「南ア戦奇跡の勝利を演出」沢木敬介が語るジャパン注目のメンバー | FRIDAYデジタル

「南ア戦奇跡の勝利を演出」沢木敬介が語るジャパン注目のメンバー

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9月20日に開幕するラグビーワールドカップ。いよいよ8月29日には代表メンバーが発表される。そんな中、スポーツライターの向風見也氏が、元日本代表スタッフでサントリー前監督の沢木敬介氏にワールドカップの展望を聞いた。

75年秋田県生まれ。秋田経法大附属高から日大に進み、その後サントリーへ。現役時代のポジションはSO。代表キャップは7
75年秋田県生まれ。秋田経法大附属高から日大に進み、その後サントリーへ。現役時代のポジションはSO。代表キャップは7

沢木氏は2015年までジョーンズ体制下でコーチングコーディネーターを務めた。歴史的勝利を挙げたW杯イングランド大会の南アフリカ代表戦では、みずから発案したサインプレーをトライに直結させる。帰国後の2016年からは古巣のサントリーで監督を務め、ファンにはクールな顔つきと選手への大声での叱咤激励で知られている。

――日本代表の注目選手について伺いたいのですが。大会中のキーマンになりそうなのは。

「選手では間違いなくリーチ マイケルじゃないですか。パフォーマンスがいいのはもちろん、ワールドカップで勝った経験のあるキャプテンですから。レフリーへの対応も含め、どうしたら勝てるかをわかっているキャプテン。しっかりと怪我を治し、万全のコンディションでワールドカップに臨めるようにできればいいですね。

あとは誰が出るかが未知数ですが、僕は、ヘル ウヴェが活躍すると思うんです」

――ヘル ウヴェ選手はパワフルさが自慢のロック。80分フルで戦えるのかも注目されます。

「ただワールドカップでは、ペナルティキックをもらってからクイックで行く(速攻を仕掛ける)ことはあまりない。確実にショットを狙うことが多い。いまのジャパンはきついトレーニングをやっているからフィットネスは大丈夫じゃないですか。ただ大事なのは――これはウヴェに限りませんが――きつくなってきた時にディシプリン(規律)を守れるかどうかです。簡単にペナルティを犯すと相手に主導権を渡す。逆に、きつい時間帯に我慢強く戦うと自分たちのペースを掴める」

――身体をぶつけ合うフォワードの位置では、他に誰が鍵を握りそうですか。

「(堀江)翔太ですね。ゲームに対して柔軟に対応できる」

――バックスでは、司令塔の田村優選手が浮沈を握りそう。

「優は能力が高い。ワールドカップまでに、いいパフォーマンスを一貫して出せるようレベルアップできればいいんじゃないですか。前回大会ではあまり試合に出られず悔しい思いをしているかもしれませんが、いまリーダー的なポジションについている。プレッシャーも感じているでしょうが、あいつはプレッシャーにも動じず図太くやれるタイプだと感じます」

――直接指導した経験のある沢木さんから見て、田村選手が「いいパフォーマンス」を出せる時の条件はありますか。

「どうだろう。やっぱり、集中をしていて、余裕を持っている時じゃないかな」

――では、いまのラグビー日本代表も、田村選手に余裕を与えながら戦いたいですね。

「(試合中は)間違いなく優のところにプレッシャーが来る。だから優のところだけにプレッシャーが行かない、相手のプレッシャーを分散させるような試みも大事になります」

――たとえば、彼が最初にボールを持たない攻撃オプションを用意するとか。

「………少しわかりにくいと思いますが、細かいことはいっぱいあるんですよ。例えば、相手ボールキックオフの後に自陣から優がキックを蹴る時。相手の優へのプレッシャーを分散させるには、9番(スクラムハーフ)からもフルバックからもキックがあると思わせなきゃいけない。相手国は必ず、『こっち(左右どちらか)にキックオフを蹴った後は田村がキック(蹴り返す)』『あっちに蹴った時は田中(史朗=スクラムハーフ)からのキック』といった風に分析してくる。それに対してジャパンは、キックじゃない(相手の分析の裏をかく)オプションを作ることでプレッシャーを分散させ、自由な状況で優に蹴らせたい。…そういう、細かいことはいっぱいあるんです」

