甲子園初V 履正社・岡田監督「ベンチ入りメンバーは選手が決定」
エース奥川を擁する星稜を破り初優勝を飾った履正社。センバツの雪辱をバネに各打者が激変させた打撃スタイルが勝因だった。
「やっと借りが返せます」
8月22日に行われた夏の甲子園決勝で、星稜(石川)を破り初優勝を決めた履正社(大阪)。前日、同校の4番・井上広大は報道陣にこう語っていた。
「借り」があったのは、星稜のエース奥川恭伸だ。今春のセンバツで、履正社は150km台の剛速球を連発する奥川に17三振。手も足も出ない完封負けを喫した。
「よほど悔しかったのでしょう。この完敗を機に、履正社の各打者は奥川を意識した打撃スタイルに変えました。井上は従来じっくりとボールを見て打つタイプでした。しかし『奥川が調子に乗られてからでは遅い。初球から振っていこう』と考え、ファーストストライクから打つようになった。1番打者の桃谷惟吹(いぶき)も春までは足を大きく上げてタイミングをとっていましたが、『これでは奥川は打てない』とノーステップ打法に変えています」(スポーツ紙記者)
今大会に臨んでからのトレーニングも奥川シフト。打撃練習では奥川の剛速球を意識し、通常より5mも前からバッティング投手に投げさせたのだ。
「決勝戦前日の夜には、夕食後、岡田龍生監督が部員全員を食堂に呼びました。壁に掛けられたのは巨大スクリーン。そこに映し出されたのは、実物より大きい奥川の投球動画です。岡田監督は部員に動画に合わせ45分間バットを振らせました。奥川に感じている脅威を減らそうとしたんです」(同前)
岡田監督は『FRIDAY』のインタビューでこう語っている。
「ウチは野球の特待生をとらないので、他の強豪校とは選手層が違う。野球部の寮もないし、帰りのバスの関係で練習時間は一日4時間しかとれません。制約がある中で、どうしたら強いチームが作れるか。考えついた結論は、相手を具体的に想定し、個々の選手に自分で考え練習を工夫させるということでした」
ベンチ入りメンバーもトップダウンで決めない。選手同士で決定しているのだ。岡田監督の言葉だ。
「部員は1学年最大でも25人ですが、全員に紙を配り自分が監督になったつもりで(ベンチ入り)18人の名前を書いてもらいます。なんぼ野球がうまくても、人間性がデキていないヤツの名前は書かなくていいと話している。最近の子は正直なのか、他人の評価はシビアですね。結果は私が考えていたメンバーとほぼ一致します」
選手一人ひとりの自主性に任せ、練習も工夫させる――。センバツでは奥川から3安打しか打てなかった履正社打線は、夏に11安打をはなち栄冠を掴んだ。
- 写真:時事通信社