大学ラグビー開幕 選手権連覇のプレッシャーに挑む「明治の強さ」

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2019年1月2日に行われた大学ラグビー選手権準決勝、早稲田戦での山沢京平。山沢の兄はパナソニックに所属するラグビー選手

前年度、全国大学選手権で22年ぶり13度目となる優勝を決めた明治大学ラグビー部(明大)。就任2年目の田中澄憲監督の観察眼と選手間の密な対話により、今季も勤勉な集団を作っている。

8月31日、長野・サニアパーク菅平。加盟する関東大学対抗戦Aの初戦で筑波大学を59―33で制した。選手たちがミスで主導権を渡した時間帯を反省するなか、田中監督は「開幕戦は勝つことが大事。多少は硬くなると思っていたので、内容はともかく勝ち切れたことが評価できます」と総括した。雑味のない言葉で未来を表す。

「イーブンボールを自分たちのものにする、痛い部分(身体のぶつけ合い)から逃げない…。そこを突き詰めることが大事です。うまく戦う方法はシーズン終盤になってもできる。いまはラグビーの根本を成長させたいと思います」

明大卒業後に入ったサントリーでは、現イングランド代表監督であるエディー・ジョーンズ氏が指揮していた時期に選手や採用担当として活動。すでに世界的名将と謳われていたジョーンズの仕事ぶりを思い返し、「ベテラン選手にいろんなことを聞いて、何かあったらメモっているんですよね。常に勉強熱心で、常に考えています」。観察すること、学び続けることを仕事の軸に据える。

 フッカーの武井日向主将曰く、「(田中監督は)春は個人のベースアップを……など、ビジョンを示してくれる。成果も現れているので自信になっています」。寮の壁には、練習で身に付ける要素を表すキーワードを張り付ける。グラウンドに出れば、身体的負荷をかけながらも適切な状況判断を求める。

「面白いですよ。リーダー以外で誰が重要な選手となるのかを観察し、チームをどうまとめるかを考えるのは」

早朝練習前から夜遅くまで現場に目を光らせてきた結果が、ヘッドコーチに就任した一昨季の大学選手権準優勝であり、陣頭指揮を執った昨季の大学日本一だった。優勝した昨季の主将でスクラムハーフの福田健太(現トヨタ自動車)は、対抗戦で2敗して選手権に入る際に田中監督からいくつかの言葉を授かった。心が震えた。

「お前が一番、勝ちたいという気持ちを忘れるな」

「選手全員が主将であるお前のパフォーマンスを見ている」

今年の春シーズンは、対外試合で白星を重ねる。特に6月2日は、一昨季まで大学選手権9連覇の帝京大学に千葉での招待試合で35―17と快勝。1対1の強度、タックル後の起き上がりといった「根本」で際立っているように映った。

しかし指揮官は、表面的な結果に左右されなかった。

「相手のチームができ(あがっ)ていないところで何となく勝っていた部分もある。どこかで、気づけるタイミングがあればいいな……」

その「タイミング」がやってきたのは8月21日。菅平での夏合宿中だった。

慶應義塾大学(慶大)との練習試合を46―54で落としたのだ。特にレギュラー組の揃った前半は、17―49と大差をつけられた。

慶大は春から夏にかけてのゲームではやや負けが込んでいたものの、明大にとっては昨季の対抗戦でも負けている難敵。今度の夏も気圧された格好の明大にあって、3年生ロックの片倉康瑛は「準備不足。それまでは連続でトライされたこともなかったので、パニックになってしまって…」と振り返る。

試合後、取材に応じる明治大学の田中澄憲監督(右)と武井日向主将

もっとも田中監督は、この黒星を歓迎すべき壁と見ていたようだ。開幕節までの日々を菅平の合宿施設で過ごすなか、部員たちの姿に手応えを掴む。

「負けを前向きに捉え、選手同士で毎晩のように集まって。僕はこのチームに(フルタイム指導者として)関わって3年目ですが、選手間のコミュニケーションが最も見られる合宿になりました」

選手間の即席ミーティングは、練習時間外に頻繁に行われた。4年生ウイングの山村知也副将は「合宿ではラグビーに向き合える時間が増えるので」と、慶大戦の結果に関わらず多くの話し合いの場を持つつもりだった。

武井主将は1年時からレギュラーを張ってきて、「試合中は自分たちで(課題を)修正しないといけない。だから、(普段から)選手同士で考えることが大事」と肌で感じていた。だからこの夏、下級生レギュラーと視点をすり合わせられたのがありがたかった。 

なかでもスペースへのキックとランが鋭い3年の山沢京平は、今季務める司令塔のスタンドオフという立場から、相手の数手先を読んだような思考を提示。武井主将は耳を傾けるたびに「(ひとりで)映像をよく見てきているな」と感心する。

山沢自身はこう語る。

「相手と自分で、思っていることが違う場合も絶対にある。自分の言いたいことはいうようにはしています。逆に相手の思うことも聞いて、どっちがいいかを考えたり、お互いにとってプラスになるように(結論を)持って行ったりも。両方の意見というものは、凄く大事だなと思います」

まるで、部活動を通じて人間関係の築き方を学んでいるようだと水を向けられると、山沢は笑った。

「人間性も、学ばなきゃいけないので」

今年は4年に1度のラグビーワールドカップが日本であるため、日本の大学楕円球シーズンでも変則日程が組まれている。キャンプの聖地とされる菅平で開幕節があったのもその流れで、明大も9月8、15日と2連戦したのち、次の試合を11月4日まで待つ。

ここで注目されるのは、公式戦がない時期の過ごし方だ。シーズン再開後は強豪校との大一番が続くとあり、前例のない休止期間の過ごし方は部の命運を分けるかもしれない。

田中監督は「コーチ陣同士では、中断期間に何をするかの話は終わっています。何をするかは言えませんが」と先を見据えている。昨季の選手権決勝を戦った天理大学と、練習試合を組んだ。

「連覇というプレッシャーからは逃れられない。それをエネルギーに変えて、今年の日本一を目指していく。そんなイメージですかね」

武井は「ラグビーが注目されるなかでラグビーができるのは、幸せなこと」と溌剌。ワールドカップをきっかけラグビーに親しんだファンに、自分たちのファンにもなってもらえたら嬉しい。

  • 取材・文向風見也

    スポーツライター。1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとして活躍。主にラグビーについての取材を行なっている。著書に『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』(双葉社)がある

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