世界からスポーツ弱者をなくすをテーマに活動 「ゆるスポ」とは?

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ゾンビと人間が競い合う「ゾンビサッカー」、こたつの上で湯呑みを使い、デジタルみかんをはじき合う「こたつホッケー」、プールでブラックゴーグルを装着し、チーム全員が同じポーズをとったら得点がゼロになる「シンクロしないズドスイミング」…。 

そんな摩訶不思議な競技が80種も並ぶ「世界ゆるスポーツ協会」。どれも笑えるけど、これっていったい何なのだろう? 協会が掲げる「スポーツ弱者を、世界からなくす。」というコンセプトの意味とは?  

聞きたいことてんこ盛りで代表理事の澤田智洋さんを直撃。すると開口一番、澤田さんからとんでもない爆弾発言が飛び出した。

スポーツが苦手だからこそ楽しめる環境を作りたい

「僕は本当に運動が苦手で、6年前に五輪の招致が決まったときに、ヤな気分になったんです。みんな無条件に喜んでいるけど、スポーツ嫌いからすると地獄ですよ。猫アレルギーの人のところに、世界中から猫がやってくるみたいなものですから」(澤田智洋さん 以下同)

陰鬱とした日々を送っていた澤田さんだったが、あるときふと閃いたという。

「このまま悶々としてオリンピックを迎えるのはいやだ。だったら自分が楽しくなれる新しいスポーツ環境を作ろう」

そこからは100冊を超えるスポーツ文献を読みあさり、ついにスポーツの真髄に辿り着く。

「スポーツは本来、息抜きや気晴らし、日常のストレスの開放手段だったんです。今のように規格化される以前は『夫婦喧嘩しちゃったから、ちょっと気晴らしにボール蹴ろうぜ』みたいなノリだったはず。だったら本来的なスポーツの姿に、一度立ち返ってみたいと思いました」

手始めにノルウエーからバブルサッカー(大きな球体の中に人間が入ってやるサッカー)を輸入して参加者を募ってみると、例えば腰まである金髪ロン毛にネルシャツで、いかにもメタルやってました的な50代の男性など、普段なら絶対にフィールドに来なさそうな人、スポーツが苦手な人たちが「意を決して来ました!」「清水の舞台から飛び降りるつもりで……」などと言いながらたくさん集まった。

「笑えそうだったから」「これなら下手でも怒る人がいないと思ったから」。そんな感想を聞くうちに、「なぁんだ、みんなカミングアウトしないだけで、僕以外にも悶々とした人はたくさんいたんだ」と手応えを感じた澤田さん。仲間を募り、協会を立ち上げたのは2015年のことだった。

「ゆるスポ」にはそれぞれミッションがある!

「ゆるスポ」がすごいのは一見ウケ狙いに見えて、実はすべての競技に非常に崇高なミッションがあるところだ。以下、例を挙げていくつか説明しよう。

*ブラックホール卓球

ブラックホール卓球はラケットの真ん中に穴が開いていて、点をとる度に穴が大きくなる。

「プロはみんな真ん中のスイートスポットに球を当てる練習を何万回もして癖がついているから、真ん中をくりぬいちゃうと、打つのが下手になるんです。反対に素人はランダムに打つので、上手になる。実際僕も、オリンピックに4度も出られた往年の名選手、松下浩二さんと試合をして勝ちました」と澤田さん。スポーツ弱者は筆者も含めて往々にして球技が苦手だが、弱者でもプロに勝てる! そんな自信を持たせるのがこの競技のミッションだ。

ラケット面には本物の宇宙写真を採用。ラケットを選ぶところから楽しさ満点
きれいにホールを通過した場合にはその美しさを称え、 敵味方関係なく「ナイスホール!」と声をかけ合うのがルール

