世界が注目!日本発の素朴なアート「消しゴムはんこ」の魅力

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今、消しゴムはんこが盛り上がりを見せている。

消しゴムハンコといえば、テレビ番組「プレバト!!」(TBS系)に講師として出演している田口奈津子氏と彼女の作品を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。 

多色を使った立体的な作品の数々は、色の重なり、奥行きなど、消しゴムという素材の可能性を見事に広めた第一人者で、これまでに作品集など17冊、共著を含めると50近くの書籍を出している、おそらく現在の日本でもっとも活躍している消しゴムはんこ作家だろう。

 

田口氏の作品。複数のはんこと色を組み合わせた、奥行きと立体感のある作品が特徴(写真:本人提供)

そんな田口氏の作品や番組で手ほどきをうける芸能人の姿に触発され、消しゴムはんこ作りを始めたり、ワークショップに通う人もどんどん増えているという。

なんといっても、消しゴムはんこは思い立ったらすぐに始められる手軽さがある。厳しい徒弟制度も、専門学校、学科に通う必要もなく、道具もコンビニや文具店、なんならスーパーでも、徒歩圏内ですべて揃えられる。実は田口氏も、気軽に消しゴムはんこを始めたひとりだ。

「勤めていた会社に、消しゴムはんこを彫った事のある方がいて作品を見せていただいたのがきっかけです。小さなイラストは、そのままでもかわいいのですがそれがさらに“はんこ”という立体になっているところにとても惹かれてしまい、家に急いで帰って彫ったのを覚えています」(田口奈津子氏 以下同)

繊細な線で細かい模様まで表現(写真:本人提供)

作品を見て、興味を持ち、その日のうちに始められてしまう、それが消しゴムはんこ人気の大きな要因のひとつだろう。そしてシンプルがゆえ、奥が深いという、のめり込み要素もある。田口氏もそんな〝沼″にはまり込んだ。それはこんな流れ。

「筆箱に入っていた消しゴムに、マジックで直接絵を描いて、事務用のカッターで彫ったのですが、とても難しく、とても面白く、もっと彫りたいと思いました」

「そこから、もっと精密な絵を転写するにはどうしたらいいか、下絵からずれないように彫るためにはどうしたらいいかもっと大きな作品は作れないか試行錯誤を重ねました」

「現在は複数の消しゴムはんこを組み合わせて、4面障子のような大きな作品も製作しています」

筆箱に入っていた消しゴムが、4面障子大の作品まで昇華する。作る側にそこまでのめり込ませる魅力が消しゴムはんこにはあるようだ。

4面障子大の作品(写真:本人提供)

趣味の域を超えて、芸術として評価され始めた消しゴムはんこ。海外からのオファーも

そんな田口氏は“版画”の作品展「版院展」へも出品。新人賞、外部審査委員大矢鞆音賞、院友推薦のダブル受賞するなど、消しゴムはんこをさらなる高みへと導いている。ちなみに、賞名になっている大矢鞆音氏は1938年生まれの日本の版画評論の第一人者である。そんな大矢氏の賞を受賞するのは、消しゴムはんこが芸術分野でも評価されているという証左なのである。

「中国語や韓国語に翻訳していただいた本もあり、アジアへの広がりを感じております。香港などで個展をさせていただいた際にも多くの消しゴムはんこファンのみなさまと交流でき、とても有意義に過ごさせていただきました。近年はアジアだけでなく、フランスやドバイ、アメリカなどからもオファーをいただています。将来は、世界に消しゴムはんこが広がっていって欲しいと思っております」 

こうして〝今″の消しゴムはんこ作家、田口奈津子氏は世界を切り開いてゆく。消しゴムはんこが日本発のカルチャーとして、いよいよ世界に羽ばたきそうな予感だ。

ちなみに田口氏は現在、新刊を製作中で年内に刊行予定。2020年1月7日(火)~2月2日(日)に東京・高円寺の「座・高円寺」で個展が予定されている。

田口氏が手掛けた病院の壁面デザイン。このほか、企業のプロモーションCMの制作や、広告や文具、季節のレターセットなどのデザインなど幅広い分野で、消しゴムはんこの魅力を発信中(写真:本人提供)

消しゴムはんこといえば「ナンシー関」

さて、田口氏が〝今″を代表する消しゴムはんこ作家であるが、一定の世代より上の人たちにとっての消しゴムはんこ作家といえば、間違いなく2002年に急逝したナンシー関であろう。愛と毒にあふれたテレビ批評に添えられた芸能人たちの消しゴムはんこの似顔絵は、誰もが見たことがあるはず。

ナンシー関の作風は、芸能人の似顔絵とその横にその人“らしい”一言を添えた消しゴム版画がよく知られている。

彼女は1962年、青森県生まれで17歳のときにはじめて消しゴムはんこを彫る。地元の高校を卒業後、上京し浪人生活へ。20歳で法政大学第二文学部日本文学科に入学し、同年に広告批評主催のコピーライター養成講座「広告学校」に入学。法政大学を中退し、23歳のときに友人の縁でえのきどいちろう氏、いとうせいこう氏と出会い、ライター事務所「シュワッチ」へ在籍。雑誌「ホットドッグ・プレス」で消しゴムはんこを使った連載を始め、このときに“ナンシー関”としてデビューした。

