規定投球回到達がわずか4人! 分業制で揺らぐ「先発の価値」再考 | FRIDAYデジタル

規定投球回到達がわずか4人! 分業制で揺らぐ「先発の価値」再考

パ・リーグの先発陣に起こった異変! 新たな「ランキングの指標」が必要になってきた。

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パ・リーグ防御率トップの有原航平(日本ハム)。が、規定投球回をクリアしている投手はたった4人しかいない(9月5日現在)
パ・リーグ防御率トップの有原航平(日本ハム)。が、規定投球回をクリアしている投手はたった4人しかいない(9月5日現在)

規定打席、規定投球回数という考え方

野球というスポーツの楽しみをより奥深いものにしているのは「記録」だ。それもホームラン何本、何勝という積み上げ型の記録だけではなく「率」の記録が考案されたことで、野球の指標は複雑になり、選手やチームを比較し、吟味する楽しみが多彩になった。
「率」は、一般的には分母が小さいほうが数字がよく跳ねるから、良い数字を出すことが容易になる。打率で言えば、同じ3割でも、400打数で120安打を打つより、20打数で6安打を打つ方が、一般的には易しい。
「率」のランキングをするときに、小さな分母の選手と大きな分母の選手を同列に並べるのは不公平だ、ということになって打者は「規定打席」、投手は「規定投球回数」というものができた。打者の打率、出塁率、長打率(そしてそれを合成したOPS)や、投手の防御率、WHIPなどの数値はそれぞれの「規定」をクリアした選手のみが比較の対象になる。
この「規定」の線引きは、紆余曲折があったが、打者の規定打席はトップリーグはチームの試合数×3.1、マイナーリーグは2.8、投手の規定投球回数はチームの試合数×1と決まっている。今のNPBの場合、規定打席は「443」、規定投球回数は「143」だ。

パの先発投手陣に起こった異変

防御率は、9回完投すれば平均で何点取られるか、という数字であり、投手の最も重要な指標の一つとされる。毎年、規定投球回数以上の投手で防御率が最も低い投手が「最優秀防御率」のタイトルを獲得してきたのだ。
これまでどのチームでもエース級の1~2人が規定投球回数に達していた。規定打席到達者ようにリーグに30人もいることはなかったが、毎年10数人が防御率争いをしてきた。
ところがここ数年、規定投球回数に達する投手が激減している。
昨年はセ・リーグは9人、パ・リーグは8人。ソフトバンクなどは、誰も規定投球回数に達した投手がいなかった。
今年はさらにこの傾向が進み、セは9人、パはなんと4人だ。日本ハムの有原航平、ソフトバンクの千賀昂大、オリックスの山岡泰輔、楽天の美馬学だけ。西武とロッテは規定投球回数に達した投手がいなかった。
それでも防御率1位のタイトルは決まるが、たった4人の争いでは、賞としての価値観が揺らぐ感じがする。
この背景には、投手の先発、救援での分業が進んだことがある。また昨今はオープナーのように短いイニングで降りてしまう先発投手も現れた。
そしてパ・リーグは、楽天の則本昂大、日本ハムの上沢直之、ソフトバンクのバンデンハークなど毎年規定投球回数に達していた先発投手が故障などで戦線離脱している。
また今年の前半は、オリックスの山本由伸、ロッテの二木康太など、勢いのある先発投手がでてきたが、夏場に差し掛かって多くが脱落した。
7月末時点で規定投球回数以上の投手は9人いたが、8月を過ぎると4人になってしまったのだ。8月のパのリーグ打率は.270.防御率は4.22。極端な打高投低で、投手が長いイニングを投げられなくなったのだ。

規定投球回数ぎりぎりしか投げていない昨今の先発

今年のパ・リーグはちょっと極端ではあった。若手投手が伸びてきているから、来年はもう少し増えるとは思われる。
しかし長期的に見れば、規定投球回数入りする投手が減少する傾向はさらに進むと思われる。
今のNPBの球団は6人の投手でローテーションを回している。NPBの試合編成は原則として週に6勤1休。投手は1週間に1度投げることになる。すると1人の先発投手の登板数は23~24試合。完投すれば207~216回だが、今はQS(クオリティスタート・6回以上投げて自責点3以下、先発投手の最低限の責任とされる)が基本だ。24試合先発登板する選手がすべてQSだったとしても144回にしかならない。規定投球回数は143回だからぎりぎりなのだ。
つまり、今の規定投球回数以上の投手は、シーズン中ほとんど怪我や故障がなくて、ほぼQSをキープできた一握りの投手だけなのだ。

