2年後のプロ化を目指す日本ラグビー界でNTTコミュが新たな試み
指導からのファンの掘り起こしが、まだ見ぬ社会人ラグビーの制覇につながる。
日本最高峰のトップリーグに所属するNTTコミュニケーションズが、なじみの薄い関西で、初めてのラグビークリニック(教室)を開いた。対象は中学生である。
講師や運営はこの地方に縁のある7人(社員選手6とスタッフ1)があたった。
光井勇人(はやと)天理→近大
庵奥翔太(かぶと)常翔啓光→日大
湯本睦(あつし)東海大仰星→東海大
喜連航平 大阪桐蔭→近大
山口達也 常翔学園→立命大
安田卓平 同志社→同大
野口岬希(みさき)伊奈学園総合→近大
最年長は光井。入社5年目のスクラムハーフは笑顔を浮かべた。
「ラグビーを教わりたいという真剣さが伝わってきて、僕たちも楽しかったです。これまでやってきたことをアウトプットでき、僕たちにとってもいい経験になりました」
鮮やかな青色ジャージーをまとうチームの本拠地は千葉・浦安。地元でのクリニックや小学校回りはすでに数をこなしている。今回はそれを初めて地方に広げる。
チーム名・シャイニングアークスが選んだのは東大阪。「ラグビーのまち」をうたう市は花園ラグビー場を抱えている。
9月20日に開幕する日本初のワールドカップでは予選4試合が予定されている。
その東大阪にある近大に8月23日、市内にある26の中学の内、ラグビー部を持つ全14校から約300人が集まった。
予想よりも人数が多かったため、午前11時と午後2時開始の二部構成になった。
タイトルは『第一“会”ひがおでGO!GO!アークス‼』。この「ひがお」は地元で使われる東大阪の略称である。
「回よりも会うっていう意味の会の方がいいと思って変えました」
紅一点、チームでは広報などを担当する野口は説明をする。
プロップの庵奥は胸を張った。
「名前を考えたのは僕です」
フッカーの山口は最初のあいさつで中学生たちの緊張を解きほぐす。
「メンバーって気軽に声をかけてね」
アイドルグループ「TOKIO」の元メンバーと同姓同名を生かした。
1時間30分のクリニックは人工芝グラウンドを使い、1対1のコンタクト、2対1のパス、4対2のランなど3つに分かれ、参加者は順番にすべてをこなした。
「攻撃側の人はボールを持っていない時の動きに責任を持ってね」
フルバックの安田とともに、ランを受け持った喜連はアドバイスを送る。高校時代から世代屈指のスタンドオフのひとりだ。
3か所練習の後はフォワードとバックスに分かれる。フォワードはラインアウト、バックスはラインアタックなどをこなした。
小阪中から参加した谷直優(なおひろ)は2年生ウイング。トップリーガーに会えたよろこびをはにかみながら表現した。
「楽しいです。うれしいです」
この中学のOBにはフッカーで日本代表キャップ44を持つ木津武士(日野)がいる。
石切(いしきり)中の顧問で保健・体育教員の山本篤志は感謝を口にする。
「関西出身の子らが帰ってきてくれて、こういうことをやってくれるのは、子供たちにとってありがたいことですね」
33歳の山本は日本レフェリー界のホープ。B級から最上のA級入りをうかがう。英田中時代にはスクラムハーフの湯本を指導した。
この日、クリニックがあった近大の出身者は7人中3人。後輩たちのためもあって協力した近大ディレクターの神本健司は話す。
「提案があっていいことだと思いました」
7人は前日の21日に関西入り。大阪・堂島の西日本営業本部や神戸、京都の支社を回った。社内におけるPR活動も怠りない。
1976年(昭和51)創部の通称「エヌコム」が目指すのは初のトップリーグ優勝だ。
この8月に終了したカップ戦は、6チームずつ4つに分かれたプールBの2位。勝ち点で東芝を上回れず、決勝トーナメントに進めなかった。それもあって、来年1月から始まるリーグ戦に向け、応援を力に変える動きを始めている。
チームは2010年度からこのリーグで戦い始めたが、これまで9シーズンの最高位は2016、2018年度の5位。さらに上を目指すため、積極的な強化を進めている。
新外国人では、世界最高フッカーと言われる南アフリカ代表のマルコム・マークスを獲得。白血病を克服したオーストラリア代表のクリスチャン・リアリーファノも得た。センターの位置などでラインを自在に動かせる。
バックスとして複数のポジションをこなせる南アフリカ出身のシルヴィアン・マフーザも加入。快速のバックスリー、韓国代表の肩書を持つ趙容興(チャン・ヨンフン)はすでにカップ戦に出場している。
日本代表ウイングで、国際ゲーム出場のキャップを25持つ山田章仁も今年4月、パナソニックから移籍した。決定力は高い。
オリジナルのメンバーでは、日本代表のナンバーエイト、アマナキ・レレィ・マフィがいる。フランカーの金正奎(キン・ショウケイ)、スタンドオフの小倉順平らの日本代表経験者も円熟味を帯びる。
その状況下における未知の地域でのクリニックだった。光井は言う。
「これから2回、3回と続けていけるようにしたいですね」
関東だけではなく、全国にチームを知ってもらう。ファンを掘り起こし、距離を近づける。頑張ってほしい、勝ってほしい、という念をもらう。それはチームの躍進において、練習と同じくらい不可欠なものだろう。
- 取材・文・撮影:鎮勝也