韓国発・ゾンビで若返りビジネス! 快作映画『感染家族』って何?

異端の『新感染』が切り開いた地平線を歩く「王道」のゾンビ映画『感染家族』が出現!  SYO(映画ライター)

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『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年作。日本公開17年)という映画を覚えているだろうか? 韓国映画が初めてビッグバジェットで製作したゾンビ映画であり、本国で2016年のNo.1(観客動員1100万人超)となる空前のヒットを記録。その熱は世界に伝播し、『シェイプ・オブ・ウォーター』のギレルモ・デル・トロ監督や『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライト監督、ホラー小説の帝王スティーブン・キングまでもが激賞した。日本でも国内興行収入3億円のスマッシュヒットを記録し、レンタル成績も好調と聞く。

あの驚きと熱狂からちょうど2年後の2019年。韓国から、次なるゾンビ映画がやってきた。それが、『感染家族』(原題「The Odd Family: Zombie on Sale」=奇妙な家族:ゾンビ発売中、くらいの意味。8月16日公開)だ。この邦題、完全に『新感染』に寄せているが(ひょっとして『万引き家族』にも?)、決してヒット作にあやかったB級映画ではない。古今東西のゾンビ映画への愛(もちろん『新感染』も!)を盛り込みまくり、さらにオリジナルのアイデアを入れた必見作に仕上がっている。その実力について、紹介していきたい。

『感染家族』配給:ファインフィルムズ © 2019 Megabox JoongAng Plus M & Cinezoo, Oscar 10studio, all rights—

観たことも聞いたこともない独自設定

まず、何よりも設定が秀逸だ。「ゾンビを使った若返りビジネス」である。そんな物語、ちょっと聞いたことがない。

舞台は、過疎化&高齢化が進む寒村。そこに、細菌に感染してしまった青年がやってくる。俗にいうゾンビ状態になった彼がある老人に噛み付くと、なぜだかその老人は若返った! そんな奇跡を目撃した老人の家族は、高齢者を相手にした商売を思いつく。青年ゾンビを捕らえて、客を噛ませて若返らせるのだ。このビジネスはすぐさま軌道に乗り、家族は大儲け。しかし、あるしっぺ返しが待ち受けていた……。

『感染家族』配給:ファインフィルムズ © 2019 Megabox JoongAng Plus M & Cinezoo, Oscar 10studio, all rights—

前半はこんな感じで基本的にギャグテイスト。牧歌的な田園風景と気弱な青年ゾンビの対比が面白く、明るく、楽しく嫌味のない展開でケラケラと笑わせてくれる。しかし、それはあくまで潜伏期間。若返った人々が“覚醒”するとき、映画全体もまた、阿鼻叫喚のゾンビ映画へとスパークするのだ。村中の人々がゾンビと化し、家族めがけて襲い来るスリル。大がかりなバトルシーンは、ハリウッド大作にも引けを取らないスケールだ。

前半はコメディ・後半はアクション。さらにラブストーリーとヒューマンドラマが加わり、飛び道具的な設定押し映画かと思っていたのが、真性娯楽作として万感のフィナーレを迎える。図らずも感染を拡大させてしまった家族の運命は? ゾンビたちを止める手立てはあるのか? ネタバレを避けるため詳細は控えるが、見事なストーリーラインと計算されたテンポやトーンのおかげで、最後の最後まで観る者を飽きさせない。それでいて、残酷な描写がほぼ一切ない点も驚異的。ゾンビ映画が苦手だ、という層にもリーチできる「見やすさ」は、本作の大きな魅力だ。

『感染家族』配給:ファインフィルムズ © 2019 Megabox JoongAng Plus M & Cinezoo, Oscar 10studio, all rights—
『感染家族』配給:ファインフィルムズ © 2019 Megabox JoongAng Plus M & Cinezoo, Oscar 10studio, all rights—

