誰得? 参院選「全局特番化」で水泳やカープに流れた視聴者の本音

すぐに結果が見えたのに4時間の特番は大迷惑? ~局別、地域別データで視聴者の動向を詳細分析~

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テレビ報道では、「“国民が知るべきことを伝える”のがジャーナリズムの使命」という考え方がある。

ところが今回の参院選特番を振り返ると、「国政選挙は、もはや全局が長時間扱うに値するニュース価値を持たない!」と思えるような見られ方だった。

どんな放送が望ましいのか、視聴データから考えたい。

◆各局の見られ方

7月21日の夜8時、各局一斉に参院選の議席予測を流し始めた。
ところが全局の放送内容は、始まって数分でほぼ同じとわかってしまった。一応、各局の世帯視聴率には違いがあったように見える。
ビデオリサーチの関東地区では、トップはNHKで14.7%(夜8~9時)。民放1位は日本テレビの10.6%(7時58分~9時)、次いでテレビ朝日9.6%(7時58分~8時22分)、フジテレビ6.2%(7時56分~9時)、テレビ東京6.0%(8~9時)、TBS5.8%(7時56分~9時29分)の順となった。ただし全国約120万台のネット接続テレビの接触率を調べるインテージ「Media Gauge」で分析すると、全く異なる風景が見えてくる。

東京地区の首位はNHKではなく日テレ。8時台前半では、日テレが8%強、NHK6%弱、テレビ東京5%弱と続き、フジ・テレ朝・TBSが4%前後で混戦だった。

ビデオリサーチとインテージの差は、サンプル調査か実数調査かの違いが大きい。
前者は日本の人口構成に近い構成だが、高齢者が多い。後者は自発的にネット接続テレビを設置した家庭で、所得水準が高い傾向にある。

◆選挙特番一色で視聴者流出

まず東京地区の接触率を時系列で追うと、面白い傾向が見える。

特番が始まった当初、6局の総接触率は33%あったが、8時20分までに30%と3%下落した。通常の日曜8時台は合計接触率が落ちることはないが、この日は異なった。

実は東京に限らず、各地も同じだった。
大阪では、34%から28%と6%も下落。通常なら東京より大阪の方がテレビはよく見られるが、この日は特番が始まってまもなく、東京より下回ってしまった。

もっと激しく視聴者が流出した地域がある。
北海道は40%から30%と10%も消えた。そして福岡も11%下落した。他にも山形で5%、沖縄も7%落ちていた。

8時からの数分で、参院選の大勢は見えてしまった。
ところが全局が同じような報道を続けたため、かなりのテレビが消されたか、地上波以外のメディアに逃げてしまったようだ。

これを裏付ける別のデータもある。
テレ朝が8時20分から10時まで放送した、世界水泳の中継番組だ。東京地区では世界水泳の間、日本人選手が泳ぐ度に接触率が上昇し、「女子4×100mフリーリレー決勝」のゴール直後でピークを迎えた。
日本新記録に肉薄した日本チームの頑張りを、固唾を飲んで見守った人が少なくなかったようだ。

1都6県の関東地区で見ると、テレ朝は8時台の平均4.1%が、9時台に5.3%まで上がっている。
この結果、NHKとフジを抜いて日テレに次ぐ2位に浮上した。8時台から9時台で、トップの日テレは1.7%、2位NHKは0.9%下落した。
選挙特番に飽きた視聴者の一部をテレ朝が掬い上げていたようだ。

ちなみに他のエリアでも同様だった。
北海道ではテレ朝系列の北海道テレビが1.9%上げ、1.7%落としたNHKと1.4%減の札幌テレビ(日テレ系列)を抜いてトップに躍り出た。
長野でもNHK(1.4%減)と日テレ系列テレビ信州(1.9%減)を、1.1%上げたテレ朝系列長野朝日放送が抜いて首位となった。
地上波で唯一の別の選択肢だった世界水泳は、選挙一色に辟易とした視聴者にとって、避難場所になっていたのである。

◆カープ最優先の広島

日の丸を背負って世界と戦う日本人水泳選手より、はるかに強烈に人々を惹きつけた番組があった。野球中継だ。
選挙特番のこの日、巨人対広島戦をTBS系列の中国放送が中継した。1-1の延長10回1死満塁から、広島の4番・鈴木誠也がサヨナラヒットを放ち、3連勝を決めた試合だった。

その瞬間の中国放送の接触率は20%。
この時、2位の広島テレビ(日テレ系列)は3.5%。なんと6倍近い人を集めていた。しかも中国放送以外の4局を合計しても13%しかない。広島東洋カープ恐るべしだ。
やはりテレビ局が国政選挙を如何に重要と考えても、全局が似たり寄ったりの特番を垂れ流すことの意味は問い直されなければならない。

◆大阪では関テレが躍進

世界水泳とプロ野球中継は例外としても、選挙特番でも地域によって見られ方に違いがあった。

まず注目すべきは大阪。
“池上無双”と呼ばれ、選挙特番で多くの視聴者を集める「池上彰の参院選ライブ」。東京では安定した接触率で、夜10時台には日テレに次ぎ全体2位となっていた。ところが大阪では、神通力は全く通じず、東京の半分にも満たない2%前後で推移した。

