『ボラプ』監督は天才エルトン・ジョンの素顔をいかに描いたか | FRIDAYデジタル

『ボラプ』監督は天才エルトン・ジョンの素顔をいかに描いたか

『ボヘミアン・ラプソディ』の「陰の功労者」がまたやった! エルトン・ジョンの伝記ミュージカル『ロケットマン』:本編レビュー

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『ロケットマン』8月23日(金)全国ロードショー 配給:東和ピクチャーズ ©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
『ロケットマン』8月23日(金)全国ロードショー 配給:東和ピクチャーズ ©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

日本での興行収入130億円の特大ヒットを飛ばした映画『ボヘミアン・ラプソディ』(18年)。第91回アカデミー賞では主演男優賞、編集賞、録音賞、音響編集賞の最多4冠を獲得し、名実ともに映画史に残る作品になった。その陰の功労者であるデクスター・フレッチャーをご存じだろうか?

実は『ボヘミアン・ラプソディ』は、完成までに気が遠くなるような紆余曲折を経験している。その最たるものが、監督交代劇だ。トラブルが相次いだ結果、撮影終了2週間前にブライアン・シンガー監督がまさかの解雇。代わりに作品を仕上げたのが、元々『ボヘミアン・ラプソディ』の監督候補だったフレッチャーなのだ。しかし、全米監督協会の規則によって、フレッチャーは監督としてはクレジットされず、「製作総指揮」となった。そのため、彼の名前が大衆に知られることはほとんどなかったのである……。

なかなかに不憫なエピソードだが、心配することなかれ。フレッチャー監督は、すぐにある映画でその名を知らしめることになる。世界的歌手エルトン・ジョンの伝記映画『ロケットマン』(19年)だ。米国最大の映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では89%と、『ボヘミアン・ラプソディ』を超える高評価を獲得した逸品(同作は61%)。興行収入ではまだ及ばないものの、批評家からは賞賛が寄せられ、日本でも公開を待ち望む声が多く上がっている。この夏を締めくくる注目作だ。

クイーンの伝記映画を仕上げた男が、エルトン・ジョンの伝記映画を作り上げた――それだけで興味をそそられる方もいるのではないか? 『ロケットマン』は、『ボヘミアン・ラプソディ』の感動を呼び起こす映画でありつつ、ミュージカル要素なども加わった全く新たな作品。エルトン本人が製作を手掛けており、若き日のマネージャーとの複雑な人間関係や知られざる苦悩など、赤裸々につづった内容になっている。

また、幼少期から彼の半生を描く構造になっているため、予備知識のない初心者でもスムーズに物語に入り込むことが可能だ。『ボヘミアン・ラプソディ』を完成させた男の新作で、あのエルトン・ジョンの半生をミュージカル映画化したという話題性はさることながら、映画としての“実力”も十二分に備わっている。

伝記映画としてもミュージカル映画としても一級品

エルトン・ジョンは音楽の祭典グラミー賞に5度も輝き、ディズニーアニメ『ライオン・キング』(94年)の主題歌「愛を感じて」でアカデミー賞歌曲賞も受賞した偉大なミュージシャンだ。代表曲「ユア・ソング(僕の歌は君の歌)」はレディー・ガガをはじめ数多くのミュージシャンにカバーされ、世代を超えた人気曲として親しまれている。しかし、彼の人生は幼少期から平坦なものではなかった。

映画は、英国の郊外から始まる。自分に全く愛情を向けてくれない父母の下で育ち、常に深い孤独を抱えた少年レジナルド・ドワイト。複雑な家庭環境で、彼を慰めるものは音楽しかなかった。聞いたばかりの曲を完璧に耳コピする才能を見せつけて国立音楽院に入学したドワイトは、ロックに出合い、ミュージシャンになることを決意。暗い過去を背負った忌まわしい名前を捨て、「エルトン・ジョン」として歩き始める。それは、栄光と挫折、波乱の旅の幕開けだった――。

『ボヘミアン・ラプソディ』のフレディ(ラミ・マレック)と同じく「愛を求め続けた男」というテーマホモセクシャルである苦悩、栄光と引き換えに壊れていく心、愛する者たちとの決別と和解等々、両者は非常に近しい要素を持った映画といえるが、全く違う部分がある。映画のキモといえる音楽だ。

