「カマテ!カマテ!」 ラグビーW杯の見どころ「ハカ」を徹底解剖 | FRIDAYデジタル

「カマテ!カマテ!」 ラグビーW杯の見どころ「ハカ」を徹底解剖

「私は死ぬ!私は死ぬ!」 戦士たちの胸躍る伝統の舞 

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国際ラグビーの統括機関であるワールドラグビーの世界ランキングにおいて、2009年から1位の座に君臨し続けてきたニュージーランド代表。全身黒のいでたちから“オールブラックス”の愛称で知られる最強軍団が、特別な存在として世界中で人気を博す理由のひとつが、キックオフ前に行う戦いの舞い『ハカ/Haka』だ。

今回は「それを見るためだけにチケット代を払う価値がある」とも言われる『ハカ』について解説する。

▲2015年決勝での「カパ・オ・パンゴ」(出典/RWC2019公式チャンネル)

『ハカ』の全貌はこうなっている!

ハカ/ラグビー初心者応援
ハカ/ラグビー初心者応援

そもそも『ハカ』とはニュージーランドの先住民マオリ族の伝統文化として受け継がれてきた舞いで、戦いに挑む選手たちが士気を高めるための儀式として、試合前にメンバー全員で行うようになった。

隊列の中心に立ってハカを先導するリーダーはマオリの血を引く選手が務めるのが慣例で、元日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチも、かつてテストマッチでハカをリードしたことがある。

ハカ/ラグビー初心者応援
ハカ/ラグビー初心者応援
オールブラックスの中にはタトゥーを入れている選手も多い/ラグビー初心者応援
オールブラックスの中にはタトゥーを入れている選手も多い/ラグビー初心者応援

またマオリ族にとってハカと同じように大切な伝統文化が『タ・モコ』と呼ばれるタトゥーで、自身のアイデンティティを表現する神聖なものとして、マオリ系の選手の多くが様々な場所にタトゥーを入れている。

ハカには力強く体を叩いたり、勇ましく足を踏み鳴らしたり、目をむいて舌を突き出したりと様々な動きがあるが、これらは相手を威嚇するだけでなく、感情や意志を示すものもある。

現代のマオリの生活にもハカは深く根づいており、戦いの前の儀式だけでなく、歓迎や祝福、追悼の意を表す時など、様々な場面で披露される。学校やクラブが独自のハカを持っているケースも多く、子どもたちがハカを舞ったり、結婚式などのセレモニーでハカが行われることもある。

元ニュージーランド代表のジョナ・ロムー氏の葬儀ではチームメイトたちが追悼の意を込めてハカを踊った/ラグビー初心者応援
元ニュージーランド代表のジョナ・ロムー氏の葬儀ではチームメイトたちが追悼の意を込めてハカを踊った/ラグビー初心者応援

オールブラックスのハカは2種類ある

ラグビーの試合前にハカを行うようになったのは、マオリ代表チーム『ニュージーランド・ネイティブズ』が1888年から1889年にかけて敢行した長期遠征が起源とされており、国代表であるオールブラックスも、1905年の英国遠征からハカを取り入れた。

その後長い間、ハカはアウェーゲームの時だけ行っていたが、自国で開催した1987年の第1回ラグビーワールドカップで毎試合行ったことから、それ以降はホーム、アウェーに関わらず毎試合行われるようになった

オールブラックスのハカといえば、なんといってもカマテ、カマテ…で始まる『カ・マテ/Ka Mate』が有名だ。一度聞けば耳に残る印象的なその歌詞には、こんな意味がある。

【カ・マテ/Ka Mate】

Ka mate, ka mate! ka ora! ka ora!
(私は死ぬ!私は死ぬ!私は生きる!私は生きる!)
Ka mate! ka mate! ka ora! ka ora!
(私は死ぬ!私は死ぬ!私は生きる!私は生きる!)
Tenei te tangata puhuruhuru
(見よ、この勇気ある者を)
Nana nei i tiki mai whakawhiti te ra
(ここにいる毛深い男が再び太陽を輝かせる!)
A, upane! ka upane!
(一歩はしごを上へ!さらに一歩上へ!)
A, upane, ka upane,
(そして最後の一歩、そして外へ一歩!)
whiti te ra! Hi!
(太陽の光の中へ!昇れ!)

