大泉洋『ノーサイド・ゲーム』は『ルーズヴェルト』『陸王』と違う

夏ドラマの注目作をメディア・アナリスト:鈴木祐司が分析

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TBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』が順調なスタートを切っている。
原作・池井戸潤×プロデュース・伊與田英徳×演出・福沢克維による作品で、『半沢直樹』(13年夏)、『ルーズヴェルト・ゲーム』(14年春)、『下町ロケット』(15年秋)、『陸王』(17年秋)、『下町ロケット2』(18年秋)に次ぐ6作目となる。

基本は小が大に挑み、大組織の理不尽を跳ね返してゆく物語だが、今回の『ノーサイド・ゲーム』は『ルーズヴェルト・ゲーム』『陸王』に続く社会人スポーツが舞台となっている。

ただし3ドラマの見られ方を比べると、唐沢寿明版や役所広司版にはなかったが大泉洋版にはある要素が、より多くの視聴者の支持を集めているようだ。


◆池井戸ワールド×社会人スポーツ

『ノーサイド・ゲーム』初回の世帯視聴率13.5%、第2話11.8%は、ここ数年の池井戸ドラマと比べても遜色はない。

また夏ドラマ序盤の各局と比較しても、ビデオリサーチが調べる世帯視聴率はトップクラスだ。
ところがスイッチ・メディア・ラボが調べる個人視聴率(3ドラマの初回と第2話)で比べると、もう少し詳細な見られ方が浮き彫りになる。

まず目につくのは、3層(男女50歳以上)が3作の中で徐々に数字を上げている点。
池井戸ワールドに中高年は徐々に馴染んできており、序盤から多くの人が見に来ている。ちょうどテレ朝の刑事モノやミステリーのシリーズ化ドラマが、毎度序盤から高い視聴率を獲るのに似ている。

「『陸王』に引き続き相変わらずの熱さ!」
「『陸王』以来の池井戸&福澤演出にやられ、男の熱(暑)苦しさに涙しました」
「『ルーズヴェルト・ゲーム』や『陸王』、そして今回の『ノーサイド・ゲーム』。池井戸潤さんって実業団チームの小説書くのが上手い」

SNS上でも、評価する声が多数みられる。
しかも前2作より、『ノーサイド・ゲーム』を上とする意見も少なくない。

「『ルーズヴェルト・ゲーム』に似てるっていう人もいるけど、私の中じゃ曲といいキャストといい、俄然『ノーサイド・ゲーム』が圧勝‼︎」
「まじでめっちゃくちゃおもろい、『陸王』超えるレベル。絶対見たほうがいい」

 ◆大泉洋の存在感 

主演は大泉洋。
『ルーズヴェルト・ゲーム』の唐沢寿明、『陸王』の役所広司と異なり、北海道のローカル番組『水曜どうでしょう』から全国的にブレイクした異色の俳優だ。ドラマ・映画・舞台・バラエティなどで多彩な才能を発揮し、「北海道の怪物」とか「北海道の星」などの異名を持つ。

層別個人視聴率では、他2ドラマと比べ、未婚女性・既婚女性・主婦で高い数字をとっている。
“男くさい”“熱(暑)苦しい”ドラマに、軟派で型破りな大泉が主役を演じ、そのギャップが女性を惹き付けている可能性が高い。

「大泉さんのマジな演技は好きだ…」
「大泉洋はどんな役でも出来ちゃうよなぁと思いつつもちょいちょい大泉洋が出てきて笑う」
「コミカルな演技ほぼ無いのに“応援したくなる野心家サラリーマン”ってラインをすごく上手く演じてる」
「大泉洋が全身全霊で演じる、仲間のために死ぬ気でぶつかる熱血スポ根ビジネスドラマという新境地」

ネットのつぶやきでも、彼の存在感は認められている。
「元ガリ勉キャラが大泉洋なのがミスマッチ感あるけど…笑」など、今までのイメージとちょっと違う点がプラス評価につながっているようだ。

◆松たか子の貢献度

個人視聴率では、女性だけでなく既婚男性が未婚男性に比べ有意に数字が高くなっている。
今のところ出番は決して多くないが、松たか子が醸し出す君島家の雰囲気が受け入れられているからだろう。

「松たか子さんの手厳しい感じも好き」
「恐妻家役の松たか子さん嫌いじゃない」
「いつもの日曜劇場の主演の奥さん役は“影で旦那を支える”的な感じだけど、今回は“かかあ天下”で奥さんが強い。主演が大泉洋さんだからかな」

確かに『ルーズヴェルト・ゲーム』では、秘書や野球部のチアリーダーは出てくるが、唐沢寿明の妻役はいなかった。
『陸王』では、役所広司の家庭は登場するが、息子(山崎賢人)や娘(上白石萌音)の方が前に出ており、妻(檀ふみ)は影が薄かった。

両番組は主人公が社長で、会社の比重が大きかった。
これらに対して、『ノーサイド・ゲーム』の大泉洋は中間管理職だ。サラリーマンとしては優秀だが、左遷されてラグビー部のGMとなってしまった。
家庭ではグジュグジュ愚痴ったり、ため息をついたりしてしまう。

「ため息つくぐらいなら、呼吸しないで」
「工場だろうと、どこだろうと胸張って行きなさいよ」

厳しい妻(松たか子)に叱咤激励される様が、女性にとっても溜飲の下がるシーンになっている。また既婚男性にとっては、極めてリアルな物語に見えるポイントだろう。

「松たか子さんの役が夫に理解を示さない口うるさい奥さんって感じでなんかイマイチ」
「面白いのだけれど、松たか子さん演じる大泉さんの奥様がちょっと自分的に受け入れづらい…」
「原作にいない君嶋嫁が早くも鬱陶しい」

SNSでつぶやく一部の男たちの反発は、ドラマに奥行を与えるという意味で、制作陣の思う壺だろう。しかも後に松たか子が重要な役割を演じるであろうが、その時に感動のリバウンドが計算されている気がする。
手練れの作り手たちに、序盤から視聴者は見事にはめられている。

◆ブレークの予感

個人視聴率では、他に経営・自営や会社員、さらにパート・アルバイトが高い。
やはり主人公が社長ではなく、中堅サラリーマンが組織と家庭の両方でさまざまな課題に直面し、乗り越えて行く設定が支持されているのだろう。「君嶋は大企業の一員だからか、家でのキャラクターが会社とは違うのが面白い」男女19歳以下や1層(男女20~34歳)では、今のところ他2作の後塵を拝している。
野球とラグビーの違い、山崎賢人・竹内涼真(『陸王』)、工藤阿須賀・鈴木伸之(『ルーズヴェルト・ゲーム』)と比べ、『ノーサイド・ゲーム』ではカッコ良いイケメンではなく、マッチョでごつい男たちのオンパレードのせいかもしれない。それでもこうしたマイナスを背負いながらも、序盤は両ドラマを凌駕している。視聴者層も多様だ。
スポーツの勝ち負け・組織内での成否に加え、家庭の問題も絡ませた重層構造のドラマ。どこまで話が膨らみ、最終回のノーサイドでどんな感動と納得が待っているのか。その展開次第では、前2作以上にブレークする予感がしてならない。
  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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