1杯1500円 房総半島の「片田舎」にあるカフェが盛況する理由

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カフェに見えない外観。飛騨高山から移築して作った合掌造りという由来から「合掌舘」と名付けた

千葉県内房の海岸線沿いに、客足が止まらない古民家カフェがある。近くには、「地獄のぞき」と言われる断崖で観光スポットにもなっている鋸山(のこぎりやま)がそびえたつ。交通の便は決してよくないが、1杯1500円のコーヒーが売れ続けているのはなぜなのか。自身も千葉県内で古民家カフェを経営する佐藤修氏が、その秘密に迫った。

「『開店直前、閉店直後にいらしたお客様を帰してはいけない。温かくお迎えしなさい。わざわざ訪ねてきてくださったお客様を大事にすること。そこに商売の神様がいる』という父の教えが、当時の『えどもんず』を救ってくれたと思っています」

古民家カフェ「えどもんず」のオーナー青山清和氏は感慨深げだ。

カフェを含めた飲食店は「5年で7割、10年で9割が姿を消す」と言われるほど、経営的に厳しい業界。カフェを経営して3年目になる筆者も、身に染みてわかる。そんな中、えどもんずは2012年のオープンして、今年で7年目。週末は1杯1500円の珈琲が1日で200杯超も売れるというから驚きだ。青山氏が続ける。

「私の幼少期、父がインドネシアでコーヒー農園を営んでいました。私は珈琲器具に囲まれて育ち、小学4年生の時にはすでに焙煎に取り組んでいました。カフェを開いたきっかけは、東日本大震災です。震災の影響で海辺の街から人影が消え、金谷に住んでいる友人が復興のために奔走していた。その姿を見て、『力になりたい』と考えたんです。事前のリサーチはせず、『思い』だけでカフェを開いたのです。ただ営業するからには、珈琲に対する知識とスキルを活かして、世界一の珈琲を提供するオンリーワンの店を目指しました」

名物「氷出しコーヒー」は1杯800円。5杯分作るために10時間費やす。水より氷のほうが水質が安定しているため、より深い味を楽しめる。

最高級の珈琲豆、「ブルーマウンテン」を仕入れる約50万円の資金だけは確保し、あとは徹底した経費節約で開店にこぎつけた。店舗物件の古民家は、岐阜県・白川郷から移築された築230年超の物件。傷みが激しく、延べ約200人ものボランティアに手を借りて改修。テーブルやイスは廃棄品を譲り受けた。こだわった豆は、大手商社と契約し世界中から最高品質の豆を集めた。「音響栽培」「音響飼育」といわれる野菜などの栽培方法にならい、クラシック音楽を流した倉庫で生豆を保存するこだわりようだ。

それでも開店後、2年ほどは閑古鳥状態。「いくらなんでも高い」と批判を受け、当初、たった2席しかなかったカウンターも埋まらなかった。床に大の字で寝転がったまま熟睡してしまい、お客様に起こされてしまったこともあった。青山氏が振り返る。

「それでも集客と話題作り、そして仲間作りのアイデアは、常に考えていました。2014年に将来的にカフェや雑貨店を開きたいという人たちを呼び込み、店内を区割りし出店してもらう『カフェ・イン・カフェ』を開きました。Facebook告知し、約5000人超のフォロワーが獲得でき、知名度をあげられました。出店した人たちがのちにレストランやカフェを開業させたことで、友好的な経営者ネットワークもできた。多くの仲間が増えたことで、口コミの集客力も向上したのです」

2015年2月、転機が訪れる。閉店直後に「珈琲を一杯、飲ませてもらえないか」と男性2人が訪ねてきた。冒頭で紹介した父の教え通り、青山氏は湯を沸かし直し、珈琲を提供した。実はこの2人はNHKの関係者だった。その半年後、「カフェの番組企画を練っている」と出演を依頼され、現在まで3年以上続くNHK・Eテレ「ふるカフェ系 ハルさんの休日」の記念すべき第一回を飾った。知名度は一気に全国区となり、著名タレントがお忍びで訪れるほどに成長。2018年には、店から至近の観光地「鋸山(のこぎりやま)」が、外国人が選ぶ観光スポット「ディープジャパン」で2位にランクインし、外国人観光客もわざわざ訪れるようになった。

1杯1500円のブルーマウンテン

TVで取り上げられるまでの約3年間の我慢を経て、どんな教訓を得られたのか。

「徹底したマーケティングで勝負する大手チェーン店に対し、個人経営の店は『こだわり』や『思い』という情緒で立ち向かうしかない。ただそれだけでなく、お客様が目を向けてくれるオンリーワンの魅力が必要だと思います。そして、都会の繁華街と違って、自分さえ良ければいいという考えでは難しい。地域との共存共栄、地域への社会貢献を常に意識していないと厳しい。ただ、地域全体が盛り上がれば、仲間を通じた口コミでお客様は必ず増えます。飲食店にとって、口コミでいらしたお客様は一定の信頼感を持っていらしてくださいます。満足いただければ、また他のお客様をご紹介してくださる。何よりの味方になるのが、口コミのお客様なのです」

青山氏は、来店したお客に率先して声をかけ、記念撮影の輪に入る。店の写真をSNSにアップすることも、お客様の楽しみであることを知っているからだ。その写真がお客様のSNSに投稿されれば、店の宣伝にもなる。筆者の店に足を運んでくれるお客様も、メニューや店内の写真を撮影する人は多いが、私自身が写真に納まるケースはまれだ。青山氏には、カフェフリークのニーズを熟知し、自然に溶け込む才覚がある。それこそ、SNS時代にマッチしたおもてなしなのかもしれない。

カフェえどもんず
住所:千葉県富津市金谷2185‐2合掌館内 電話:070-6478-7778
営業時間:金、土、日、月曜日、祭日の昼頃から日没まで
※お盆期間中の8月9日~18日まで休まず営業
定休日:火、水、木
URL:http://www.edomons.net/

カプチーノ。泡立てミルクの中に、鉄製カップ(右)に注がれた濃厚エスプレッソコーヒーを入れ、自分好みの苦みに調整できる。1杯800円
コーヒーの生豆。優しい芳醇な味を引き出すため、クラシック音楽を聞かせている
毎日豆を焙煎する。「焙煎した後の消費期限は1週間しかない」(青山氏)。一般的な焙煎珈琲の消費期限は1年とされている
会員しか入れない2階の風景。読者の方でこの写真を見せると、会員でなくてもこの部屋で飲むことができるサービスあり(1回限定)
  • 取材・文佐藤修

    1963年生まれ 産経新聞社では営業局や事業局を経て、取材記者に。千葉県警、千葉県政、千葉市政担当記者、サンケイスポーツ社会面担当記者として活躍。2012年10月からフリー。取材活動の傍ら、千葉市中央区で古民家カフェ「アオソラカフェ」を営む

  • 写真佐藤修、青山清和(えどもんず)

Photo Gallary7

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