いまや常識 すり傷を「消毒→乾燥」してはいけない理由

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夏休みも半ばになり、アウトドアのレジャーが楽しくなる季節が到来する。外出の機会が増えるとともに、高まるのはケガのリスク。転んだり、すりむいたり、やけどしたりしたときの対処方法として、いまだに多くの人が「消毒して、ガーゼなどを当てて、傷を乾かすのがよい」と考えているのではないだろうか。

夏休み後半戦。レジャーやスポーツ、慣れないキャンプなどでケガややけども増えるから要注意だ

実は、それだと、治癒までに時間がかかり、傷跡が残る可能性が高まるのだ。

最新医療では、傷を乾かさずに、少し湿った状態で治していく「湿潤療法」が一般的になってきている。この湿潤療法の提唱者であり、『なつい式湿潤療法®』を開発した東京江東区の『なついキズとやけどのクリニック』の夏井 睦(まこと)院長(形成外科)に話を伺った。

「湿潤療法」は、少し湿った状態で跡を残さずに治していく

それまでの常識を覆す、湿潤療法を思いついたきかっけは、偶然見た医学書だった。

「当時、秋田の病院で高齢者の方の床ずれを治療していました。たまたま、若い研修医が持っていた本に“傷は乾かすと治らない”とあったのです。それ以前から、傷を乾かす治療方法に疑問を持っていた私は、患者さんに試してみました。するとみるみる治り、しかも跡が残らなかったのです。従来の『消毒して乾燥させる』という治療は、ガーゼをはがす際などに痛みを伴います。しかし、湿潤療法は痛みがなく治癒に導けるので、利点だらけだったのです」(夏井院長 以下同)

傷口を湿らせて治す方法のメカニズムは、浸出液と呼ばれる体液で傷口を覆うのがポイントだ。

「ケガややけどをすると出血し、傷口で固まります。すると、浸出液と呼ばれる体液が出てきます。この浸出液には、細胞を増やし元気にする成分が入っていることから、浸出液ごと傷口を覆って治癒に導くのが湿潤療法なのです」

つまり従来の、傷口を乾燥させてしまう治療法では、浸出液の機能を活用できず、傷の治りが遅くなるのだ。

湿潤療法は、傷口をきれいな水で洗って、傷パッドで覆うだけ

さらに気を付けたいのは、ケガをした後、消毒液を傷口に吹きかけないことだ。

「消毒液は、ばい菌のたんぱく質を溶かして殺します。それと同時に、体のたんぱく質も傷つけてしまい、治りが遅くなるのです」

家庭での湿潤療法のやり方は簡単だ。傷口を水道水で洗って、市販の傷パッドで覆うだけ。

「傷ができたら、まず傷口を水道水でよく洗ってください。傷口についた細菌にとって、水道水の流れは、ナイヤガラの滝のように強く激しいもの。流水で流すだけで落ちてしまうのです。その後、傷口が乾かないように、市販の傷パッドで覆うだけ。パッドがなかったり、傷が広範囲だったりしたら、食品包装用ラップにワセリンを塗って、傷にあててください。この処置を行うと、深い傷でもきれいに治ります」

直接肌にワセリンを塗るのではなく、ワセリンをくるんだラップを傷に当てて、浸出液で患部を保湿するのだ。ちなみに、市販の傷パッドは「ハイドロコロイド」という素材を使用した粘着層と防水加工された外層の2層構造のものが多く、浸出液を吸収するとハイドロコロイドの部分がゲル状になる。これで傷口にふたをすることによって、傷口を浸出液で潤し、治癒を促していく。

パッドを貼ったらそのまま2~3日貼りっぱなしでよい。汚れが気になるようなら張り替えるのだが、その前に傷口を水道水で洗い流すとよい。

やけどの治療例(やけど部位の治癒前の写真がありますので、ご注意ください)

この症例は夏井院長が診察した2歳の男児。来院する2週間前に熱湯で右足に熱傷を受傷。近所の総合病院で治療を受けていたが、受傷から2週間後、主治医から「植皮をしなければ治らない。歩行障害が起こる。手術しなければ敗血症を起こす」と説明を受け、『なついキズとやけどのクリニック』を受診する。湿潤療法のために独自開発した『プラスモイスト』というフィルムを貼って治療。結果的に、1ヵ月ほどかけて治癒に向かい、運動障害も起こらなかった。

①初診時の患部。広範囲なやけどに軟膏薬を塗っている。②初診から15日後の患部。『プラスモイスト』フィルムで治療したところ患部がきれいに。③初診から25日後の患部。④初診から45日後、軽度の傷口の縮れがあるものの、きれいに治っている。治療は経過観察に

傷がじくじくとうずいてきたら……

傷パッドで覆ったあと、傷が「じくじく」とうずいてきて、化膿が心配になってしまうことがある。

「膝をすりむいたり,包丁で指を切ったりすると傷口では、血を固めるための血小板、死んだ細菌やばい菌を除去するマクロファージ、傷口をくっつけようとする繊維芽細胞などが集まってきます。じくじくとうずいているように感じても、熱が出ていなければ、心配はないでしょう。膿んでいるように見えても、パッドの素材が溶けて傷口に残っている可能性が高い。その場合は、水道水でよく洗い、新しい傷パッドに貼り替えればいいのです」

傷が広範囲もしくは深い場合、傷口に異物が残っていたり、動物に噛まれたりした場合、出血が止まらない場合は、専門医の診察を受けたほうがいい。

ただ、アウトドアやレジャーは休日に行くことが多く、医療機関も限られていることが多い。これらの処置を知り、備えることで、安心して過ごすことができるはずだ。

 

夏井睦 1957年秋田県生まれ。東北大学医学部卒業。専門は形成外科。『なついキズとやけどのクリニック』院長。湿潤療法サイト『新しい創傷治療 消毒とガーゼの撲滅を目指して』http://www.wound-treatment.jp/ を運営。著書に『傷はぜったい消毒するな~生態系としての皮膚の科学~』(光文社新書)などがある。

  • 取材・文前川亜紀

Photo Gallary3

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