『カ・マテ』はマオリのナティ・トア族の首長テ・ラウパラハによって1820年に作られたハカで、ニュージーランド・ネイティブズとオールブラックスが最初に舞った当初から、長く代表チームに引き継がれてきた。オールブラックスのハカといえば、ほとんどの人はこれを思い浮かべるだろう。

しかし現在、オールブラックスにはもうひとつのハカ、『カパ・オ・パンゴ/Kapa O Pango』もある。これは、近年のニュージーランドではマオリだけでなくトンガやサモア、フィジーなど多様な民族や文化的背景を持つ選手が増えたことから新しく製作されたハカで、2005年8月の南アフリカ戦において初めて披露された。

その歌詞は、ニュージーランドの大地と国の象徴であるシルバーファーン(シダ科の植物)、オールブラックスを讃える内容となっており、マオリ文化の中で伝統的に受け継がれてきた『カ・マテ』に対し、『カパ・オ・パンゴ』はオールブラックスのために作られたハカといえる。

【カパ・オ・パンゴ/Kapa O Pango】

Kia whakawhenua au i ahau!
(この世に生を受けた時に戻してくれ)
Hi, aue! Hi!
(今がその瞬間だ!)
Ko Aotearoa, e ngunguru nei!
(鳴動する我らの大地よ!)
Hi, au! Au! Aue, ha! Hi!
(今がその時、その瞬間だ)
Ko kapa o pango, e ngunguru nei!
(情熱が燃え上がる! それがオールブラックスである証だ)
Hi, au! Au! Aue, ha! Hi!
(今がその時、その瞬間だ)
I ahaha!
(予感が爆発する!)
Ka tu te ihi-ihi
(力を感じよ)
Ka tu te wanawana
(圧倒的な力がわき上がる)
Ki runga i te rangi, e tu iho nei, tu iho nei, hi!
(高みに立つために我々の力を見せつける)
Ponga ra!
(シルバーファーン!)
Kapa o pango! Aue, hi!
(我々はオールブラックス!)
Ponga ra!
(シルバーファーン!)
Kapa o pango! Aue, hi!
(我々はオールブラックス!)
Ha!

なお、『カパ・オ・パンゴ』は特別な試合の前に行われるものと思われているが、作者であるマオリ文化研究の権威、デレク・ラーデリー氏によれば、『カ・マテ』と差をつけているわけではないとのこと。どちらのハカを選ぶかは、選手が会場を訪れた時の雰囲気で決めるそうだ。

NZ以外にもハカを舞うチームがある

ハカは英語で『ウォークライ』と呼ばれるが、試合前にウォークライを行うチームは、オールブラックスの他にもある。

たとえばマオリ系の選手だけで編成される代表チーム『マオリ・オールブラックス』のハカは、『ティマタンガ』。国代表では南太平洋の国々もウォークライを行い、トンガが『シピタウ』、サモアが『シヴァタウ』、フィジーが『ジンビ』と呼ばれる舞いを踊る。ちなみに日本代表も、1967年に行われたニュージーランド学生代表(NZU)戦の前に、「エイエイオー!」と叫び舞ったことがあるそうだ。

ウォークライを行うチーム同士が対戦する際は、どちらかが先に舞い、続いてもう一方と順番に舞うのが原則。しかし2003年の第5回ラグビーワールドカップオーストラリア大会では、オールブラックスがハカを舞っている最中に、ヒートアップしたトンガがシピタウを始め応戦する――という一幕があった。

またウォークライを行う際、相手チームは自分たちの陣地で向き合うのがルールだが、時には肩を組みながらハーフウェーラインを越えてにじり寄ったり、顔を突き合わせんばかりの距離でにらみ合ったりすることもある。

ハカの時、相手チームは自分たちの陣地で向き合うのがルール/ラグビー初心者応援
ハカの時、相手チームは自分たちの陣地で向き合うのがルール/ラグビー初心者応援

試合前にウォークライを行うチームは少数派であり、国際ラグビー界では「一部のチームだけに特例を認めるのは不公平」という不満の声も、長年にわたりくすぶってきた。

また近年は、かつてオールブラックスで活躍したOBが自らの著書で「すべての試合でハカをやるのは多すぎる。いまやただのショータイムになってしまった」と批判したことも話題となった。一方で観戦者にとっては、ハカを見ることが大きな魅力のひとつであるのは揺るぎない事実。今回のラグビーワールドカップ日本大会でも、『生ハカ』を楽しみにしている人はきっと多いはずだ。

数々の名場面を生み出し、時には物議を醸しながらも、多くのラグビーファンを魅了してきた『ハカ(ウォークライ)』。力強い雄叫びがスタジアムに鳴り響く独特の雰囲気を、ぜひ体感してほしい。

  • 直江光信
  • 写真アフロ

直江 光信

ラグビーマガジン編集長

1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)

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