甲子園 「公立の星」富島 弱小チームを変貌させた“弱者の戦法” | FRIDAYデジタル

甲子園 「公立の星」富島 弱小チームを変貌させた“弱者の戦法”

県大会初戦で14連敗した高校が夏の甲子園で初出場を果たした。監督が語る弱いチームならではの独自の戦略を紹介する。

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富島の浜田登監督。小学校3年から野球を始め宮崎商から九州国際大学に進学。’08年に母校の宮崎商野球部監督に就任
富島の浜田登監督。小学校3年から野球を始め宮崎商から九州国際大学に進学。’08年に母校の宮崎商野球部監督に就任

熱戦が続いている夏の甲子園。今大会の初出場は3校と49代表になってからは最小の数字だが、そんな中でも異彩を放っているのが宮崎代表の富島だ。昨年春の選抜にも出場し、近年目覚ましい躍進を遂げているが、’09年秋からは14季連続で県大会初戦敗退という「弱小チーム」だった。昨年夏も白山(三重)が夏の三重大会で10年連続初戦敗退からわずか2年で甲子園出場を果たして話題となったが、富島もそれに匹敵する躍進ぶりである。

チームを指導する浜田登監督(51)は宮崎商にいた‘08年夏に、赤川克紀投手(元ヤクルト)を擁して甲子園出場を果たしている。そんな浜田監督が富島に異動してきたのは’13年4月。当時の部員はわずか11人だった。甲子園に出場したような監督であれば、もっと野球が盛んな学校への異動が考えられそうだが、この異動は浜田監督自身が望んだものだった。浜田監督が振り返る。

「そろそろ異動だろうなというのは分かっていましたが、どうせなら実績のない学校に行きたいと思っていました。宮崎商だと伝統の力がありますけどそういう土壌がないチームで、今までやってきたことを試したいなと」

浜田監督が異動してきた最初の練習試合は3対26の大敗。いくら望んで異動してきたとはいえ、気持ちが折れそうになるスコアだが浜田監督は逆に燃えるものがあった。そして選手に対しても決して目線を下げずに、高い目標を提示し続けたという。

「力がないからといって、レベルを下げた指導はしませんでした。当然教えないといけないことは多かったですが、目標は下げません。就任した時に“3年で九州大会、4年で甲子園に行きます”と言ったら他の先生からはクスッと笑われましたけどね」(同前)

富島高校は商業科の県立高校であり、設備的にも恵まれているとはいえない。グラウンドは他の部活と共用で寮もなく、学校の近隣から通ってくる選手だけである。しかしそんな環境であってもできることはたくさんあると考えるのが浜田監督のやり方だ。

まずは体力面の強化を進めた。同じ公立の商業高校で結果を残している熊本商を参考に栄養士による指導を開始し、保護者にも説明会を行うなど周囲を巻き込んで取り組んだ。その甲斐もあって入学時から体重が10kg以上増える選手が出るなど、着実にパワーアップを果たした。

体力面だけではなく、技術面でも確かな取り組みがある。足のどこに自然と重心をかけているかということから、体の使い方を4タイプに分類する「4スタンス理論」を導入。選手の練習用ユニフォームには、そのタイプが書かれており、スイングなどもそれに合わせた指導を行っている。

また、実戦的な練習ではストップウォッチを活用している。打者走者のベースまでの到達タイム、フライの場合は滞空時間、外野に抜けた打球の場合は捕球してから返球するまでの時間などあらゆるタイムを測定し、1プレーが終わるたびにその数字を全員に伝えるようにもしている。フライであれば捕球できる目安のタイムが設定されており、そのタイムなのに捕球できない場合はスタートや守備位置に問題があるといったように理論的な指導のため、選手も納得感があるのだ。

こういった取り組みで結果を出したことで学校やOBからの支援も増えたという。また、浜田監督から依頼を受けてスタッフに加わった中川清治コーチは、毎日仕事の合間を縫って指導を行っている。恵まれた環境がなくても、熱意と創意工夫で周囲を巻き込みながら戦っていくというのは、全国の公立校の参考となる部分が多い。

昨年春の選抜は星稜(石川)に大敗を喫したが、当時よりもチームのレベル、状態は上がっているという。富島の1回戦は8日の第4試合。北信越屈指の強豪である敦賀気比(福井)を相手にどんな戦いを見せるか注目したい。

  • 取材・文西尾典文

    スポーツライター。愛知県出身。’79年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員

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