前回大会では、日本代表のコーチング・コーディネーターとして、エディ・ジョーンズHCを支えた
前回大会では、日本代表のコーチング・コーディネーターとして、エディ・ジョーンズHCを支えた

――フルバックでは松島幸太朗選手がいます。ウイングでの起用もありそうですが。

「マツはフルバックの方がいいんじゃないか、と、僕は思います。チャンスメイクもできるんでね。ただ、いまのラグビーでは、フルバックもウイングの両方ができなきゃ。スキルフルなウイングがいなきゃいけない」

――その意味では、ウイングの山田章仁の落選は話題になりました。過去の経緯を踏まえれば、本番で活躍を……。

「すると思いますよ。経験、ありますからね。前回もワールドカップ前までは、いちばんテストマッチ(代表戦)に出ていたのは藤田(慶和)と(福岡)堅樹なんですよ。ただ、インターナショナルの舞台で誰が活躍できるウイングだったかと言えば、当時はマツと山田だったんです(4試合中2試合で2人揃って先発)」

――ここからは、本番で戦う相手についてのお話を伺います。日本代表はロシア代表、アイルランド代表、サモア代表、スコットランド代表と順に戦います。まずは、格上として注目されるヨーロッパのアイルランド代表、スコットランド代表について。

「今年の欧州6カ国対抗(6N)で、アイルランド代表はキックの使い方に制限をかけていたと思います。色々と駆け引きしているんじゃないですか。ワールドカップに向けて。スコットランド代表は去年までと今年でデータが違う。アンストラクチャー(セットプレーを介さない攻防)の比率が増えています」

――両国は毎年2~3月、6Nに出場しています。アイルランド代表の状況に触れる限りでは、今年の6Nから日本代表が参考にできる点は限られるのでしょうか。

「6Nとワールドカップから受ける印象は大きく変わらないと思いますが、新しい顔(側面)が出てくるのは間違いない」

――日本代表としては、相手が色々なものを隠しているゲームからその相手の本質的な特徴を抽出して対策を練る。攻略の糸口はどこから見出すのでしょうか。

「どういうメンバーで来るかによって戦い方も違う。例えば10番(スタンドオフ)が代わればキックの精度も違うし、フルバックが代わればハイボール処理の精度も変わってくる。ラインアウトのコーラーが代われば、もしかしたらゲーム中にパニックになるかもしれない。2015年の頃は、そういうところも細かく見ていました。自分たちで準備できる情報を――選手に伝えるか伝えないかは別として――コーチ陣は持っていました」

――では、上位国の脅威となり得る選手は。

「アイルランド代表だったら、ジョナサン・セクストン。バックスリー、センターも強い。選手たちの特徴、弱みは理解しておきたいですよね。キーマンに強みを出させないようにしたい。もちろん、そういう作業はやっていると思いますけど」

――いい時のセクストンさんは、何をされたら嫌なのかが見えづらいような。

「6Nではパスを投げた後にタックルに入られているなど、細かいプレッシャーはかけられていた」

――ロシア代表、サモア代表も甘くはない。

「ロシア代表は普通にやれば普通に勝てます。サモア代表はワールドカップに出てくるメンバー(次第)でチーム力が大きく変わってくるし、簡単に勝てるということはないですが、しっかり自分たちのラグビーをやれば勝てるチームではあります」

――最後に、少し先の話になりますが、W杯後の日本代表は、どのように強化していけばよさそうですか。

「どうするんですかね。ただ、あと1年あるサンウルブズ(日本唯一のプロクラブ。2020年まで国際リーグのスーパーラグビーに在籍)はしっかりしたメンバーで行った方がいいと僕は思います。スーパーラグビーの開催時期は(国内の)トップリーグと被ってしまっているけど、せっかく高いレベルでやれるチャンスがあるのなら、日本のチームとして日本人が成長できる環境、仕組みがあった方がいい。ベストの選手で臨まないのはすごくもったいないです」

W杯期間中は、多くの試合での解説をするという沢木氏。マニアックな解説にも期待が高まる。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

  • 撮影志賀由佳

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