山田孝之が動画配信ドラマで革命! 世界基準の傑作『全裸監督』 | FRIDAYデジタル

山田孝之が動画配信ドラマで革命! 世界基準の傑作『全裸監督』

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』 本編レビュー:SYO(映画ライター)

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日本の映画界を変えるかもしれない男がいる。今、最も面白い俳優の一人・山田孝之。映画・ドラマ・CM等の出演はもとより、映画『デイアンドナイト』(19)ではプロデューサー業に進出し、綾野剛・内田朝陽とは音楽バンド「THE XXXXXX」を結成。さらに、“ファンとスターをつなぐ”企業「ミーアンドスターズ株式会社」を設立し、取締役も務める。

俳優という枠を自ら押し広げてきた稀代の仕掛人・山田が、今度はNetflixと組む。しかも伝説のAV監督を演じるという。どんな面白いものが見られるかと、楽しみにしていた方は多いだろう。8月8日に配信開始を迎えるNetflixオリジナルシリーズ『全裸監督』(19)は、クオリティも過激度も半端じゃなかった。「コンプライアンス? 忖度? 知るか!」と高らかに吠える、実にエネルギッシュな傑作だ。

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』8/8から全世界独占配信
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』8/8から全世界独占配信

「面白ければいい」的なNetflixの理想を体現した作品

『全裸監督』は、伝説的AV監督・村西とおるの壮絶な半生を、虚実織り交ぜて描いたもの。1980年、舞台は北海道。妻に不倫されたセールスマン・村西(山田孝之)に訪れたビジネスチャンス。それは、人生を滅茶苦茶にした「性」だった。「ビニ本」(ビニール袋で包装され、中身が見えないエロ本)の販売を始め、大成功を収めた村西は、数々の事件・試練に見舞われながらも、やがてAV界の寵児として名を馳せていく――。

米国の動画配信サービス最大手であるNetflixは、「クリエイター至上主義」を標榜し、作品を面白くするためなら過激なエロ・暴力・思想等の表現も積極的に取り入れてきた。作り手にとっては余計な制約に縛られず本当に届けたい物語を追求できるため、トガッたコンテンツが生まれやすい。その攻めた姿勢がユーザーの支持を集め、シェアを拡大してきた。たとえ加入していなくても、今年のアカデミー賞で監督賞を受賞し、世間を驚かせた映画『ROMA/ローマ』(18)や今年の7月に最新シーズンが配信開始されたばかりの“神ドラマ”『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(16~19)等の名を聞いたことがあるはずだ。

しょっぱなからスッポンポンで腰を振りまくる『全裸監督』はまさに、「面白ければ何をやってもいい」的なNetflixの理想を体現する作品。この切り込み具合、これぞユーザーが待ち望んでいたドラマといえる。

本作の最大の売りは、やはり「エロ」だろう。建前はともかく人間は「性」と「醜聞」に抗えない。「人間の欲望をかなえる」ために人生をささげた村西同様、『全裸監督』は我々が社会に溶け込むため抑制した「性(さが)」にストレートに切り込んでくる。そしてちゃんと、“中身”が“期待”を超えてくる。村西がぼかしなしのビニ本作りに奔走したように、本作はユーザー心理を完璧に理解したうえで「本当は観たいと思っていたもの」を提示してくれる。

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』

夫が仕事に出ている最中に情事にふける人妻たち。毎夜ラブホテルで嬌声を上げる客たち。ビニ本ビジネスに情熱を注ぐ大人たち。アダルトビデオで一攫千金を狙う者たち。『全裸監督』は、日常からAVまで、性の表も裏も全部見せてくれる。撮影用の精液や前貼りの作り方等の舞台裏まで描かれる大サービスぶりだ。

表現にも、一切の妥協がない。真正面から揺れる乳房を映し出す心意気、髪を振り乱す行為中の男女をスロー再生で見せる遊び心。エロをいやらしいものではなく、エンタメとして扱う本作のアプローチは、実に壮快だ。欲望を解放する人々は、生にも性にも忠実であり、いっそのこと美しい。

どこまでも自由。面白いことは何でもやる。第1話から、従来の作品とは違うエロ×エンタメのセンスにニヤッとさせられる。まずは、英会話教材の訪問販売員である村西が、やくざ(吉田鋼太郎)にぶちかます「性なる」英語のセールストーク。続いて、妻の浮気現場を目撃した村西のどアップからの階段落ち。そして、ビニ本のぼかしが規定内かどうかでモメる村西たちと警察の舌戦。笑ってしまうほど情熱的に、そして真面目にエロに生きる人々の姿を映し出す。こんなドラマは今までなかった。

