ダンスってこんなに自由だ! 吃音の男子高校生が挑む「自己表現」

作者・珈琲さんインタビュー&『ワンダンス』1~2話を公開

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2012年に全国の中学校で必修化されたダンス。年々ダンス人口は増加しており、8月15・16日に行われた、高校ダンス部の「甲子園」ともいえる「日本高校ダンス部選手権 DANCE STADIUM」には、過去最多の495校がエントリーした。

盛り上がっているのは日本だけでない。2024年パリオリンピックの正式種目にブレイクダンスが暫定ながら承認されたこともあり、今後世界規模で、ダンスシーンはますます熱を帯びていくだろう。

そんななか注目を集めている漫画が、高校ダンス部を舞台とした『ワンダンス』だ。本作は2019年1月から雑誌「アフタヌーン」で連載がスタートし、8月22日に受賞作が発表される「次にくるマンガ大賞2019」にもノミネートされている。

『ワンダンス』1~2話を今すぐ読む

『ワンダンス』1巻書影/作者・珈琲(こーひー)

『ワンダンス』の主人公は、吃音(きつおん)でアガリ症の男子高校生・小谷花木(こたに かぼく)。通称・カボくん。中学校時代の体育の授業でダンスに苦手意識を持ってしまった彼が、同級生・湾田光莉(わんだ ひかり)が踊る姿に魅了され、ダンス部に入り踊ることの楽しさに目覚めていくというストーリーだ。

しかし、連載開始前の段階では、「吃音の男子高校生がダンスに挑む」という話ではなかったのだという。作者の珈琲(こーひー)さんは語る。

「元々は、湾田さんがダンサーとして活躍していくダンス漫画として作っていました。それが、当時の担当編集さんと話しているうち、『吃音症でダンス経験者』という僕自身の経験を活かす方向にしようと思い、カボくんを主人公にしたんです。

正直、自分の吃音のことはこの先誰にも言うつもりはなかったし、だから漫画家になったみたいなところはあったので、作中に吃音を出すというのは迷いがありました。けれど、どうせ描くなら、他の誰にも描けないものが良いと思ったんです」

中学時代からの友人も多く、周りに人の絶えないカボくん。自己主張を余りしないが、それは「目立たず、逆らわず、普通にしなきゃ、なにもいいことなんてない」という想いからだ/『ワンダンス』第1話より Ⓒ珈琲/講談社

吃音は、話し言葉が滑らかに出てこない発話障害のひとつである。人によって様々だが、同じ音をくりかえす(連発)、引き伸ばす(伸発)、言葉を出せずに間が空いてしまう(難発)、という3つが特徴的な症状だ。

「カボくんの吃音の症状は、アガリ症や、神経過敏の感じも含んだニュアンスになっています。僕の場合は少し違い、緊張とは関係なく出てしまうんです。吃音の出かたは千差万別なので、カボくんの症状にすごく共感する人もいるかもしれません」

と説明する珈琲さん。ダンスを始めたきっかけはなんだったのだろう?

「小学生の頃、友達の影響でDA PUMPが好きになって、それがダンスに興味を持ったきっかけでした。地元はかなり田舎で、周りにダンスをやっている人もいなかったので、最初はインターネット上の動画を見ながら独学でダンスを始めたんです。

その後は地元で一つだけあったダンススクールに通ったり、高校に入ってからはダンサーの集まりに参加しながら、バトルやコンテストにも挑戦して……結構いい結果が残せたんですけど、次第に漫画への興味が大きくなっていって、現在の道に進みました」

実際に体を動かしてみたくなってくる、作中でのダンスシーン。モノクロの画面なのに、まるで色や光がついているように鮮やかに感じられる/『ワンダンス』第1話より Ⓒ珈琲/講談社

そんな「踊れて、漫画も描ける」珈琲さんが『ワンダンス』で目指すところは、読者に「これなら自分にも出来そう」と思ってもらうことだという。

「とにかくダンスの敷居を下げたい、苦手意識を持たないでほしい、という気持ちがあるので、ダンス初心者が必ず抱くような疑問については、作中でちゃんと回答を示したいと考えています。

音が出ない媒体でダンスを描く、というのはかなり意味不明ではあるんですけど、『まるで自分が踊っているような疑似体験』ができるのが漫画の良さだと思っています。読者にそう感じてもらえるよう、踊っている人間の内面に入り込むような表現をどんどん試しています。『ダンスのことはよく解らないけど、面白い』と思ってもらえれば嬉しいです」

ダンスシーンはなるべく擬音を使わず、光の玉や、壁のパース線などで表現しているという。これは「人によって音の聞こえ方は違うと思うので、そのイメージを狭めたくない」という理由からだ/『ワンダンス』第6話より Ⓒ珈琲/講談社

リアルなダンスシーンを描くため、曲を聴きながら実際に動いてみたり、ダンサーの動画を見て「いいな」と思った動きを局所的に取り入れてもいるという珈琲さん。また、キャラクターたちにはそれぞれ、イメージしているダンサーがいるのだとか。

「キャラクターのダンスシーンでは、湾田さんは菅原小春さん、部長の恩ちゃんはAmiさんやapple yangさん、カボくんはakihic☆彡さん、S**t KingzのNOPPOさん、Les Twins、伊折先輩は知人のハウスダンサーをイメージして描いてます。練習シーンやダンス観を語る上では、取材させてもらったYUSUKEさんやBEZIさんを参考にしています」

上述のダンサーたちの動画は、YouTubeで検索すれば簡単に閲覧できるだろう。また、作中のダンスシーンでは、エド・シーランやブルーノ・マーズなどの楽曲も登場するので、実際にその曲を聴きながら読んでみるというのも、より楽しめるかもしれない。

ブルーノ・マーズのヒット曲にあわせ、基礎練習に励むダンス部員たち。作中に登場する楽曲については、「実際に踊れる曲」を選ぶようにしているという/『ワンダンス』第1話より Ⓒ珈琲/講談社

『ワンダンス』1話では、吃音のミュージシャンとして有名なスキャットマン・ジョンのPVを、カボくんがYouTubeで眺めるという印象的なシーンがある。彼をリスペクトしているという珈琲さんは、最後にこんなエピソードを語ってくれた。

「スキャットマンは55歳くらいの時、『私がどこへ行っても、いつでも、大きな象が私の後ろからついてきます。他人からは見えている、この大きな象が吃音ですが、そんな大きなものをひたすら隠そうと躍起になっていたなんて、おかしいですよね』というメッセージを発しています。これは本当にその通りだと思って、吃音は隠しようがなく、エンタメに昇華するしか方法が無いんだなと。

彼が50歳を超えて辿り着いたその境地に、16歳のカボくんが到達したら、より将来が開けるんじゃないかと思うんです。自分の学生時代にこういう漫画があったら、救われていたかもしれないな、とも。もし今吃音で死ぬほど悩んでいる子がいたら、この作品が何かの救いになれば嬉しいです」

作者の経験と、想いが込められている『ワンダンス』。「思っていることがうまく伝えられない」というもどかしさや歯がゆさを感じたことのある人ならば、自由に踊るキャラクターたちの姿に、きっと胸が熱くなるはずだ。

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『ワンダンス』web連載ページ(マガポケ)

『ワンダンス』1~2話 公開中

  • 取材・文大門磨央

    石川県出身。雑誌やWEBを中心に漫画、アニメ、映画などのコラムを執筆中

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