24歳で「ホットドッグ・プレス」にて、「対岸に火をつけろ」でコラムニストとしてデビュー。その後は、「スタジオ・ボイス」、「週刊プレイボーイ」、「月刊カドカワ」、「週刊SPA!」、「週刊文春」、「週刊朝日」といったメジャー雑誌で連載。10本以上の連載を掛け持ちする売れっ子コラムニストとして活躍した。しかし、絶頂期ともいえる2002年に友人たちとの会食の帰り道で突如として体調を崩し、搬送された病院でそのまま帰らぬ人に。39歳だった。

主にテレビ批評のジャンルでコラムを執筆し、タレントのちょっとした機微に対する的確なツッコミ、テレビ番組に感じるもやもやした感情を明文化し、鋭く、コミカルに批評する文体は一般の読者のみならず、批判される側の芸能人たち、番組を製作するテレビ局スタッフにもファンがいたほど。

ナンシー関が39年の生涯に掘った「はんこ」を(ほぼ)全収録した保存版。『ナンシー関全ハンコ5147』(アスペクト)

さらにそこに添えられる消しゴムはんこのタレントの似顔絵と添えられた一言は、そのタレントのパブリックイメージではなく、ほんの一瞬だけ見せる“素”の表情を切り取ったものが多い。テレビ批評と同じく、ナンシー関は特殊な観察眼と絶対的な評価基準を持ってテレビ番組を批評し、誰もが納得するロジックを駆使しつつ読みやすい文体を用いてコラムの執筆に当たっていた。

その内容は、彼女の死後20年近く経っても古いという印象を与えず(取り上げられているタレントはもちろん古くなっていくが)、『何をいまさら』シリーズ(角川文庫)、『テレビ消灯時間』シリーズ(文春文庫)、『小耳にはさもう』シリーズ(朝日文庫)といった連載をまとめた書籍をいま改めて読んでみても、その視点の鋭さと、思わず吹き出してしまう文章に惹かれるばかりだ。

ナンシー関への憧れと畏れから生まれた多色はんこ

そんな稀代のコラムニストで消しゴムはんこの第一人者であったナンシー関の作品に触れて消しゴムはんこ作家となったのが、とみこはん氏だ。

彼女は会社員を経て、2010年から消しゴム版画イラストレーターとして活動開始。吉本ばなな「『違うこと』をしないこと」(KADOKAWA)、「おいしい記憶」(中央公論新社)といった書籍の表紙・本文イラストのほか、「東京人」、「オレンジページ」、「大人のおしゃれ手帖」、「週刊大衆」といった多くの媒体で活躍中で、この秋にオランダでワークショップを開催するなど、精力的に活動している。

とみこはん自画像(本人提供)

とみこはん氏は大学生のとき、会社の先輩の作品を見てすぐに作り始めた田口氏と同様に、ナンシー関の個展を見た帰り道、消しゴムを買ってその日に彫り始めたという。

「ナンシー関さんの個展を見たことがきっかけで、帰りに消しゴムを買い、その日に消しゴムを彫り始めました。しかし、初めて彫ったはんこはボロボロで、昼間見たナンシーさんの展示をひたすら思い出す夜となりました」(とみこはん氏 以下同)

ナンシー関に憧れていたとみこはん氏ではあるが、彼女の作風は柔らかいタッチとほのかな色合いが特徴的で、ナンシー関の作風とは大きく異なる。

ナンシーさんのイメージは、やはり黒です。全てを一旦自分の世界に取り込む黒。ナンシーさんの眼と手によって取捨選択された人物の情報が、はんこの線になって表れていて、パキッと黒一色で押された流麗な線は、人物のシワの一本にもその人らしさが出ているように思います。そのせいもあってか、私は黒という色を特別に思っていて、黒いインクを使う時は、ナンシーさんへの憧れと畏れが同居します。私の作風にカラー作品が多いのは、黒を回避した結果かもしれません。ナンシーさんのはんこが好きだからこそ、自分なりの形を探しました」

とみこはん氏の作品。淡い色彩とタッチ、食べ物モチーフが多いのも特徴(本人提供)

そんなとみこはん氏も、最近の消しゴムはんこの盛り上がりをひしひしと感じている。

「惜しくも2019年3月で番組が終了してしまった「ゴロウ・デラックス」(TBS系)内での山田親太朗さんの消しゴムはんこや、放送中の「プレバト!!」の影響もあり、展示会やイベント等でも『テレビで見て気になっていた』など、声をかけていただくことが多くなりました。『テレビで自分の好きなタレントさんが消しゴムはんこを彫っていた』というきっかけから『自分もできるかな?』と消しゴムはんこに興味を持っていただけるのはありがたいことです。いろいろな作風の作家がいますので、見る楽しみもありますし、自分で彫る楽しみもあります。 

私は“消しゴムはんこに失敗なし”というのも魅力のひとつだと思っています。その人にしか彫れない“いい味を出している”はんこに心が惹かれます。自分で彫ったはんこを押したときの『おお、できた!』という感覚を味わってもらえたらうれしいです」 

8月24日から東京・浅草で開催されている個展では、ワークショップも開催中だ。消しゴムはんこに興味を持った人はぜひ。

■とみこはん消しゴム版画展「taste」 会場:CEDOKzakkastore<チェドックザッカストア浅草>日時:2019年8月24日(土)~9月8日(日)12時~19時 ※期間中、月曜は定休日

  • 取材・文高橋ダイスケ

Photo Gallary13

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