日本人3人目の9秒台・小池祐貴 桐生祥秀とのライバル物語
日本人3人目の9秒台・小池祐貴 桐生祥秀とのライバル物語
「実は、小池がそろそろ9秒台を出してくれるはずだと思っていました。先月行われた全日本選手権準決勝の後、小池は私に『感覚的には9秒99かなと思ったけれど、タイムが0.1秒遅かった』と話していたからです。もう彼のなかでは9秒台は出せるもので、出して当たり前のタイムになっているような口ぶりでした」(立命館慶祥高校時代の恩師・日裏徹也氏)
7月20日、ロンドンで行われた陸上ダイヤモンドリーグ男子100m決勝で、小池祐貴(ゆうき)(24)が日本歴代2位タイの9秒98をマーク。日本勢では3人目の9秒台を記録した。
「小池は中3の夏まで野球を8年間やっていて、陸上を始めたのはそれ以降のことです。高校に上がって初めて出た公式戦で、突然100m10秒台を叩き出したので、とんでもない才能を持ったヤツが出てきたなと驚きました」(前出・日裏氏)
陸上を始めて1年もたたずにIH(インターハイ)に出場した小池だったが、高1の国体で最大のライバルと初めて対決する。同学年の桐生祥秀(よしひで)(23)だ。日裏氏が続ける。
「小池が桐生選手との最初の対決で敗れた時、『来年は桐生に勝とう』と二人で約束したのを覚えています。しかしその後、小池と桐生選手との差はどんどん開いていきました。高校最後のIH(インターハイ)では、得意の200mですら勝つことができず、悔し涙を流していたのが印象に残っています」
’14年、小池は慶大に進学したが、思うように記録が伸びず、陸上競技を辞めようと考えていた時期もあった。そうした状況が変わったのは、今でもマンツーマン指導を受けている臼井淳一コーチの影響だという。バルセロナ五輪日本代表で、法政大学教授の杉本龍勇(たつお)氏が話す。
「小池選手は、動きの力強さが持ち味でしたが、同時に力を上手く抜けない走り方が弱点でした。桐生選手には小池選手ほどのパワーはありませんが、動きに緩急があり、力を入れるタイミングと抜くタイミングの使い分けが上手い。だから、好記録を叩き出すことができたのです。
ところが、昨年から小池選手の走りにもメリハリがついてきた。変な方向に力が加わることもなくなり、身体のブレが少なくなって体幹が安定するようになった。それが今回の9秒台につながり、桐生選手と肩を並べるところまでこられた要因だと思います。力の抜き方がより上手くなれば、9秒90といったタイムも出せるのではないでしょうか」
ライバルの背中を追い続け、ついに肩を並べた小池。レース後、桐生は小池に「9秒出たな」と声をかけ、ライバルの健闘を讃えた。二人のライバルが、これからの日本の短距離走をさらに盛り上げていくだろう。
『FRIDAY』2019年8月9日号より
- 写真:時事通信社