巨人、ヤクルトの元国際スカウトが獲得を後悔 大ハズレ助っ人伝
ペタジーニやラミレスを発掘した名物スカウトでも“失敗作”はある。名伯楽が獲得を後悔したダメ外国人選手を紹介しよう。
巨人のゲレーロ、広島のバティスタ、ソフトバンクのデスパイネ……。優勝を争うチームには必ず優秀な外国人選手がいる。ヤクルトや巨人で40年近く助っ人獲得に尽力した中島国章氏(64)は、球界で名を知られた元敏腕国際スカウトだ。中島氏が発掘した外国人は100人以上おり、ペタジーニやラミレス、オマリーなど輝かしい成績を残した一流選手が大半。しかし、そんな名伯楽でも、獲得を後悔した“ハズレ助っ人”がいる。以下は、中島氏の回顧録だ。
「東京にいては被曝する。帰国させろ!」

外国人の良し悪しは、体格やプレーだけでは判断できません。人間性も日本で成功するための重要な条件です。神経質な性格を把握できずに失敗したのが、’11年に巨人へ入団したラスティ・ライアルでした。前年にダイアモンドバックスにいたライアルのプレーを4試合ほど見ましたが、2本塁打に猛打賞2回。日本人投手の変化球にも対応できるだろうと、獲得を決めました。ところが……。
契約のために現地で会談して愕然とします。私が「巨人の主軸として期待している」と話しても仏頂面。口から出るのは不安ばかりです。
「日本には行ったことがない」
「米国人に合う食べ物はあるのか」
活躍する選手は「チームを優勝させてみせる」と前向きに語るもの。正直「これはダメかな」と感じましたが、後の祭りです。予感は的中します。3月に福島第一原発で爆発事故が起きると、ライアルはこう言って騒ぎ始めました。
「東京にいては被曝する。帰国させろ!」
不安定な精神状態は成績にも響きいっこうに調子は上がりません。先輩のアレックス・ラミレスが心配して日本人投手への対処法をアドバイスするのですが、こう言って反発する始末です。
「アイツは自分の打撃法をオレに押しつけている」
ラミレスもサジを投げ5月以降は二軍暮らし。私も気になってジャイアンツ球場(二軍の本拠地)に行きましたが、グラウンドから怒鳴りつけられました。
「(日本につれてきた)オマエなど信用しない。二度と顔を見せるな! 訴えてやる!」
試合終了前に帰ってしまうなど、問題も起こしたライアル。結局、打率.198、本塁打ゼロという散々な成績で日本を去りました。
かつての二冠王が不倫問題で精神ボロボロ

日本で輝かしい実績があるからといって、その選手が他チームで活躍できるとは限りません。’76年から6年間ヤクルトと近鉄に在籍し、両チームをリーグ優勝に導くなど「赤鬼」と恐れられたチャーリー・マニエルは好例です。
‘80年に近鉄で本塁打と打点の二冠を獲得したマニエルを、ヤクルトは再獲得しようとします。私は近鉄の通訳からマニエルがトラブっているという話を聞いていたので、当時の武上四郎監督に思いとどまるよう説得しました。
「愛人がいることがバレ、マニエルは奥さんと相当揉めているとのこと。精神的なダメージが大きい。獲るのは止めたほうがいいと思います」
しかし武上監督は首をタテに振らない。
「身体は問題ないと聞いている。昨年の3分の2、いや半分でも活躍すればいいんだ」
こう言って獲得に踏み切りました。
しかしマニエルは半分どころか、本塁打12、打点36と前年の4分の1ほどの数字しか残せなかった。異国でプレーする外国人にとって、家庭環境の安定は必要十分条件なんです。
阪神が“ダメ外国人”獲得で大方針転換

はたから見ていて「どうしてこんな外国人を獲るんだろう」と、首をかしげたくなる他球団の選手もいます。’09年に阪神に入団したケビン・メンチも、その一人です。
米国で3試合ほど見ましたが、ステップが大き過ぎる。力勝負の米国では有効かもしれませんが、変化球の多い日本人投手には対応できません。私はメジャー関係者から「強打者だぞ」と勧められましたが、「日本には合わない」とすぐに断りました。
すると阪神が、2憶円も払ってメンチを獲得するというのです。案の定、打率.148、本塁打ゼロという体たらく。ファンの期待を裏切り、シーズン途中で帰国しました。
阪神は大いに反省します。翌年からはアトランタ・ブレーブスと業務提携し、外国人を入念に調査。それからはマット・マートンやランディ・メッセンジャーなど、優秀な助っ人を獲得できるようになったんです。
………………
今季も終盤に入ったペナントレース。チームの浮沈を助っ人が握っているのは、今も昔も変わらない。




元国際スカウト:中島国章(なかじま・くにあき)
'52年生まれ。'72年にセント・メリーズ・インターナショナル高等部卒業後、南海へ臨時通訳として入団。'73年にヤクルトへ。ラミレス、ペタジーニなどを獲得に貢献。'05年、巨人へ。'12年に退職。著書に『地球のウラ側にもうひとつの違う野球があった』(日之出出版)、『プロ野球 最強の助っ人論』(講談社)など
写真:時事通信社写真:中島氏提供