日本最大の全身骨格竜「むかわ竜」が東京にやってきた
北海道むかわ町が「世紀の大発見」をするまで
「むかわ竜が発見されたとき、真っ先に科博(うち)で展示させてほしい、と思いました。それぐらいすごい化石です。
恐竜の全身骨格が見つかったことは、国内で2例しかありません。しかも、別の1例は全長2.5mと比較的小さい。むかわ竜は8mクラスの大型で、しかも骨格の8割が揃っているのです」
国立科学博物館・標本資料センターの真鍋真氏はこう力説する。真鍋氏が監修を務め、現在同館で開催中の『恐竜博2019』。その目玉が、初めて本土に運ばれた大型恐竜「むかわ竜」の全身実物化石と復元骨格なのだ。むかわ竜は、今から7200万年ほど前の白亜紀後期に生きていた草食恐竜ハドロサウルス科に属する新種と見られている。真鍋氏が続ける。
「たとえば、ティラノサウルスの化石は北米大陸などで50体ぐらい発見されていますが、発掘時に頭骨がなかったり、脚が見つからなかったりすることが多い。そういう時には復元時に他の個体の化石をコピーして補います。ところが、むかわ竜は1体しか出てきていないのに、補う必要がないほど多くの化石が見つかって、これ一つで全容がほぼわかるのです」
さらに驚くべきことは、むかわ竜が「海の地層」から見つかっていることだ。これまで日本で化石が見つかる場合、太古の時代に大陸と繋がっていた場所が主だった。
「普通、海の地層から状態の良い恐竜化石が見つかる時は、骨がガッチリしている鎧竜(よろいりゅう)の場合が多い。むかわ竜のように柔軟性の高い身体をしていると、骨がバラバラになりやすく、海の地層から全身骨格が見つかった事例は世界でもあまりありません。奇跡的と言ってもいい。
日本には海の地層が多いのですが、僕たち専門家のあいだでは『海の地層から良い恐竜化石は見つからない』というのが定説でした。ですが、むかわ竜を見たら、そんなことはもう言えない。国内の恐竜発掘の常識を大きく変えた事例だと思います」(真鍋氏)
実物化石は貴重なため、万が一の事故や重力による負荷も考慮して、台に平置きで展示されている。そこで『恐竜博』では、実物化石を置いたすぐ奥に、立体的に復元された全身骨格模型を配置して、巨大なスケールが実感できるように工夫された。
現在、展覧会は連日人が詰めかけているが、東京にやってきた”奇跡の恐竜”には一見の価値がある。
![四足歩行したと考えられているむかわ竜。展示真上には鏡が据えられ平置き化石も一目でわかるよう工夫が](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/08/8a7f7ff73c079af4567f04f12f1d94bc.jpg)
![『恐竜展』に入場するため、列をつくる人々。男女問わずさまざまな年代に人気で、週末は1〜2時間待ちの行列が](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/08/061d1e65f1572343e7b987f4952a20c4.jpg)
むかわ竜は、その名のとおり、北海道むかわ町で発見された。むかわ町穂別博物館の櫻井和彦館長が言う。
「北海道には白亜紀に海だった地層が分布しています。そのなかから海にいた古代生物が数多く見つかっていました。代表的なのはアンモナイトです。他にも首長竜(くびながりゅう)のホベツアラキリュウなどが発見されてきましたが、むかわ竜は、我が町で初めての恐竜なんです」
よく混同されがちだが、海の爬虫類・首長竜などは恐竜の範疇に入らず、陸で生活する爬虫類だけが「恐竜」とされる。むかわ竜は、同町にとって貴重な恐竜化石だったのだ。ところが、この化石が日の目を見るまでには紆余曲折があった。
第一発見者である地元の化石収集家・堀田(ほりた)良幸さんが尾椎骨の一部を見つけたのは’03年。堀田さんは当初、ワニの化石ではないかと思い、化石を寄贈された町の穂別博物館でも収蔵庫の棚に放置されたままだった。この化石が、町を訪問した東京の研究者によって恐竜の化石ではないかと注目されたのは’10年、本格的な発掘が始まったのは’13年だった。
調査が進み、「全身骨格の8割が確認された」と記者会見したのは’18年9月のこと。ところがその2日後、北海道胆振(いぶり)東部地震がむかわ町を襲った。町内の建物の7割が全半壊したが、むかわ竜を収蔵したコンテナは奇跡的に破損を免れる。
全身復元骨格が組み上がったのは、今年4月。じつに発見から16年が過ぎていたのである。
![むかわ町で初めて組み上げられた全身復元骨格を前に。右から穂別博物館館長の櫻井和彦氏、第一発見者の堀田良幸氏、竹中喜之町長](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/08/b371418eb6415ff972483f0aabd52483.jpg)
![’13年の第一次発掘作業の様子。林道脇の崖の中腹、ほぼ垂直になった地層から「むかわ竜」は発掘された](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/08/adcc8ecfa1344128b9ee0bbb06e09764.jpg)
![本格的な調査・発掘を指揮した北海道大学総合博物館の小林快次教授](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/08/a72840a269afa3ff38eec7c914177c5e.jpg)
![本誌未掲載カット 日本最大の全身骨格竜「むかわ竜」が東京にやってきた 上野の国立科学博物館『恐竜博2019』の開催直前、むかわ竜の実物化石が並べられる](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/08/670d3b3f60e45926211afeaab6d73aef.jpg)
![本誌未掲載カット 日本最大の全身骨格竜「むかわ竜」が東京にやってきた 上野の国立科学博物館『恐竜博2019』の開催直前、むかわ竜の実物化石が並べられる](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/08/8ca5ec5fa75b3839bdbe8ad52c81607e.jpg)
![本誌未掲載カット 日本最大の全身骨格竜「むかわ竜」が東京にやってきた 上野の国立科学博物館『恐竜博2019』の開催直前、むかわ竜の実物化石が並べられる](https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/c_scale,dpr_2,f_auto,t_article_image,w_664/wpmedia/2019/08/e6344643cc4a6fb9f9a82a877522f7c1.jpg)
『FRIDAY』2019年8月9日号より
- PHOTO:小川 光(1〜3枚目、未掲載カット)、黒瀬ミチオ、藤田良治(愛知淑徳大学創造表現学部/2013年発掘風景)