バラエティ番組では無表情 素顔の稲垣啓太は代表イチ明瞭に話す男 | FRIDAYデジタル

バラエティ番組では無表情 素顔の稲垣啓太は代表イチ明瞭に話す男

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チームからその日のMVPに贈られる刀を持ってインタビュースペースに登場
チームからその日のMVPに贈られる刀を持ってインタビュースペースに登場

刀を手にしていた。

7月27日、岩手・釜石鵜住居復興スタジアム。稲垣啓太はラグビー日本代表の一員として、パシフィック・ネーションズカップのフィジー代表戦で34―21と勝利。取材エリアには、チームからその日のMVPに贈られる日本刀を持ってきていた。

「これを獲れたのは周りのサポートのおかげです。このチームの皆で取ったものを、チームの代表として受け取れた。(刀には)獲った人の名前が刻まれていくので光栄ですが。試合を通して特に目立ったプレーはなかったですが、なかなか賞に繋がらないような細かい積み重ねを見ていただいたのもありがたいです。この試合までの1週間でどれだけ準備ができたかのも評価されたと思います」

今年放送されたバラエティ番組でこの人を知った視聴者とっては、この明瞭な語り口は意外に感じるのだろうか。確かに当該の映像では、どんな話題を振られても切れ長の目を動かさない身長186センチ、体重116キロの大男へ有名な司会者が「何か不満なの?」といった旨で問いかけ、そのやりとりに笑い声がかぶさっている。

しかし楕円球界において、稲垣は現象や心境を細かく言語化するアスリートとして通っている。強面を崩さずに話題を集めた全国放送での振る舞いも、置かれた状況で導かれたこの人なりの最適解なのではないか。

新潟工業高校でラグビーを始めた29歳。2015年のワールドカップイングランド大会で歴史的3勝を経験する前から、試合後のミックスゾーンでは多くのメディアに頼りにされていた。

その言語力を自己分析したのは2013年。パナソニックのルーキーとして国内トップリーグの最優秀新人賞に輝いた際、その前年までの学生時代をこう思い出したものだ。

「春口先生と話す時に、筋道を立てて話すようになったんです――」

関東学院大学の部長だった春口廣は、1974年に当時リーグ戦3部だった同大の監督に就任して1997年から10年連続で大学選手権の決勝へ出場。叩き上げの名将として、多くの代表選手を世に送り出してきた。

当時から身体が大きく賢かった稲垣も、自然な流れで知遇を得る。朝練習があったある日、突然、春口の車に乗せられて高速道路を走り、車窓から富士山を見せられて「どうだ、これが俺の原点だ」と告げられたこともあった。

「3年生の頃だったかな。1回、先生の講演に付いて行かせてもらったことがあるんです。そこには結構な数の受講者の方がいたんですが、先生は急に『おい、稲垣、そこで喋ってこい。練習だ』って。そうやって色々なチャンスを与えてもらえました」

主将を務めた2012年度は加盟する関東大学リーグ戦で下部降格も、「それまでは自分のことばかり考えていましたが、主将をやることで周りの人間関係を見るようになった」。名手揃いのパナソニックに入った2013年以降は、学生時代に磨いた思考力と観察眼をフル稼働させる。タックル後にすぐ起き上がる身体動作、運動量、大男の懐をえぐる突進力、ケアや節制への意識などを段階的に磨き、日本代表の左プロップとして唯一無二と言える存在へ成長してきた。

全体練習後はルーティーンとして、タックルの技術チェックをおこなう。周りに流されず「自分がコントロールできること」へ集中するのも真骨頂だ。

「物事を順序立てて話すようになると、練習も順序立ててできるようになる」

パシフィックネーションズカップ第2戦、トンガ戦での稲垣(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)
パシフィックネーションズカップ第2戦、トンガ戦での稲垣(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

今年、見据えるのは、ワールドカップ日本大会。6月上旬から7月中旬までは、宮崎県内での合宿で心身を鍛えてきた。前半に大きくリードできたフィジー代表戦をフラットな目線で見つめ、前向きな態度で検討課題を示す。

「いままでで一番、フィットネスが高い。しかし、ただフィットネスが高いだけでは機能しない。フィットネスに加え、きつい時間帯にコミュニケーションが取れるかが課題でした。そこを宮崎で取り組んできた。(フィジー代表戦は)ゲームを終始リードしてコントロールできたのが成果じゃないですかね。ただ、相手のミスに助けられたのも事実。アタックからディフェンスへ切り替わる部分――僕が以前から言っているところですが――その反応を速くしていく必要があります」

日本代表は続く8月3日、大阪・東大阪市花園ラグビー場でトンガ代表とのPNC2戦目も41―7で制した。母校の新潟工業高校へグラウンドの天然芝化のための寄付金を出した稲垣は、引き続きこの国の背番号1を担う。

  • 取材・撮影・文向風見也

    スポーツライター 1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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