人口あたりの軒数日本一 信州飯田はなぜ焼き肉の街になったのか

大阪の鶴橋、東京の麻布十番とも異なる焼き肉文化

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飯田の一大イベント「焼來肉ロックフェス」のスタッフ

コンビニさながら、一区画に一焼き肉店

長野県南部の山間にある飯田市。毎年7月に入ると、この街では黄色やオレンジの色鮮やかなTシャツを着た老若男女が闊歩する。その胸に書かれているフレーズは、〈焼き肉の街で俺は生まれた〉。そう、この街=飯田市の誇りは、人口1万人あたりの焼き肉店の数(5.32軒)が、日本一であることなのだ。

最近は地域の魅力発信イベントである、焼き肉を食しながらライブを楽しむ「焼來肉(やきにく)ロックフェス(通称ヤキフェス)」が人気になっている。今年度ヤキフェス実行委員長の今井啓介氏が語る。

「飯田の焼き肉は戦後に始まった食文化で、僕たちはそれを食べて育ったいわば第二世代。今、それを全国にアピールして、若い子たちにも地元に誇りを持ってもらえるようにと取り組んでいるんです」

飯田の街は、1ヵ所にまとまった焼き肉店街があるのではなく、小さな店が点在している。まるで都会のコンビニさながら、10分も歩けば、次の焼き肉店が出てくるといった具合だ。その一つ、『ろくなもんじゃねぇ』店主の金田良一氏が言う。

「飯田の人は幼少時から平均して週3〜4回ぐらい、家でも外でも焼き肉を食べて育ち、誰もが行きつけの焼き肉屋を数軒持つ。焼き肉の英才教育を受けているようなものですよ(笑)」

’27年に開通予定のリニア中央新幹線の新駅ができることもあり、以前は地元客ばかりだった飯田の焼き肉店は、リニアの工事関係者やビジネス客も激増中。”飯田焼き肉”が全国区になる日も近い。

老舗「のんきや」で人気の高い特選牛肉を焼く

【ろくなもんじゃねぇ】

店名は長渕剛の曲名から。長渕ファンの店主がライブでキャッチしたハーモニカが店内に飾られている

長野県飯田市中央通り4-12-3
TEL:0265-23-2441
17時〜23時 日休

JR飯田駅前に「日本一の焼肉街」の看板を掲げ、7年前に開店。
肉は自社で解体した鮮度のよいものを使用している。
信州牛のカルビ、ハラミのほか、解体工程に合わせた週末限定の牛ホルモン、ワサビで食べるトントロ、飯田名物のカシラや黒モツなどもメニューに並ぶ

人気ナンバー1の「あみレバー」(600円)。豚レバーを網脂で巻いた、ソーセージのような食感が絶妙
人気ナンバー2のトンタン(600円)。溶かしたガーリックバター(器内)で食べると風味も食べごたえも抜群
店内は昭和レトロ風。七厘の炭火で肉を焼く。”一人焼き肉”席も完備

【やき肉 徳山】

年季の入った店構え。「帰郷したら必ずこの店に立ち寄る」という常連客を多数抱えている

長野県飯田市中央通り3-44
TEL:0265-24-4816
12時〜22時(月火木は14時〜17時休み、水は17時〜22時のみ営業)
不定休(月4回)

昭和26年創業の飯田で一番の老舗。
現店主・三代目の祖母が飯田の街に料理法をもたらし焼き肉店を広めたという。
当初はマトンとホルモンだけだったが、35年ほど前から地元の阿智牛も扱うように。
黒モツ、白モツはよく茹でてあり、温める程度に炙って食べる

マトン(700円)と牛モツ(600円)。ラムよりも成羊であるマトン、そして黒モツ(中央)が飯田の人々の好物
三代目主人・徳山忠夫氏

【旨肉酒場やきまる】

飯田のシンボルである「りんご並木」沿いにあり、モダンな店構えが若者に人気

長野県飯田市本町1-12 中村ビル1F
TEL:0265-49-0076
17時30分〜23時30分 火休

南信州牛の各部位、風味が強くクセになるいいだマトン、約1カ月熟成させた南部豚、馬刺しや、豚の腸を下茹でした”ゆでおた”まで幅広いメニューを誇る。飯田には”おたぐり”という馬の腸を味噌で炊いた郷土食があるが、”ゆでおた”はこの店のオリジナル

この日は「やきフェス」実行委員会の宴が。女性も食べる食べる!

【のんきや】

昨年改装したばかり。無煙ロースターを使用しており清潔感が漂う

長野県飯田市鼎一色22-8
TEL:0265-22-4842
17時〜24時 月休

1966年創業という飯田でも三本の指に入る老舗。
三代目現店主の祖母が開店し、当初は6席でモツ、カシラ、マトンのみで営業していたが、約20年前に幹線道路沿いに移転してリニューアル。
近年は特選牛肉が人気で、初代から受け継いだリンゴ果汁を使ったタレの味を現在も守る。豚、羊、鶏、ホルモンなどバラエティに富む肉が揃っている

特選牛肉の上ロース(1800円)、上カルビ(1400円)、上タン塩(1600円)のセット
店主の木村卓哉さんは東京の飲食店に勤めた後、実家の店を継いだ

飯田の風習「焼き肉デリバリー」

飯田が焼き肉の街となった背景には、海の遠い同地では動物性たんぱく源を主に畜産物から摂取してきたという事情がある。また飯田を含む県南部に多かった満蒙開拓団の人々が、終戦後の引き揚げ時に大陸仕込みのジンギスカンを広めたのが発祥だとされている。

さらに飯田の焼き肉文化がユニークなのは、焼き肉店だけでなく精肉店のサービスまでも完全に「焼き肉シフト」になっていることだ。なにせ焼き肉のための出前システムが確立しているのである。精肉店『肉のいちのせ』の林宏氏が言う。

「肉の出前の時に、焼き肉用のガスボンベ、コンロ、鉄板を貸し出すサービスは、この辺ではどこの店でもやっています。先週末は市内で草刈り大会があり、草刈り後は当然、焼き肉大会に。倉庫に常備してある店の鉄板やボンベを120人分、肉とともに会場に届けてきました」

草野球をしては焼き肉、集会をしては焼き肉と、毎日注文が入るのだという。

そんな飯田の人がこよなく愛する肉は、他地域とは少し違っている。カシラ(豚の頭肉)やマトンなどクセのある肉が好まれ、黒モツ(牛の第一胃)に至っては、他地域ではほとんど食べられない部位だ。

「そんな故郷の肉を恋しがる飯田人が多いせいか、GWやお盆の時期には帰郷した人を囲んでの焼き肉デリバリーが増えます。だいたいカシラなら1週間で200〜300㎏用意しますね」(前出・林氏)

今日も飯田では焼き肉の匂いが街中に漂っている――。

【肉のいちのせ】

常連客宅に焼き肉用の肉を配達。併せて道具一式も貸し出すのが飯田流
店裏の倉庫には驚くような量のボンベ、コンロ、鉄板の備えが。行事などの際はこれらが一気に出払うことも

長野県飯田市育良町1-19-3
TEL:0265-25-6891
10時〜19時 水休

南信州牛、信州黒豚、マトン、ラム、鶏肉からお惣菜まで幅広い品揃えを誇る精肉店。
各種タレや野菜、取り皿と箸など、焼き肉に必要なすべてのアイテムが取り揃えてあるほか、デリバリーにも対応。
東京から肉を買いに来るお得意さんも

 

『FRIDAY』2019年8月9日号より

  • 撮影栗原論取材・文鈴木伸子

Photo Gallary17

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