音楽性が全く違うクイーンとエルトンだから当たり前といえばそうなのだが、注目したいのは音楽の「使い方」にある。『ロケットマン』では、ライブシーンとは別にミュージカルとして音楽が使用される。むしろ、ミュージカル部分がメインといっていい。冒頭から、時には陽気にド派手に、時には切なく物悲しく、ミュージカルシーンが怒涛の勢いで展開する。

アメリカに進出したエルトンが、現地の観客を一瞬で魅了する『クロコダイル・ロック』は演奏中に「浮く」印象的な演出がなされ、表題曲となった『ロケットマン』は巨大ドームを舞台にしたきらびやかなライブパートとして輝きを放つ。『ユア・ソング』では、同曲が生まれた瞬間から世に放たれるまでを自宅→スタジオと曲の中で場面転換させることで伝えるという洒落た表現が観られる。極めつけは、ドラマパート、ミュージカルパート、ミュージックビデオの再現までが組み合わさった『アイム・スティル・スタンディング』だ。スクリーンでこそ映える流麗なカメラワークと力強い歌声に、圧倒されるだろう。

まるで花火のように次々と弾けるエルトンの名曲と、映画的な「遊び」の融合。さらに、彼の代名詞である奇抜な衣装が数十着も登場し、目まぐるしく画面を彩る。そこに、上に挙げたようなエモーショナルなドラマが加わり、オーディエンスの心を強く、深く揺さぶることになる。「君が前に出るときだ」「孤独な人生を選んだと自覚して」「自分が何者か忘れるな」といったような力強いセリフも存在感を放ち、伝記映画としてもミュージカル映画としても見事な出来に仕上がっている。

エルトン本人のお墨付き――吹き替えなしで俳優が熱唱!

そして、この人の存在を忘れてはならない。『キングスマン』(14年)で彗星のように現れ、本作ではエルトン・ジョン本人かと見まごう驚異の役作りで観客の度肝を抜いた英国男優タロン・エガートンだ。

実は、タロンとエルトンには不思議な縁がある。タロンが声優を務めたアニメ映画『SING/シング』(16年)で前出の『アイム・スティル・スタンディング』を熱唱するシーンがあり、タロンの主演映画『キングスマン: ゴールデン・サークル』(17年)ではエルトンが本人役で登場して夢の共演を果たしているのだ。キャリアの中で3度もエルトンにゆかりある作品に出演したタロンは、エルトンのコンサートに飛び入り参加するなどスクリーン外でも活躍。ハマり役としてエルトン本人はもちろん、ファンからも受け入れられている。

そして、もうお気づきと思うが、『ロケットマン』ではタロン本人が全編吹き替えなしで歌唱している。エルトンたっての要望ともいわれており、両者の信頼の強さをうかがわせるエピソードでもあるだろう。

『ボヘミアン・ラプソディ』しかり、伝記映画等では歌い手本人の音声を使用することもしばしばだが、本作ではあえて役者にすべてを託すアプローチを選択。演じ手と歌が地続きになった結果、感情と感動がより強まり、画面に豊かな生命力を与えている。これはミュージカル映画では王道の手段であり、ディズニー作品の『美女と野獣』(17年)や『アラジン』(19年)、日本でも大ヒットを飛ばした『グレイテスト・ショーマン』(17)など、役者が歌ってなんぼの作品と同じだ。この部分からも、本作がミュージカル映画としてのスタンダードを強く意識したことが分かる。

エルトン・ジョンの人生を描いた作品であることは、あくまで出発点。この作品が行きつく先は、涙も興奮も喜びも――全てが楽しめる究極のエンターテインメントだ。映画以上に劇的なストーリーを、極上の歌と演技、映像で楽しんでいただきたい。

『ロケットマン』©2018 Paramount Pictures. All rights reserved.
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SYO:映画ライター 公式サイト Twitter
  • SYO

    映画ライター。1987年福井県生。東京学芸大学にて映像・演劇表現について学ぶ。大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画情報サイトでの勤務を経て、映画ライターに。現在まで、インタビュー、レビュー記事、ニュース記事、コラム、イベントレポート、推薦コメント、トークイベント登壇等幅広く手がける。

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