祝優勝! 履正社監督が明かすライバル投手に勝つための3つの戦略
センバツ高校野球で完封負けを喫した星陵・奥川を攻略するために編み出した「必勝プラン」
「今春の『センバツ』星稜戦では、相手投手の奥川君に17三振を奪われ、安打もたった3本と完封負けを喫しました。リベンジを狙い臨んだ6月の練習試合でも、4安打に抑え込まれた。いままで奥川君よりレベルの高い高校生投手は見たことがない。どうにかして彼を攻略しなければ、優勝はないと思っていました」
8月22日、第101回全国高校野球選手権大会決勝が行われ、岡田龍生監督(58)率いる履正社高校(大阪府)が、剛腕投手の奥川恭伸(やすのぶ)(18)を擁する星稜高校(石川県)を破り、初優勝を果たした。26歳で履正社の監督に就任して以来、岡田監督の甲子園での最高成績は準優勝。今年こそは優勝を成し遂げたい――そんな思いで彼が編み出したのが、”打倒奥川”を目指す3つの戦略だった。
あの逆転3ランも戦略通り
「1つ目の戦略は、どんな球種が来てもバットの芯に当てる練習を始めたことです。5つある打撃練習用のケージから、それぞれ150㎞の球や130㎞の球など、異なる速さの球を出す。選手は、『この150㎞の球に対しては外野フライを打とう』『この遅い球は右方向へ打とう』などと、あらかじめ決めて臨みます。この練習によって、奥川君が使い分ける多様な球種に対応できるようになったのです」
履正社は決勝までの6試合で計46得点を挙げ、1回戦の霞ヶ浦(茨城県)戦では大会タイ記録となる5本の本塁打を放った。絶好調で迎えた決勝。ここでスタミナ不足に陥らなかった理由は、戦略2つ目のウエイトトレーニングにあった。
「例年、冬場はウエイトトレーニングで身体を大きくし、3月からは技術練習主体に切り替えます。ただ、そうするとせっかく付けた筋力が夏場にダウンしてしまう。そこで今年は週2回のウエイトトレーニングを夏まで継続することにしました。それが功を奏し、奥川君が投げるスピードボールにも負けない、力強いスイングができるようになったのです」
奥川に打ち勝つための最後の戦略は、低めのボールを「捨てる」ことだった。
「決勝までに奥川君と対戦した打者を分析すると、スライダー、フォークボールなど低めのボール球を振らされていた。それなら思い切って高めを狙っていこうと考えた。速球投手の高めのボールは球威があって打者が振り負けることが多いのですが、幸い、ウエイトトレーニングのおかげでウチの選手たちにはパワーがある。事実、奥川君の速球に対し、打者はしっかりとバットの芯に当てることができていた。『これは戦える』と思いましたね。3回に井上広大(こうた)が放った逆転3ランホームランや、勝ち越し打となった8回の野口海音(みのん)によるタイムリーヒットは、いずれも高めの球を狙ったものでした」
3つの作戦により岡田監督はついに、3度目の決勝戦で初の優勝を勝ち取った。
「優勝した瞬間、32年前に履正社の監督に就任したときからの教え子の顔が次々と浮かんできました。就任当初はまともなグラウンドがなく選手も集まらないなか、甲子園出場を目標に一心不乱にやっていた。そうしたことが走馬燈のように頭に浮かんで……本当に感無量です」
そんな岡田監督が選手のコンディションや成長を把握するために利用しているのが、「選手ノート」だ。一冊のノートに、選手がその日の反省や今後の目標を書き込む。それを読むことで、監督は選手の悩みや、一人ひとりに何が足りていないかを理解することができるという。
「監督に求められているのは、選手一人ひとりをしっかり観察して、その子に合った方法を教えたり、言葉をかけてあげたりすること。昔のように指導者の考えを押し付ける教育はもう通用しません。私は毎年、選手と親御さんに個別面談をしていますが、そうしてコミュニケーションを取ることで信頼関係を築いています。加えて、世間やネットの世界に溢(あふ)れかえっている情報の中で、本当に必要なものを取捨選択する大切さを選手に教えてあげることも大切です。いまは、野球技術一つ取ってみても、ネットにさまざまな記事がアップされていますからね」
念願の目標を達成した岡田監督。次に見据えるのはもちろん、甲子園連覇だ。
「履正社には野球部の寮がありません。通学バスの本数も限られているため、平日の練習は3時間しか取れず、長時間の練習ができる環境ではない。特待生制度を使って、全国から有望な選手を集めているわけでもない。それでも目標は再び日本一。新チームでも頂点を目指します」
岡田監督の新たな挑戦が始まった。
『FRIDAY』2019年9月13日号より
- 撮影:加藤 慶(1枚目写真)
- 写真:時事通信社(2枚目)、岡田監督提供(3枚目)