もう1局、大阪で惨敗したのはNHK。
夜8時から12時まで、右肩下がりで推移したのは東京も大阪も同じだが、接触率は常時1%ほど低い。受信料徴収率も芳しくない大阪では、選挙特番も見られていない。

この状況で最も注目すべきは、フジ系列の関西テレビ。
「Live選挙サンデー×報道ランナー」という形で関西独自の部分がかなりあったようだ。東京でのフジは、夜8時台から11時台まで3.9%→4.5%→4.4%→3.0%と低調だった。ところが関テレは、5.6%→7.5%→7.5%→4.8%と東京よりかなり高い。夜9時台と10時台では3%も上回った。

大阪府の橋下徹元知事が8時直後に登場し、途中で辻元清美衆議院議員との生中継でバトルしたり、安倍晋三首相に斬り込んだりした。9時頃から接触率は6%から9%に急伸し、その後10時台までトップで走り続けた。
日本維新の会が強い大阪での、橋下人気は半端ではないと言えよう。

◆沖縄はアンチ自民!?

ところが沖縄は、受けた部分が全く異なる。
9時台後半からみるみる数字を伸ばし、10時直後に最高接触率となった。上昇曲線を支えたのは2つ。前半はれいわ新選組の山本太郎パート。7.8%から9.0%までに上がっている。国会のバリアフリー化をけん引したことに象徴される“新しい風”に反応した人々が少なくなかったようだ。

そしてもう一つは、自民党議員の不祥事パートだった。
石崎徹衆議院議員・豊田真由子元衆議院議員のパワハラ・暴行問題。塚田一郎候補の忖度問題。いずれも“魔の3回生”によるものだ。
次に安倍首相の演説に対するヤジを警察が強制排除したパートで、接触率は1%ほど上がった。
さらに元SPEEDで不倫騒動を起こした今井絵理子参議院議員と、失言が相次ぎ大臣を辞任した桜田義孝衆議院議員のリポートで、接触率は11.4%のピークを迎えた。

辺野古基地問題で沖縄の民意を無視し続ける自民党への反発が、沖縄テレビへの接触率につながったように見える。

◆NHKは地方で人気

もう一つ、地域によって見られ方が極端に異なるNHKのデータが気になる。


特番のあった夜8時から12時までの平均接触率でみると、最も低い大阪が3.6%、次いで4.6%の東京が低調だ。ところが新潟は6.9%、山形7.2%、最高の秋田は7.9%。大阪と比べ2倍以上もある。

大きく異なったのは、平均値だけではない。地域によって盛り上がる場所が異なった。
例えば秋田では、8時50分からのローカル枠で2%ほど上昇させたが、9時50分からの2回目のローカル枠では逆に2%ほど下落した。途中9時半頃は、4%ほど落ち込んでいる。ザッピングで離れる視聴者がかなりいる。

また山形では、1回目のローカル枠で3%ほど上げたが、ピークは9時になってから。激戦区・新潟で野党統一の打越さくら候補が当選を決めた瞬間とその解説だった。また2回目のローカル枠でも2%強上げているが、やはりピークは10時になってから。しかも9時台の半ばは数字が半減した。地方でも今やザッピングは常識だ。

そして両県とも、11時台はそれ以前より大幅に数字を落としている。地元の情報および簡潔な全体状況にはニーズがあるが、4時間は長いと感じている人が多いようだ。

いっぽう東京・大阪・愛知などの大都市では、平均値が低いだけではなく、ローカル枠で全く数字が上がらない。そして4時間の放送の間、接触率はほぼ右肩下がりで、当初からは半減している。選挙結果を重要と放送局が考えるほど、視聴者はそう思っていないことの証左ではないだろうか。

今回の参院選投票率は48.8%と24年ぶりに50%を割る低さだった。
選挙への関心の低さが、特番の視聴率に反映していよう。しかし24年前と比べると、今や国民はインターネットを使いこなすようになったので、必要な情報はピンポイントかつオンデマンドに入手する。
これが冒頭20分ほどで、選挙報道から多くの人が逃げ、世界水泳や野球中継に走った要因だろう。

また人々は自らの関心に従って、報道を見比べて自分のニーズに合う局を見るようになっている。これが地域によって見られる局が大きく異なる状況だろう。
さらにエッジの立っていないNHKの特番は、よく見られるエリアでも数字の上下動が激しいし、4時間を見続ける人があまりいない。

以上のように全局が国政選挙一色となることで、テレビの価値が毀損されていると危惧する。
各局が特番に特徴を持たせることも大切だが、それ以上にテレビに選択肢がなくなっていることが危機的状況に見える。
独りよがりでない、多様な視聴者の多様なニーズに応えるテレビを願ってやまない。

  • 鈴木祐司

    (すずきゆうじ)メディア・アナリスト。1958年愛知県出身。NHKを経て、2014年より次世代メディア研究所代表。デジタル化が進む中で、メディアがどう変貌するかを取材・分析。著作には「放送十五講」(2011年、共著)、「メディアの将来を探る」(2014年、共著)。

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