サッカー日本代表S・ダニエル 欧州リーグ挑戦のGKを支えるモノ | FRIDAYデジタル

サッカー日本代表S・ダニエル 欧州リーグ挑戦のGKを支えるモノ

世界に挑むキーパーの独占インタビュー。ベルギーから3年後のカタールW杯を狙う

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ベルギーの都市・シント=トロイデンの街中にあるカフェでくつろぐ。バックにあるのは世界遺産となっている市庁舎
ベルギーの都市・シント=トロイデンの街中にあるカフェでくつろぐ。バックにあるのは世界遺産となっている市庁舎

待ち合わせ場所に現れた彼は、疲労感を滲(にじ)ませながら笑みをこぼした。

「疲れていますね。時差ボケなのかわからないけど、抜けきらないというか」

無理もない。7月13日にベガルタ仙台でのラストゲームを戦い、翌々日、機上の人となった。新チームに合流するとメディカルチェックを受けて正式契約、すぐに練習合流、そして練習試合にフル出場と、休む暇もない状態なのだ。

「しかも、練習時間が長いんですよね。それに練習試合の前日も、翌日もみっちりトレーニングしましたから。さっそく鍛えられています(笑)」

アメリカ人の父と日本人の母を持つ日本代表GKシュミット・ダニエル(27)がベルギー1部のシント=トロイデンVV(STVV)に移籍した。昨年、代表に初選出された彼にとって海外移籍は、その頃から膨らんだ目標だった。

現役の日本代表GKが欧州のリーグに挑戦するのは、川口能活(よしかつ)、川島永嗣、権田修一に続いて4人目となる。

「代表に行くと、みんなから海外のレベルの高さを聞くし、彼ら自身の意識もすごく高い。それで、早く海外に行かないといけない、って本気で思うようになって。危機感みたいな感じです」

オファーが届いたときは、嬉しさより、安堵のほうが大きかったという。

「実は、かなり前から興味を持ってくれているという話を聞いていたんです。でも、そこから正式なオファーに至るまでが長かった。ちょっと不安だったので、やっとだな、良かったなって」

STVVは’17年11月に日本企業のDMM・comが買収し、元FC東京GMの立石敬之氏がCEOを務めるクラブだ。ベルギーリーグで上位を目指す一方で、有望な日本人選手が欧州で活躍するためのファーストステップの場としての役割も果たしている。立石CEOは、身長197cmと体格に恵まれ、ポテンシャルの高いシュミットを「世界で通用するGKに育てたい」と話す。

しかし、だからといって、ポジションが約束されているわけではない。昨季、数々の好セーブでチームを救った正GKのケニー・ステッペが健在で、厳しいポジション争いが待っている。

だが、それも承知の上だと、シュミットは覚悟を滲ませる。

「その壁を越えないといけないし、けっして不可能じゃないと思う。いつチャンスがくるかわからないので、生かせるようにしっかり準備したいですね。試合に出られない時期があるかもしれないけど、焦らずに自分と向き合っていきたい」

絵本を読んで決断した

とはいえ、カタールW杯アジア2次予選が9月に迫っている。所属クラブで出場機会を得られなければ、つかみかけている代表正GKの座を手放すことになりかねない。それでもシュミットが焦らずにいられるのには、理由があった。

中央大学からベガルタ入りした’14年当時、シュミットは出番を得られず、悩んでいた。そんなある日、当時の彼女がプレゼントを贈ってくれた。

「今の妻なんですけど、彼女が『ぼちぼちいこか』っていう絵本を買ってきてくれたんです。それを読んで、焦らず頑張ろうかなって。今回も苦しい状況が続いたら、それを思い出せばいい。これまでもそうして道を切り開いてきたので」

実際、シュミットはその後、J2クラブへの期限付き移籍を繰り返して経験を積み、26歳で代表へとたどり着いた。そもそもGKを本格的に始めたのも高校に入ってから。「順調に行くタイプじゃないんですよ。これまでの人生を振り返っても、遠回りしてきた」と笑う。

ちなみに、その絵本は大事にしまってあるという。

「そのへんに置いておくと、娘たちに、ビリビリに破られてしまうんで(笑)」

妻と3歳、0歳の娘たちはまだ日本にいて、シュミットはチームの寮に一人で暮らしている。

「ブリュッセルで家を探そうと思っているんです。ここからブリュッセルまで車で40分くらい。家族が生活しやすくて、便利なところに住みたいですね。娘たちは僕にとって”癒(い)やし”なので、早く来てほしいです。今のところ困ったことはないですね。何かあっても、面白いな、って思うタイプなんです。店だって、へえ、こんなに早く閉まっちゃうんだって。そもそもヨーロッパで生活できるだけで、ワクワクするじゃないですか。しかもベルギーだったら、ヨーロッパのいろいろなところに観光に行きやすい。そういう楽しみもあります」

一方、日本代表では6月の親善試合で、今なお海外クラブでプレーする川島とトレーニングをともにする機会を得た。W杯で3大会連続して日本の正GKを務めた大先輩のプレーを間近で見て、感じるものがあったという。

「スキルのクオリティは改めて高いと思いました。一つひとつのプレーをすごく大事にしていて、そこはすごく勉強になったし、だからこそ、海外で長くやれるんだなって。それに、永嗣さんはメンタルが本当に強い。GKって孤独なポジションですし、ましてや海外で戦い抜くには信念を貫く強さが必要。でも、永嗣さんを超えたいと改めて思いました」

目指すは3年後のカタールW杯で日本代表のゴールを守ること。だからといって、目先のアジア予選だけを見ているわけではない。

「海外のリーグで揉(も)まれれば、絶対にもっとレベルアップできる。それに、強豪チームと対戦することで、世界と戦うイメージもできるようになると思う。目先の代表とかではなく、もっと長い目で見て、海外にやってきました」

世界規格のGKへと変貌を遂げる可能性があることを、多くのサッカーファンが信じている。そうした期待を背負い、シュミット・ダニエルは焦らず、信念を持って、海外で戦い抜くつもりだ。

7月18日にシント=トロイデンVVと正式契約すると、すぐに練習に参加。チームには日本代表DF・遠藤航も所属
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ベルギーの新しいチームメイトたちと並んでも、シュミット・ダニエル(右端)の身長の高さはよく分かる
ベルギーの新しいチームメイトたちと並んでも、シュミット・ダニエル(右端)の身長の高さはよく分かる

『FRIDAY』2019年8月16日号より

  • 取材・文飯尾篤史写真cBase Soccer Agency,cSTVV

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