『新感染』との意外なリンクが笑える

ちなみに、本作で監督デビューを飾ったイ・ミンジェは、構想10年を経て本作を完成させたそう。つまり、『新感染』の公開前から企画が進行していたのだ。だが、対抗意識をメラメラと燃やすなんてことはない。むしろ、『新感染』の弟分として、同作の存在をきっちり組み込んでいる。

『新感染』はゾンビ映画の文化がなかった韓国において歴史を刻んだが、本作の舞台である僻地の田舎ではまだまだ「ゾンビ? はて……」状態。本作と同じように田舎町にゾンビがあふれる『アナと世界の終わり』(17年、イギリス映画)はゾンビ文化の発達したヨーロッパが舞台のため、前提として登場人物たちに知識があり、順応も早い。しかし韓国の田舎には、まだゾンビ知識が浸透しきっていない。登場人物たちはゾンビへの対抗手段を持たず、そもそもゾンビのことを知らず、パニックに陥ってしまう。この妙にリアルな知識不足は、『新感染』にも通じるところ。

『感染家族』配給:ファインフィルムズ © 2019 Megabox JoongAng Plus M & Cinezoo, Oscar 10studio, all rights—

だが、本作は『新感染』後の時代設定。ということで村民たちのお助けアイテムとなるのが、なんと『新感染』なのだ。どのシーンで登場するかは観てのお楽しみということで言及しないが、同作を観たことのある方なら、間違いなく爆笑するだろう。本作の『新感染』の使い方に、ピュアな敬愛と「なるほどね!」という快哉を叫ばずにはいられない。

このニヤニヤしてしまう多幸感は、近年のゾンビ映画の傑作『ゾンビランド』(09年)にも通じる。こちらでは本人役として登場したビル・マーレイと一緒に『ゴーストバスターズ』(84年)ごっこをするという何とも楽しいお遊びが描かれるが、本作とテンションが非常に近い。名だたるゾンビ映画の名シーンを模倣するだけでなく、空気感もきっちり吸収して作品に活かしていく方向性は、本作に『新感染』とは一味違った爽快感をもたらしている。

斬新なアイデアが光る快作でありながら、過去の名作ゾンビ映画や『新感染』の引用までやってのける。『新感染』が異端のゾンビ映画ならば、本作は王道のゾンビ映画。『新感染』が韓国映画界に切り開いた「道」をまっすぐに歩く、後継者にふさわしい一作だ。

『感染家族』配給:ファインフィルムズ © 2019 Megabox JoongAng Plus M & Cinezoo, Oscar 10studio, all rights—

名作たちの引用ににじむゾンビ映画愛

ここから先は、マニア向けのサービス。前述したとおり、本作には、ゾンビ映画への愛がまだまだ大量にあふれている。

ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(78年)はもちろん、『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)、先ほど挙げた『ゾンビランド』(09年)、『ウォーム・ボディーズ』(13年)といった新しめの作品もきっちりとカバー。特に青年ゾンビと人間の女性の恋を描いた『ウォーム・ボディーズ』に関しては、まんま同じシーンが出てくる(トレードマークの赤いパーカーまで登場!)。この辺りも隠すことなく堂々とやっており、製作陣が本当にゾンビ映画が好きなのだと微笑ましく受け止められる。

そもそもゾンビ映画というのは、「引用」が大きな特徴だ。『桐島、部活やめるってよ』(12年)でもロメロ監督への愛が叫ばれたように、先人たちへのオマージュこそがゾンビ映画の華。ジム・ジャームッシュ監督も、ゾンビ映画に挑戦した『The Dead Don’t Die(原題)』(19年)でロメロ監督の作品や『ドーン・オブ・ザ・デッド』(04年)へのオマージュを入れ込んでいる。「好き!」を前面に押し出すことこそ、ゾンビ映画の正しい在り方といえる。そういった観点からみて、本作は実に正しい正道のゾンビ映画だ。それを行えるのは、ゾンビ映画を根付かせた『新感染』があってこそだろう。

SYO:映画ライター 公式サイト Twitter

  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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