつかると、危険なプレーとして厳しく反則をとられ、場合によってはイエローカードやレッドカードの対象となる。

当然ヒザ下タックルも同様で、バインド(腕を回して相手をつかむこと)せず、芝を刈るように足元をすくうタックルは、ペナルティになってしまう。やみくもに低く当たればいいわけではなく、「低く入りながらしっかり相手をつかんで倒す」という高度なスキルが求められるプレーなのだ。

強豪撃破の鍵は「ダブル、リロード、ラインスピード」

そうしたことを踏まえ、日本人選手の強みであるヒザ下タックルを最大限に生かすためのポイントとなるのが、①ダブルタックル②すばやいリロード③速いラインスピードの3つだ。

まず、①ダブルタックル。これは一人目のタックラーが相手のヒザ下に入り、二人目のタックラーは上に入ってボールを殺しにいく、二人がかりで上下の動きを封じて倒すタックルになる。

つまり1対1で戦うのではなく、人数で上回って大きな相手を倒そうという発想だ。これならヒザ下タックルでしっかり相手を倒しつつ、上でボールをつながれるプレーを阻止することができ、さらにタックルそのものの威力も高まる。

二人がかりで上下の動きを封じる「タブルタックル」

しかし、一人の相手に二人でタックルに行けば、必然的にそれ以外の局面で防御できる人数が減ってしまう。そこで重要になるのが②すばやいリロードだ。

タックルをして倒れた選手がすぐに起き上がって次のプレーに参加すれば、数的不利は生まれない。この「倒れた選手がすぐ立って次の仕事をする」プレーは、「銃に弾丸を込める」という意味の言葉から“リロード”と呼ばれ、日本代表が海外強豪国と戦う上で欠かせない要素になっている。

そして最後のカギが、③速いラインスピードだ。ラグビーでは、防御側はディフェンダーが横一線になって“ディフェンスライン”を形成しながら守る。この時のディフェンスライン全体で前に出る速さが、“ラインスピード”だ

ラインスピードが速ければ、前に出て勢いがついた状態で強くタックルできるが、逆に横への動きには弱くなる。そのため海外では、前に出るよりも横方向の対応を重視した守り方をするケースが多い。

ただし、これはパワーで対抗できるチームだからこそ可能な防御法。体格で劣る日本が引いて守れば、相手の前に出る勢いを止められず、最終的に押し切られてしまう。リスクを承知の上で鋭く飛び出し、できるだけ前に出てタックルすることが、世界で戦う上での日本代表の勝利の条件なのだ。

「人生で一番きつい練習」によって磨き上げた武器で、世界に挑む

タックルの消耗度は、引いて守るディフェンスとは比べものにならないほど激しい。それを80分間続けるために、日本代表の選手たちはこれまで厳しいハードワークに取り組んできた

6月から7月にかけて行われた宮崎合宿では、午前、午後、夜と、朝8時過ぎから夜9時まで渡る3部練習で、筋力と持久力、さらにはメンタルの強化に注力。ウエイトトレーニングからフィットネストレーニング、速いテンポでプレーを継続し続けるゲーム形式の練習など、試合を上回る強度のトレーニングを連日重ねた。その過酷さは、多くの選手が「今までの人生で一番きつかった」と語ったほど

振り返れば2015年6月の宮崎合宿も、早朝から始まる猛練習で「これほど厳しいトレーニングは忍耐力がある日本人にしかできない」と語り草になるほど苛烈なものだった。それによって見違えるようにたくましくなった日本代表は、結果としてワールドカップの初戦で南アフリカから「スポーツ史上最大の番狂わせ」と称えられる歴史的勝利を手にする。

9月20日に開幕する日本大会でも、厳しい鍛錬によって磨き上げられたジャパンの “ヒザ下タックル”に、ぜひ注目してほしい。

  • 直江光信

    1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

  • 写真アフロ

Photo Gallary6

share icon記事をシェアする

  • Facebook シェアボタン
  • Twitter シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事