新たなランキングの仕方を考えてみる

では、規定投球回数はどうすればよいか。今の試合数×1を見直して試合数×0.8にすればどうなるか?
今年9月5日時点のパ・リーグに当てはめるとこうなる。

1山本由伸(オ)16試6勝4敗117.2回 防御率1.84
2有原航平(日)21試13勝7敗145.1回 防御率2.29
3千賀滉大(ソ)22試11勝7敗151.1回 防御率3.09
4高橋礼(ソ)19試11勝3敗118.2回 防御率3.11
5大竹耕太郎(ソ)17試5勝4敗106回 防御率3.82
6石橋良太(楽)25試7勝6敗107.2回 防御率3.85
7山岡泰輔(オ)22試10勝3敗141.1回 防御率3.88
8美馬学(楽)22試7勝4敗130.2回 防御率3.99
9二木康太(ロ)20試6勝9敗121回 防御率4.17
10辛島航(楽)24試8勝5敗104.2回 防御率4.21
11髙橋光成(西)20試10勝5敗117.2回 防御率4.36
12今井達也(西)19試6勝9敗116.1回 防御率4.64

12人いる。これなら何とか格好はつく。しかし、問題もある。今年のパにはいないが、昨年の巨人、菅野智之のように200回を投げる投手がしばしばでてくる。規定投球回数が試合数×0.8になれば、そういう投手と114回と半分近い投球数しか投げていない投手を同列で比較することになる。不公平だという話も出て来よう。
また、将来、投手の分業がさらに進めば、0.8でも難しくなる可能性もあるだろう。

もう一つの考え方としてPR(Pitching Run)という指標がある。これは(リーグ平均防御率―その投手の防御率)×投球回÷9で求められる。

より優秀な防御率でより長く投げた投手が上位に来る。PRのメリットは投球回数に関係なく投手の比較ができることだ。
先発、救援を一緒に比較できるが、先発投手のランキングにしたいのなら先発登板だけに絞り込めばよいだろう。チーム試合数の1割以上の試合で先発登板した投手の先発の成績に限定して比較すればよい。
同じく9月5日の12先発以上のパ投手のPRランキング。リーグ防御率は3.94。

1山本由伸(オ)27.46(16先発6勝4敗117.2回 防御率1.84)
2有原航平(日)22.72(20先発12勝7敗126.1回 防御率2.44)
3千賀滉大(ソ)14.29(22先発11勝7敗151.1回 防御率3.09)
4高橋礼(ソ)10.94(19先発11勝3敗118.2回 防御率3.11)
5種市篤暉(ロ)4.03(14先発7勝2敗82.1回 防御率3.50)
6岩下大輝(ロ)2.94(17先発5勝3敗91.1回 防御率3.65)
7岸孝之(楽)2.92(12先発2勝5敗73回 防御率3.58)
8石橋良太(楽)2.64(16先発5勝5敗95回 防御率3.69)
9加藤貴之(日)2.38(19先発5勝5敗74回 防御率3.65)
10金子弌大(日)1.95(16先発5勝6敗73回 防御率3.70)
11大竹耕太郎(ソ)1.41(17先発5勝4敗106回 防御率3.82)
12山岡泰輔(オ)0.94(22先発10勝3敗141.1回 防御率3.88)
13K-鈴木(オ)0.79(16先発3勝5敗88.2回 防御率3.86)
14石川歩(ロ)0.38(14先発5勝3敗85.1回 防御率3.90)
15美馬学(楽)-0.73(22先発7勝4敗130.2回 防御率3.99)
16ミランダ(ソ)-0.83(17先発7勝4敗82.2回 防御率4.03)
17二木康太(ロ)-3.09(20先発6勝9敗121回 防御率4.17)
18辛島航(楽)-3.15(16先発7勝5敗88.2回 防御率4.26)
19涌井秀章(ロ)-5.32(17先発3勝7敗99.2回 防御率4.42)
20髙橋光成(西)-5.49(20先発10勝5敗117.2回 防御率4.36)
21ボルシンガー(ロ)-5.60(17先発4勝4敗90回 防御率4.50)
22松本航(西)-5.66(13先発6勝3敗67回 防御率4.70)
23十亀剣(西)-7.19(15先発4勝6敗86.1回 防御率4.69)
24今井達也(西)-9.05(19先発6勝9敗116.1回 防御率4.64)
25多和田真三郎(西)-13.93(12先発1勝6敗66.1回 防御率5.83)

この基準だと25人の先発を比較することができる。上位の顔ぶれは変わらないが、一時期だけ活躍したロッテの種市や岩下などの若手もランクインする。
今は故障で戦線離脱しているが、オリックスの山本の今季の傑出度も数字で見ることができる。

やや計算が複雑だが、今のところ、このやり方が一番ではないかと思う。

スポーツは生き物だ。野球も日々変化しながら生き続けている。だから、こういうことも起こる。その変化を楽しみながら、いろいろ考えるのも実は「野球記録の楽しみ」の一つなのだ。

 

  • 広尾 晃(ひろおこう)

    1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイーストプレス)など。Number Webでコラム「酒の肴に野球の記録」を執筆、東洋経済オンライン等で執筆活動を展開している。

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