*打ち投げ花火

金沢文庫にある「ひとりざわ」という介護老人保険施設から、「リハビリが続かないので何かできないか」と相談されて生まれたスポーツ。

天井に的があり、ダーツのように5点から1点と点数がついている。投げた風船が的に当たるとデジタル花火が打ち上がり、遊び感覚で上半身の可動域を拡げ、姿勢の矯正ができる。「面白い。悔しい。もう一投いいですかと、みなさん能動的にリハビリに取り組んでくださるので、医療従事者の方がびっくりします」

外出が難しい入居者や入院中の方たちのニーズから、花火のモチーフを採用
的の中心に近いほど、花火は美しく大きくなる。首まわりのストレッチにも効果あり

*ハンぎょボール

ハンドボールとブリの街、氷見市で生まれたご当地スポーツ。得点すると脇に抱えたブリが出世していき、ゴールを決めたらみんなで「出世!」とコール。でも熱くなりすぎて大事なブリを落とすと冷蔵庫送りに。

「地域活性のためにPR動画を作っても効果は出にくいけれど、ご当地スポーツは一過性ではなく、持続性があります。スポーツを作るときにはまず地域の方を集め、『この土地のいいところをいっぱい挙げていきましょう』というところから始めます。その過程で地元愛が醸成され、スポーツができた後は、それが地域の文化となり、学校で使われれば教材にも。イベントをやれば観光客がたくさん来るから、観光資源としても活用できます」

ハンドボールは氷見市民にとってのアイデンティティスポーツ。そして出世魚の「ぶり」は、ブランド魚「ひみ寒ぶり」として、全国に広く知られている
得点すると「コズクラ→フクラギ→ガンド→ブリ」と成長、出世していく

*イモムシラグビー 

手だけを使って進むラグビー。這ったり転がったりするうちに、年齢や性別や障がいの有無も忘れてしまう。これは澤田さんが車椅子ユーザーの方の家に遊びに行った際に、泥の付いた車椅子を玄関に置き、室内では素早く這って生活する彼を見て、「この動作を取り入れれば、彼は健常者に勝てるんじゃないか」と思って作った競技。

スポーツを障がい者理解に繋げたいというミッションは他のゆるスポにも多数あり、「生まれて初めて手加減されずに勝った!」という声を聞くこともあるという。

プレイヤーは専用のイモムシウエアを装着
たくさんのイモムシたちがウニョウニョと動く様子はインスタ映え必至!

「体育」の犠牲者をなくし、スポーツ好き100%を目指す

知れば知るほど奥が深いゆるスポの世界。自慢じゃないが未だに逆上がりもできず、「自転車には乗れる」と言うとみんなに驚かれる筆者としては、共感と感動の嵐でしかない。

「僕のような『体育』の犠牲者はいっぱいいます。究極的にはスポーツ好きを100%にしたいんです。観戦者としてではなく、プレイヤーとして」

という澤田さんの言葉がマジで身に滲みる。さらに “仕事”としてのゆるスポについても、こんな風に話してくれた。

「自分のいちばんの弱点からスタートしているので、この活動をやればやるほど自分の恥部や汚点がクリアになり、浄化されていく。つまり自己救済でもあるわけです。だから僕は、『やりたいことがない』という若手によく言うんです。『大嫌いなことからスタートしようよ。大嫌いなことが世界からなくなるようなことをすればいい。嫌いなことを好きにする逆転の発想でやっていくと、楽しくてやめられなくなるよ』って」

2020年に迎える東京五輪も、もう怖くはない。世界中から強面の猫が押し寄せたって大丈夫。ただし…。

「終わったら、絶対みんな五輪ロスになると思って今から心配してるんですよね。万博もありますが、何かみんながノレるものは作っていきたいなと思っています」 

「世界ゆるスポーツ協会」では、毎年5月に遊園地感覚で楽しめる「ゆるスポーツランド」を開催。各種イベントは毎週のように各地で行われているし、道具の貸し出しや、一部販売もしている。さらに海外を視野に入れ、エストニア進出も計画中だ。 

世界中のスポーツ弱者がスポーツ大好きになる日は、そう遠い未来ではない。

  • 取材・文井出千昌

Photo Gallary8

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