87年生まれの筆者はこの時代の空気を経験していないが、そんなことは関係なく、ただただ物語の面白さにのめり込んでいた。元々全世界190ヵ国で配信される作品だから、製作陣も最初からドメスティックなものに収めようとしていない。超一級の娯楽作といえるだろう。

世界基準の作品作り

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』

先ほど「エンタメ」と書いたが、『全裸監督』が傑作である理由には、「リスペクト」も非常に効いている。ビニ本にアダルトビデオ、エロというビジネスで生きている者たちに対する目線に、濁ったものがないのだ。

村西、相棒のトシ(満島真之介)、参謀の川田(玉山鉄二)の3人が織りなす熱い友情はアングラな世界で一旗揚げてやろうという生命力にあふれており、たくましさに嫉妬させられるほど。発声法も体型も役に合わせて変えてきた山田をはじめ、各出演陣の気合いが入りまくった演技のぶつかり合いや、下ネタでも何でもありのセリフの応酬も規格外で、世界基準の「Netflixクオリティ」を痛感させられる。物語・演技・演出どれをとっても実に洗練されており、それでいて独創性が高く小気味がいい。

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』

洋画で例えるならレオナルド・ディカプリオのぶっ飛んだ演技が話題になった『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)のようなカリスマ性が作品全体にみなぎっており、信念に生きるアンチヒーローの生きざまにぐいぐいと引き込まれる。本作の脚本制作においてはNetflixオリジナルシリーズ『ナルコス』(15~19)の脚本家ジェイソン・ジョージを招へいし、「アンチヒーローのドラマ作り」について1週間のワークショップが開かれたそう。スタッフも国内外で活躍するメンバーが集結し、新宿歌舞伎町の一角を屋内に丸ごと作った巨大なセットには圧倒させられる。

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』

序盤であれば、第2話の終盤と第3話の冒頭では大がかりなアクションシーンも登場し、流れるようなカメラワークを楽しめる。さらに第6話では大規模なハワイロケも敢行し、実際の刑務所で撮影が行われたという。予算感や規模感からして、これまでの「国内ドラマ」のイメージでは図れない。

第3話で描かれる「初めてのアダルトビデオ作り」はこうした「強固な地盤」と「作り手の熱気」が融合した、序盤の最大の見せ場だ。まだ世の中にないアダルトビデオを生み出そうと、この一作に持てる情熱をすべてぶつける村西の鬼気迫る姿、現場で開眼する出演者・奈緒子(冨手麻妙)のガッツが、うねるように力強く活写される。

世界に誇るべき「エロ」の魅力。
『全裸監督』は同時に、性欲をさらけ出すという行為に対しても愛があふれている。同じく第3話で描かれる村西と小料理屋の女将(大谷麻衣)の情事は、その好例だ。

夫を亡くし、1人で店を切り盛りする女将と出会った村西は、彼女と生前の夫のお気に入りだった体位で、女将の孤独感を埋めていく。アダルトビデオにも「エモーション」が必要だと村西が確信する、序盤のターニングポイントとなるドラマティックなシーンだ。また、こちらはAVにおける「駅弁」誕生のルーツであり、そういった意味でも重要な立ち位置を占める。

「エロ」や「性」に対する、愛情

後半のキーパーソンとなっていく伝説の女優・恵美(森田望智)が体現するように、本作の登場人物には、自ら選んでその道を開拓するという誇りや気高さが感じ取られる。それが前述の「愛」にもつながっており、人間ドラマとしても作品に深みを与えている。

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』
Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』

「わいせつなもの」として厳しく取り締まられがちだが、誰しもの関心ごとでもあるエロ。春画の国であり、古来より「エロ大国」の異名を持つ日本が世界に打って出るコンテンツとして、これ以上にふさわしいものはないのかもしれない。

なお、Netflixでは今後も、園子温監督の新作『愛なき森で叫べ』や、蜷川実花監督の新作『Followers』等、エッジーなオリジナル作品を続々と配信予定だという。その口火を切るのが、本作『全裸監督』だ。

山田がインタビューなどで語っているように、先入観で敬遠してしまうのは非常にもったいない。そもそも、エロは忌避されるものだという感覚自体が、もう「古い」のかもしれない。多様性を認め合い、好きなものを「好き」と言うオープンな時代へ――エロにおけるそのメッセージを伝えるのにふさわしい国は、日本を置いて他にない。

映画界の革命家・山田孝之は、その最適任者だ。この作品には、日本の映像作りの“未来”が詰まっている。

 

Netflixオリジナルシリーズ『全裸監督』
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SYO:映画ライター 公式サイト Twitter

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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