開幕まであと1ヵ月 生き残りは最終段階 日本代表網走合宿ルポ

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パシフィックネーションズカップを3戦全勝で終えた日本代表。W杯に向け最終調整中だ

4年に1度開催されるラグビーワールドカップの日本大会が、約1か月後の9月20日に開幕する。初の決勝トーナメント進出を至上命題とする日本代表は、準備の総仕上げに取り掛かっている。

4大会連続出場を目指すロックのトンプソン ルークは、関西弁で意気込む。

「毎日、アピール。メンバー(入りできるか)はまだまだわからんから」

2016年秋に就任したジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、家族的な組織を作るよう心を砕いてきたようだ。手腕に定評のあるコーチも、場合によっては船から降ろし、特に攻撃の指導に関しては、母国ニュージーランドでも一緒に働いたトニー・ブラウンアタックコーチにほぼ一任している。日本ラグビー協会が代表首脳陣を支えるために置いた強化委員会でも、いつしか薫田真広強化委員長が姿を見せなくなった。そして、よりジョセフと親交の深い藤井雄一郎が、8月22日付で強化副委員長から強化委員長に昇格した。

選手のリーダー陣は頻繁にミーティングをおこない、国際試合への準備やチームワークの構築について討議してきた。今年は、代表候補群として2月に多くのメンバーで動き出し、幾多のセレクションを経て7月下旬から8月上旬までのパシフィック・ネーションズカップ(PNC)でフィジー代表、トンガ代表、アメリカ代表に連勝した。

そして8月18日、大会登録メンバー決定前最後のキャンプを、北海道網走市でスタートさせた。翌日から本格始動して28日まで汗を流し、29日には選手を41名から31名に絞る。

合言葉は「ラストプッシュ」。宿泊先にはビニールハウスのような低酸素ルームができ、その日ごとにピックアップされた選手は室内のエアロバイクを漕ぐ。心肺機能を高めるのが目的だ。

2011年のニュージーランド大会前にも似た装置を用いたが、当時を知るフランカーのリーチ マイケル主将は「いまはこれ(低酸素ルーム)をあくまでトップアップ(継ぎ足し)にしていて、グラウンドでいっぱい走ることがメイン。2011年はこれが反対だった」とする。

網走合宿に訪れたファンに対応するリーチ主将

1日に1~2回あるグラウンド練習では、息つく暇のない実戦形式セッションがメインディッシュとなる。リーチと同じフランカーの徳永祥尭が、その様子を具体的に振り返る。

「ジェイミーやブラウニー(ブラウンアタックコーチ)から、大枠のところはできていると言ってもらえています。ここからはプレッシャー下で質の高いプレーをするのが大事です。(練習では)それができている時もありますし、終盤になるにつれてコミュニケーションが減って簡単に(防御が)抜かれてしまう場合もあります。そこについては、メディアの方が外から見て思われることと、自分たちが思うことは同じだと感じます」

課題克服もなされる。PNCでは、孤立した走者の持つボールが相手に絡まれターンオーバー(攻守逆転)を許したり、ノット・リリース・ザ・ボール(寝たまま球を手放さない反則)を取られたりした。

日本代表は、選手をグラウンドにまんべんなく散らせてハイテンポでボールを動かしたい。しかしPNCの時のように人と人とが交わる接点で球出しを遅らせては、望み通りの試合展開に持ち込みづらい。19日の練習では、その領域に特化したメニューがあったようだ。

接点では、ランナーが球を持ち込んでタックラーとぶつかる「ボールキャリー」とサポート役が相手の邪魔を引きはがす「クリーンアウト」の動きが発生する。これからの日本代表は「ボールキャリーのディテール(細部)」を見直すのだと、徳永は言う。

「PNCでターンオーバーが起きた場面では、基本的にボールキャリーが横(ゴールラインとほぼ平行)に倒れてしまい、相手がボールに近づきやすくなっている。これからは1回、ボールを地面につけて寝るようにして、ワンモーション(味方側へボールを見せる動き)を入れる。そうして相手に的を絞られにくくします」

本番への懸念材料には他に、レフリングへの対応がある。

イングランド大会時は、離日前のキャンプへ予選プール初戦の笛を吹くジェローム・ガルゼス氏を招聘した。芝の上での質疑応答で判定基準を聞き取り、宿でもてなした。結果的に南アフリカ代表とのファーストゲームなど3試合を制し、予選プールに参加した20チーム中最小の反則数を記録。リーチは「(勝った試合では)レフリーといいコミュニケーションが取れた」と締めた。

日本大会に向けては、キャンプ2日目の午後から大会審判団の1人である久保修平氏を招いた。熟練者でも判定が難しいというスクラムについて、低空姿勢の組み方を微修正しながら反則のリスクを減らすつもりだ。

「PNCの3戦を通して、スクラムが(崩れ)落ちた時に『おまえら(日本)が低いからやろう?』と、いいスクラムが組めているのに不本意なペナルティーを取られたことがあった。そこの、アジャストです。高くと言っても本当にちょっとだけなので、そこまで…(違和感はない)です」

スクラムの最前列に入る右プロップの山下裕史がこう説くなか、リーチも頷く。

「レフリーはどうしても僕らを(厳しく)見てしまう。その印象をどうやって変えていくかが大事になってきます。そのためにはどんなコミュニケーションを取るべきか、時間を見つけて久保さんから学びたいです」

ウイング、フルバックの松島は、機敏なステップと突破力が武器だ

網走合宿序盤の時点では、前回のように本番で吹くレフリーを招く準備はしていない。ただしウイングやフルバックを務める松島幸太朗は、大きく構える。取材者に「なかには対応が難しいレフリーもいるのでは」といった旨で聞かれた際、淡々と述べた。

「そこでフラストレーションをためないで、自分たちにフォーカスを当てることから始めたいです」

実戦練習で編成される主力組は、日ごとの選手の入れ替わりを最小化している様子だ。本番では予選プールAに入り、ロシア代表、アイルランド代表、サモア代表、スコットランド代表と順にぶつかる。陣営は全試合を重視するというが、現実的には欧州6強の一角で格上のアイルランド代表、スコットランド代表とのゲームが決勝トーナメント行きを左右する。

ジョセフら首脳陣は今回、コーチとして初めてワールドカップを経験する。38歳のトンプソンは、ファンへのメッセージという観点からこう示唆した。

「ワールドカップは特別なイベント。観客のテンション、試合の感じが普段のテストマッチと違うね」

極東の「家族」は、自ら信じる道をただ突き進む。結末やいかに。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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